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1 国立教員養成系大学・学部の改革の方向性


  法人化第3期(平成28~33年度)を見据えた国立の教員養成系大学・学部の改革の方向性は、国立大学改革プランについての義本審議官の巻頭インタビュー、教員養成分野のミッションの再定義についての佐藤教員養成企画室長の解説から読み取れるように明確である。それは簡潔にまとめると、量的縮小、「新課程」の廃止、小学校教員養成課程への重点化、教員養成カリキュラムの実践化、教職大学院の拡充、修士課程の教職大学院への段階的移行となる。
  これは、戦後発足した国立教員養成系大学・学部に対して、これまでに経験したことのない劇的変化を迫っている。これまで何度かあった中教審答申などの政策文書による「言いっ放し」でもなければ、「嵐が去る」のを待つことで治まるものでもない。今回は国立大学全体の改革と連動していること、ミッションの再定義によって個別大学・学部の改革方向も公にされていること、また現政権が教育改革への強い意志とブレない強力な政策推進力を持つことを考えると、待ったなしで確実に実行されると考えるべきであるし、改革加速期間の現在すでにこの方向の改革が進行している。まさしく、国立教員養成系大学・学部の関係者に身を切る覚悟と改革への強い意欲、前向き志向が求められている。
  急激な少子化と教員採用減が予測され、国の財政難が切迫するなかで、国立大学の教員就職率は低迷し、小学校教員就職数でも私立大学が上回っている自治体が少なくない状況では、量的縮小は納税者には違和感はないと思われる。新課程の廃止は、これまでのいきさつから複雑な思いが国立大学関係者にはあるかもしれないが、国立大学の機能分化・強化という揺るぎない改革方針の下、やむを得ない。
  学校教育の課題が高度化・複雑化し、教員に高度な専門性と実践的指導力が求められていることから、大学院レベルの養成教育と現職研修が必要とされている。そのために、教員養成高度化の先導モデルとして導入され、実績をあげている教職大学院を全国に拡充すること、養成目的が曖昧で現場ニーズに応えてこなかった修士課程の教育研究の実践性を高め、段階的に教職大学院に移行することは必然的な改革方向といえる。
  このように量的縮小や大がかりな教育研究組織の再編成を求めるものではあるが、それぞれのミッションの再定義を実行し成果をあげれば、各大学・学部は存続しうることが約束されているということでもある。今後とも国立教員養成系大学・学部が教員の養成と現職研修においてナショナルセンターあるいは各地域のリージョナルセンターであるために、この改革方向を前向きにとらえて取り組む必要がある。そのためになすべき最重要事項は、私立大学では志向することがむずかしい教員養成教育の高度化の拠点として、教職大学院の設置ないし拡充と、それに向けての修士課程の教育課程の実践化と教職大学院への移行であるといってよい。以下、このことを推進する上でのいくつかの課題について考えてみたい。

2 教職大学院のカリキュラム改善

  教職大学院は平成26年度で創設後6年が経過する。この間の教職大学院の実践・実績については、中教審答申『教職生活の全体を通じた教員の資質能力の総合的な向上方策について』(平成24年8月)において、教員養成高度化(修士レベル化)のモデルとして高く評価された。また、本答申で提言された当面の改善方策を検討した協力者会議の報告書『大学院段階の教員養成の改革と充実等について』(平成25年10月)では、「引き続き高度専門職としての教員養成システムにおいてモデル的役割を担うもの」と位置づけられた。各教職大学院がそれぞれの強みや特性、地域性を生かして教育課程や指導法、現場との連携方法を創意工夫した成果といえる。
  モデル的役割を引き続き担うためには、上記協力者会議報告書の指摘にもあるように、理論と実践の融合・往還に一層の磨きをかけるために、共通科目など教育課程の絶えざる改善が必要である。特別支援教育やICTを用いた指導法、学校・地域連携など新しいニーズを共通科目に取り入れることや、初任者研修を教職大学院の単位とするための教育委員会との協議も進めるべきである。また、創設当初からの課題である現職教員とストレート院生の分離履修や教育内容、到達目標の差別化についても、各教職大学院において相当の工夫がなされているが、そうした取組を可能にする指導体制の拡充など引き続きの努力が求められている。
  同報告書で、これまでの教職大学院の教育課程の成果や課題を踏まえて、モデルカリキュラムの改訂版を作成することが求められた。そこで、文科省の先導的大学改革推進委託事業を兵庫教育大学が受け、全国の教職大学院担当者によって新しいモデルカリキュラムが作成された。その報告書『今後の教職大学院におけるカリキュラムイメージに関する調査研究』(平成26年3月)を参照されたい。

3 教職大学院への教科教育の取り入れ

  教職大学院の拡充を進める上での最大の課題は、教科教育を教職大学院の教育課程にいかに取り込むかということである。同報告書では、個別分野の学問的知識への偏りが指摘されてきた既存の教員養成系修士課程の教科教育専攻の教育課程と変わらなくなる恐れがあることなどから、各教科ごとに区分したコースや個別の教科内容を中心とした履修モデルを設けることは適切ではないとされている。しかし、教科なしの学校教育はあり得ないし、個別教科によって学校の教育課程は構成されている。当然ながら、教員には担当する各教科の本質を理解し、教材化や授業づくりを行う能力が必須である。高度専門職としての教員の養成システムのモデルである教職大学院において、個別教科が専門的・集中的に扱われないのは常識的に納得しがたい。
  要は、個別教科に特化することによって、教職大学院の目的である、学校現場を俯瞰的に見ることができ、その諸課題を広く構造的・総合的に理解する人材の育成を疎かにしないこと、そして既存修士課程の教科教育専攻の教育課程とは一線を画す、教科についての高度専門性と実践的指導力を育成できる教職大学院用の教科カリキュラム(専門科目、実習科目)を開発することである。現実には、既存教職大学院の学習指導コースや授業指導コースでは教科は扱われているし、たとえば兵庫教育大学教職大学院授業実践開発コースの実践研究論文ではほぼすべてが特定教科の教材開発や指導法を研究したものとなっている。
  文科省が本年8月に示した「大学院に専攻ごとに置くものとする教員養成分野の教員数」の改正案では、教科を含めた場合の教職大学院の教員数の基準や、教科領域に係るコース等を設けた教職大学院の組織イメージが示されており、教職大学院に教科をコース等として表出することは容認されたということができる。これから法人化第3期にかけて、教職大学院の教科教育法を専門とする教員が、教職大学院を担当する意欲・能力のある既存修士課程の教科専門の教員とも協力して、教職大学院の教科カリキュラムを開発することが切望される。

4 教職大学院担当教員の充実

  教職大学院の教員組織は、理論と実践の融合・往還を具現化した教育課程を実施できる陣容であることが必要であり、研究者教員に加えて4割以上の実務家教員を置くことが要件とされている。これまでは、実務家教員のイメージが必ずしも明確でないこともあり、実務家教員に求められる資質力量や実務性の有効期限、能力証明の方法、養成方法が論議されてきた。
  今後、教職大学院を新設・拡充する上で、求められる教職大学院の教員像を明確にしておく必要があると思われる。教職大学院の教員組織は最終的には、研究者教員と実務家教員の区別をなくし、教育課程や授業を開発・革新できる研究力と、学校現場の実務・実情を体現できる力の両面を備えた人材によって構成されるべきと考える。研究力ないし実務性の一面のみを有する人材で構成される組織よりも、両面の属性を有する人材で構成される組織の方が、理論と実践の融合・往還の浸透した組織文化と教育研究活動をより生みやすい。また、教員すべてが両面を有することは、教職大学院において理論と実践の融合・往還の教育研究活動が行われていることをもっとも強く保証することになると考えられる。
  両面を備えた人材を揃える方法は二つある。一定年数の実務の経験と実績を持ち、論文などで研究力を証明できる人材を採用すること、もう一つは博士号を取得した若手人材を仮採用するなどして、採用後に附属学校等で一定期間の実務を担当させることである。こうした仕組みづくりに取り組みつつ、当面は、純然たる実務経験者を教育委員会等との交流人事等で期限付きで採用することや、研究者教員に現場での指導経験を多く積んでもらうことを行うべきである。

5 教職大学院入学者の増対策

  教職大学院の拡充には、教職大学院への学部生と現職教員の入学意欲を高める措置を講ずることが決定的に重要である。当然ながら、教職大学院がいくら高い評価を得ても、教職大学院の新設・拡充による定員増に見合う入学者がいなければ、教職大学院は機能しているとはいえない。
  入り口の措置として、現職教員については大学院派遣等の研修定員増、ストレート院生については給付型奨学金の創設や教員採用猶予制度の拡充などが、出口の措置として、現職教員の修了生については「高度専門免許」付与の制度創設や修了後の処遇やスクールリーダーとしての活用法の明示、ストレート院生の修了生については一次試験免除などの採用上の優遇措置、初任研の免除や創設されるかもしれない「教師インターン」の教職大学院実習による代替などが求められる。いくつかは進みつつあるが、一層の加速が今後の教職大学院拡充の成否を左右するといえる。
  教職大学院と教育委員会との連携・協働は、教職大学院の教育課程編成や実習運営、実務家教員の人事交流など、多面的に進められるべきである。教職大学院の入学者選抜と修了者の教員への選考・採用についても連携・協働が行われれば、教職大学院入学への意欲を高めることに格段に貢献すると思われる。

6 修士課程の実践化

  上記協力者会議報告書において、教員養成系修士課程は学校実習を取り入れるなど教育課程の実践性を高めつつ、段階的に教職大学院に移行することとされた。修士課程の機能として存続できるのは、スクールカウンセラー等の心理専門職養成や養護教諭の養成、その他教職大学院にはなじまない社会的ニーズの高い人材の養成に限られる。
  教職大学院への移行の準備のために、何よりも教科教育分野の実践化が早急に進められるべきと考える。教科教育分野は、修士課程の学生定員や教員数のかなりの割合を占めている。とくに、それを構成する教科専門の教育研究はアカデミック志向に偏り、学校教育の実践や課題から遊離しているとの評価が定着している。
  上記協力者会議報告書とミッションの再定義によって、教員養成系修士課程のミッションも高度専門職としての教員養成であることが明定された。教科教育分野の実践性を高めるために、先ずはそのことが関係する大学教員に強く意識されなければならない。その上で、各教科もしくは複数教科を括ったコース等において、養成すべき教員像の明示とそのための教育課程の編成を行わなければならない。教育課程編成に際して、次のような原則を立てる必要がある。学校教育や教員養成との関連性が直接に理解できない授業科目は設けない。教科専門科目と教科教育法の科目群の区分を設けない。これまでの教科専門科目と教科教育法科目を架橋・融合した科目を設ける。学校実習など実践的科目を新設する。
  こうした教育課程を編成し、実施する教科教育分野の大学教員には、狭い専門性に閉じこもるのではなく、自己の専門性や強みを拡充・発展させることで、自らを成長させ、新しいニーズに対応するという自覚が求められる。同時に、教職大学院担当教員を含めた同僚間で育成する人材像を共有し、協働して教育課程の編成・実施や学生指導にあたるという姿勢がこれまで以上に必要となる。
  上記の文科省「大学院に専攻ごとに置くものとする教員養成分野の教員数」の改正案は、教科教育分野を含めた教職大学院の教員基準数とともに、教員養成系修士課程の教職大学院への移行を促すために、その準備段階における教員数を教科を大括り化した形で示したものである。教員配置における各大学の裁量が増すので、移行に向けての修士課程教科教育分野の改革が進むことが期待される。文科省には教職課程認定における教員数への配慮や、運営費交付金の教職大学院への優遇配分など、一層の促進策・支援策をお願いしたい。

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