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  4. 教員養成の高度化に挑む―兵庫教育大学の教員養成改革―
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教員養成の「高度化」とは

Q:学部レベルの教員と修士レベルの教員の違いについてどのようにお考えですか。

本学の学部卒業生のうち、どれくらいが教員になっているかというと、大学院生と保育士になった者を除いた場合、幼小中高の教員になった者は92・2%にのぼります。本来であればそれで一人前とみなされるべきなのですが、そうではないということで中教審で審議が行われ、昨年、答申が出されました。

Q:何が足りないとお考えですか。

採用後に受ける初任者研修は、明らかに実践面に重きを置いています。修士レベル化するのであれば、学部を卒業してさらに2年間、実践力を身に付けながら理論を学ぶという形で専門性を高めることになると思います。より即戦力に近づけるということです。今の初任研のみでは「学び続ける教師」としての基盤づくりは難しいと思います。

Q:学校の実務的な部分も、プラス2年間で学んでいくということですか。

そうあるべきだと思います。だから実習は長期にわたり、滞在型で行います。例えば週のうち3〜4日、朝から夕方まで連続して学校に行くことを数か月間続けます。場合によっては複数校実習で、学校行事や様々な運営にも当然関わっていくことになります。

Q:保護者への対応や生徒指導といった部分にも関わるということでしょうか。

ストレートマスターの場合、あくまで実習生の立場ですので、そこへの学校側の配慮、制約はあると思いますが、できるだけ関わっていくのが望ましいと思います。

Q:修士レベルの教員は初任研を受ける必要がないとお考えですか。

そうならないと意味がありません。修士レベルの授業は、現在の初任研で行っているような内容を取り入れつつ、さらにレベルを上げたものを身に付けさせることを当然目指さなければいけない。

Q:ストレートマスターでやるのか、いったん教員を経てから現職の身分でやるのかいう議論があります。どのようにお考えですか。

本来であれば、学部卒業後すぐに大学院に入り、そこで高度な専門性、実践力を培ってから現場に入るというのが一番よいと考えます。その場合、大学院を修了した人がほぼ確実に就職できるような制度でないといけません。ただ、学費の負担などの問題もあります。これが難しいのであれば、いったん就職して、初任研のような形で大学院に在籍して2年間みっちりやっていくという方法です。この2つのどちらかが望ましいと思います。
  一定期間教職を経験した人が大学院へ行くことも必要と思いますが、ストレートで入った人、あるいは就職してすぐに入った人と中身が違いすぎるのです。

Q:教職大学院には新人教員の養成とスクールリーダーの養成の2つの機能があり、両方を受け入れています。

現在の教職大学院にも、学生同士の学び合いによる様々な気付きがあるといった両者を受け入れるメリットがたくさんあります。ただ、教職を経験した人は、現場に入って自分の強み・弱みを知っているので、問題意識も全然違います。修士レベル化の一環として考えるのであれば、基本的には別の形でやるのが妥当と考えます。また、10年くらい教職を経験した人が大学院に入るのであれば、専門免許状のような資格の枠組みで考えた方がいいと思います。

Q:教職大学院では現在、共通5領域を見直そうという議論があります。

共通5領域を学ぶことは有意義なことです。ストレートで入ったり初任研として来る学生には、特別支援教育やICT教育などをさらに充実させた内容で、必修として課すべきだと思います。ところが10年くらい教職を経験して来た人には、管理職になるために学校経営を深く学びたかったり、生徒指導を深く学びたいと思って来る人がたくさんいます。そうすると、現状では共通5領域に要する時間が足かせになっています。

Q:45単位中20単位です。

ベテランになればなるほど、「そんなのは私の方がよく知っている」ということもあります。教職大学院でもっと専門を深めたいというニーズのある人には、共通5領域の枠組みを柔軟化してもいいと思うのです。例えば、共通科目を全部やらせるのではなくて選択にすれば、その分を選択科目や実習など、自分が学びたいと思っている授業にあてることができます。

Q:教科の学習にあてることも考えられます。

教職大学院での養成は小学校が中心です。小学校は全教科ですから、現在の教職大学院は1つの教科を重点的に学習するようにはなっていません。今後、中高の教員の受け入れを考えた時、教科を選択科目として履修して、実践力と専門性を身に付けることになると思いますが、この場合も共通5領域が制約となります。生徒指導などの大事な部分は必修で課すことになりますが、全部やらせる必要はありません。理科や数学の、教科の専門性を高める方に時間を割くべきです。

Q:教科の学習における修士レベルはどんなものですか。

これまでの修士課程で行っているような、研究に偏った内容では駄目だと思います。高度な理論と、学校での実践を融合したような授業内容を、各教科で工夫する必要があります。

Q:修士レベル化に関わって、自民党が「教師インターンシップ」を打ち出しました。

「教師インターンシップ」は、大学院の実習として位置づけられるべきだと思います。大学院を修了した人は必ず就職できるような形にして。そのかわり、実習はかなり厳しい内容にする必要がありますし、実習がうまくいかない人の採用は難しいでしょう。

Q:それは厳しいですね。

「教師インターンシップ」を経て「本免許」を与えるということですから、考え方は同じだと思います。

Q:教員志望者が減りませんか。

今の状況の方がむしろ問題と考えています。今は開放制のもとでたくさんの人が教員免許を取っていますが、教員になれるのはそのうちの何分の1です。それよりも、6年間大学へ行く必要はありますが、そこで即戦力に近い力を付けた上で8、9割教員になれるということであれば、教員志望者はほとんど減らないのではないでしょうか。

Q:実習の規模は相当なものですね。

本当に教員になりたい人が、実習をやり切れる人が長期間行くということが前提になります。そうすると、大学院に入る段階でかなり厳しく選抜しなければいけない。

Q:受け入れ側の対応も必要です。

修士レベルの実習は、実習生を通して、大学が現場改善や現場貢献を行う側面をもたせるという方法が有効だと思います。つまり、現在の学部レベルの教育実習には、学生は学校にお世話になる、学校にとってはお客さんを受け入れるという見方が少なからずあります。言うなれば未熟な学生ですからね。
  しかし修士レベルでは、第一に「労働力」として期待されなければならないと思います。現場のいろいろな雑用を引き受けたり、子どもたちと一緒に遊んだり、先生の手助けをしたり。朝から晩まで学校にいるわけですから。それと同時に、学校現場が今抱えている課題を大学院へ持ち帰って学び、そこで理論と実践を科学的に摺り合わせて、また学校に戻り現場の先生方と一緒に課題に取り組みます。当然大学の先生もそこへ行き、支援を行います。

Q:教職大学院の成果が生かされますね。

実習生が現場の先生方に「戦力」として認められ、学校の改善につながるような成果を出していく存在と認識してもらえてこそ、大学と学校現場が一体となって、修士レベルの教員養成を担えるということになると思います。

教職大学院を全国にどう広めるか

Q:修士レベル化を広める場合、どのような工夫が考えられますか。

そうそうどこの大学もできるというものではないと思います。大学院での教員養成に一定の実績のあるところが中心となって、ほかの大学と協力する形にしないとなかなかうまくいきません。単独でやるとなったら、まず教員を揃えるのが大変です。お金もかかりますし。

Q:文部科学省の「大学間連携共同教育推進事業」で「教員養成高度化システムモデルの構築・発信」が採択されました

本学が中核となり、大学院に教職課程のある兵庫県内の国公私立大学が連携・協働して、修士レベルの教員養成モデルを構築します。共同でセンターを設立して、そこで長期の実習を一元的に担うとともに、教職科目を相互に提供しあったりする機能を持たせます。この事業で得られた成果は全国に発信していく予定です。

Q:大学の先生を集めるのは大変なのですね。

文科省の審査も年々厳しくなっています。審査をクリアするのも大変ですが、それ以前に、修士レベルの授業を展開することを考えた時、ぞれぞれの分野で高度な教育研究ができる人材は、そう多くありません。例えば教職大学院では実務家教員を揃えなければいけないと言われます。ただの実務家教員、つまり現場経験のある人は山ほどいますが、修士レベルの教育にふさわしい人と言ったら、そうはいないです。

Q:先生は日本教職大学院協会の会長を務められています。そこでの全国的な取り組みをお聞かせください。

毎年1回、学生の成果を持ち寄った交流会を12月に実施しています。ポスターセッションでは、例年発表者と参観者の間で活発な質疑が行われます。また昨年度は4大学がそれぞれの実践研究の成果を紹介するとともに、実際の授業を見せあいました。

Q:その場でですか。

学生にも来てもらって。それが教職大学院の教員にとってFDになるわけです。昨年度は試行的に行いましたが、今後は発表大学を公募して、一層力を入れていきたいと考えています。

Q:5年間の教職大学院を振り返って、全国に広めていくに当たっての課題はありますか。

教職大学院の設立には、既存の修士課程の必要教員数の1・5倍の教員数が求められています。しかも、そのうち4割は実務家教員です。今、国立大学で教育学部があるところは大学院に教育学研究科を持っていますが、その人数だけでは教職大学院の開設に足りません。1つには、既存の修士課程と同じ人数で教職大学院を作れるようにするというのが、現実的な方策として挙げられると思います。

Q:教員1人1人の意識改革も必要です。

それが一番重要です。国立大学では、国語専攻や理科専攻といった大学院の専攻に教科の先生が所属しています。そこには教科教育法の先生と教科専門の先生がいて、教科専門の先生には、例えば数学だと代数学、幾何学といった専門の学問があります。この先生方は、数学だったら理学部、国語だったら文学部といった専門学部の出身者が大半を占めています。

Q:そこへの帰属意識が高いということですね。

そういう人が教職大学院に来たとします。教職大学院では養成する人材像が決まっていて、そのためのカリキュラムが用意されており、それを履修すれば自ずとその人材が形成されるようになっています。そうすると、教える先生方も当然、そのことを理解していなければいけません。そのためには学生の情報を共有して、ほかの先生と協力して学生のための教育を展開していくという、協働性、同僚性が一番大事なのです。今までのように自分の研究だけをするのであれば、個人個人、銘々でいいわけです。あるいは、自分で作った授業だけで許されたわけです。

Q:教職大学院に限った話ではないと思います。

学部や今の修士課程で教える場合だって、本当はそうあるべきなのです。ただ、そういう性格が強いのが専門職大学院で、教職大学院ではさらに、ほとんどの授業を複数の教員で担当します。その複数の先生方が協力しあえるかどうかが成功の鍵を握るわけです。

Q:先生方の意識を変えられますか。

変えなければ必ず失敗します。「先生方の教育研究の自由はあります。だけど、同時に組織として、我々は学生の教育をするんだから、組織人になって、何を目指して教育しているかを理解して、カリキュラムを理解して、その中で協力していきましょう」という呼びかけを根気よく続けていきます。

Q:学長のリーダーシップが必要ですね。

教職大学院における教員の責任、果たすべき役割について、説得力をもって伝えられなければいけません。それができれば、自然と教員の間に協働性、同僚性を生み出す雰囲気が生じてきます。本学のように、学校での実務経験のある教員が多い大学は、比較的進めやすいと思います。

教員養成を担う人材の育成

Q:教員養成を担う人材の育成をどのようにお考えですか。

中長期的に修士レベル化すると仮定した場合、教員養成大学・学部の教員は全員、学校等での実務経験を持つべきと考えています。今、研究者教員と実務家教員を区別していますが、見方を変えれば研究者教員というのは実務経験がないということです。しかし、教員を修士レベルの高度専門職と見据えて、大学院で即戦力を養うのであれば、養成する側が学校現場を知らないとか、教育実践ができないというのでは話になりません。

Q:現状から大きく変わりますね。

さらに言えば、単に実務経験があるというだけではなくて、自分の経験を常にリニューアルしながら、新しいものを開発する力が求められます。学習指導要領は10年に1回変わりますし、子どもたちを取り巻く環境も目まぐるしく変化します。過去の経験則だけでは、いつの間にか通用しなくなります。

Q:大学の先生も学び続けるということですね。

本学の博士課程は現職教員が7割近くを占めています。自らの経験をベースに博士課程で研究力を身に付け、全国の大学に採用されていきます。教員養成を行う大学では、そういう人たちが今後増えていくと思います。
  誤解のないように申し上げておきますが、学校での実務経験のない教員が駄目と言っているのではありません。本学には、実務経験がなくても、現場の事情に通じ、現場との交流や現場のニーズを踏まえた教育研究をしている教員はたくさんいます。私もそうでした。本学に赴任してからそのような志向にかわり、自分の能力を広げたわけです。このような先生方に本学は支えられており、今後も重要な存在です。ただ、そうでない教員も一部に見受けられますので、そうした先生はもっと学校現場に目を向けたり、研究や授業のスタイルを変えていかないと、居場所が危うくなるかもしれません。

Q:ほかに、研究力と実践性を身に付けた大学教員を養成する方策はありませんか。

1つの案として「テニュアトラック制」の導入が有効だと思います。優秀な若手研究者を公正な選考のもと任期付の「テニュアトラック教員」として採用します。その間は十分な研究費が配分されて、自立した研究環境の中で研究に取り組むことが保証されており、任期中に優れた実績を残せば、その後「テニュア教員」として終身在職権が得られます。理系の大学・学部で導入が進んでいます。
   教育学部の場合であれば、5年間くらいの任期付で博士号と教員免許を持つ優秀な若手研究者を採用し、そのうちの3年間くらい、附属学校で、あるいは地域の教育委員会と契約を結んで公立学校に出向させ、現場で実務にあたってもらうのです。様々な実務経験を積むとともに、授業をして、自らの専門を深めてもらいます。そこで評価が得られれば、大学で正式採用します。人事制度上の問題をクリアして、できるだけ早く導入したいと考えています。
  先ほど述べた、現場経験がなくても現場交流や現場ニーズを踏まえた授業のできている研究者教員は、若いときであれば、抵抗なくこうした制度にチャレンジしたと思います。

Q:「私の研究は学校現場とは関係ない」ということはありませんか。

そういう意見が通じる教育大学もあるかもしれません。しかし本学のような教員養成大学で、現職教員も学びに来るような大学では、学校現場を知らないことには学生のニーズも捉えられませんし、現職教員とのコミュニケーションもままなりません。国の政策もそういう方向へ動いているので、そのままでいるというのは難しいと思います。

教育実践学による理論と実践の融合

Q:現職教員が大学院で何を学ぶかの研究も進んでいます。

現職研修プログラムの高度化を進めています。大学院で行う研修は、校内研修や教育委員会の研修と比べて、高度でなければいけないと考えています。最大の違いは、理論をしっかり学ぶということです。理論を学んだ上で、フィールドワークで得た材料や、学校現場でのこれまでの経験を解釈し直し、振り返ることを行います。

Q:教育実践学について教えてください。

本学は、学校教育に関する理論と実践を融合した教育実践学の推進をミッションの1つに掲げています。教育実践学という考え方がなぜ生まれたかというと、かつての教育学部での研究、教育は、学校現場と関係が薄く、それぞれの先生方が自分の学問領域を教えているという傾向が強かったのです。そういう中で本学は、35年前に新構想の大学として、学校現場の先生をより高いレベルに育てるとともに、学校現場の教育の改善や課題の解決に貢献することを目的に開学しました。本学では、現場で役に立つことを教えないと意味がないのです。そこで、学校教育の実践と理論を融合して研究するという学問が誕生しました。

Q:教育実践学ではどのようなことを学びますか。

学校現場における教育実践を改善、向上するために理論を活用するということです。現場の先生が積み重ねてきた実践事例を、本学で研究している様々な理論に照らし合わせていき、実践の意味内容を科学的に分析することで、新しい見方、解釈が生まれます。「あの時指導したことは、こういう意味合いを持っていたんだ」という発見もあるでしょうし、生徒指導について、心理学の知見から子どもの行動の意味を知ることもできます。理論を勉強していない人には解決が難しいようなことも、学校現場にはたくさんあります。

Q:大学院で研修を受けた現職教員はどのように変わりますか。

以前実施した教育実践学に関するシンポジウムで、ある教科について学んだ院生が、大学院では自分の担当する教科を俯瞰する力がついたということを言っていました。つまり、教科というのがどういう性格を持ち、どういう構造になっているかの見取り図を描けるようになったのです。教科書に例えれば、教科書の部分部分が教科全体の中でどういう意味を持っているかということが、大学院での学びを通してわかるようになったというのです。

Q:教科を構成する1つ1つの学問の関係ということでしょうか。

それがわかると、教科の内容についてそれぞれの学問との関連づけができるようになります。今教えている内容に何が足りないか気付くような力にも通じるので、教え方に深みも出てきます。

Q:そういう部分は大学院レベルでしか身に付きませんか。

大学院で長期間学ばないと身に付かないと思います。理論をしっかり勉強しないと身に付かないものだと思います。

Q:教育長を対象にした研修も実施しました。

全国から教育長を集めて、教育行政の改革動向について首長に話してもらったり、最新の経営理論や実践について講義を行いました。教育長同士のディスカッションが好評で、今の課題を話し合うことで、互いの問題意識を深めることができました。これまでそういう場がなかったということもあり、反響は非常に大きいです。今後は、教育長に求められる能力とは何なのかを検証し、その上で必要なカリキュラムの開発を行います。そして、教育長向けの研修プログラムを実施することも検討しています。

Q:教育長への研修が効果的と言われています。

100万人いる教員1人1人を変えていくのは大変です。それぞれを大学院に行かせて、1人1人レベルアップを図れればいいのですが、現実的にそれは不可能です。ではそれぞれの学校を変えるために、学校のトップである校長に変わってもらおうと考えましたが、それでも数万人というレベルです。さらにその上の教育長はどうかというと、全国市町村の数と同じで1800程度です。まず教育長の意識を変えることで、下の方の校長や教員1人1人を変えていってもらいたいと考えています。
  1800の市町村で新たに教育長に就く人が毎年約300人いるそうです。その300人を対象に、2、3週間の研修を実施していきたいと考えています。

 

(インタビュー=SYNAPSE編集部)

 

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