思考力・判断力・表現力を育成するために言語活動を取り入れた効果的な指導方法の研究~論理的に「話す・聞く」「書く」指導をとおして~ 学校教育研究科 文化表現系教育コース・教授 堀江 祐爾

研究目的

(1)

 本研究の目的は、思考力・判断力・表現力を育むために、国語科を中核としつつ各教科等で、言語活動を充実させる指導方法を開発することである。そのためには、国語科において、的確に理解し、論理的に思考し表現する能力、互いの立場や考えを尊重して伝え合う能力を育成することや我が国の言語文化に触れて感性や情緒をはぐくむ能力を培うことが重要である。各教科等では, 国語科で培った能力を基本に,それぞれの教科等の目標を実現する手立てとして,知的活動(論理や思考)やコミュニケーション,感性・情緒の基盤といった言語の役割を踏まえて,言語活動を充実させる必要がある。
 本校は、2007年度から、「学び合う」ことで、「確かな学力」と「コミュニケーションの能力」の向上に努めてきた。また、昨年度から国語部会では「論理的に思考し表現する能力の育成」を研究テーマとして言語力の向上を図っている。そこで、本研究では、国語科においてグループでの相互作用を重視する教授法を用いて、① どのような課題を設定することが論理的に「話す力・聞く力」の育成につながるのか、②トゥルミン・モデルを批判検討し、「論理」を捉える際にどのようなモデルを活用することが、論理的に「書くカ」を育成することにつながるのかを、科学的に測定・検証していく。そして、国語科のみならず全ての教科等で、この研究の成果を生かし、それぞれの教科の特性に応じて言語活動を展開し、指導法の工夫改善を行う。また、小学校とも連携し発達段階も考慮した指導法の研究も進める。

(2)

 本年度から全面実施された学習指導要領において、「基礎的・基本的な知識・技能の習得と思考力・判断力・表現力等の育成」が重視され、「言語活動の充実」が求められている。本校では、各教科等で年間指導計画に言語活動を入れ、単元における評価場面や評価方法についても記載している。しかしながら、どの中学校でも、「論理」をどのように捉えるかという点においては、十分な議論がなされているとは言えず、論理的思考力を育成しようとしたときに具体的な指導へと結びつかないことが問題となっている。また、グループ活動をする際、どのような課題を設定することが子ども同士の活発な相互作用を促し、「話す力・聞く力」を向上させるかは、十分に明らかにされているとは言えない。
 本研究では、質の高い課題を設定することで、互いの主張を理解しながら建設的な意見を述べる「操作的トランザクション」の出現回数が多くなり、活発な話し合いが行われると考えられる。そして、有効な「論理」のモデルを構想や評価の過程で活用することで、より根拠のある主張や反証などを取り入れた文章を書き、その質を向上させると予測される。本研究では、これらの予測を発話プロトコル、テスト、質問紙などから科学的に検証し、その成果をすべての教科等で生かし、小学校とも連携して言語活動を充実させる指導法を開発していく点で独創的である。
 本研究により、国語科を中核としつつ各教科等で、言語活動を取り入れた実践が学校現場で数多く展開されることで、子どもの思考力・判断力・表現力が向上することを切に願う。

(経緯・背景)

 近年、少子高齢化、高度情報化、国際化など、子どもを取り巻く環境は大きく変化する中、新しい知識・情報・技術が政治・経済・文化をはじめ社会のあらゆる領域での活動の基盤として飛躍的に重要性を増す、いわゆる「知識基盤社会」の時代が本格的に到来しようとしている。このような状況の中で、児童生徒の学力は、平成18年に実施されたPISA調査など、学力に関する各種の調査の結果により,子どもたちの思考力・判断力・表現力等には依然課題があり、課題発見・解決能力、論理的思考力、コミュニケーション能力や多様な観点から考察する能力(クリティカル・シンキング)などの育成・習得が求められていると文部科学省は指摘している。そこで、子どもの思考力、判断力、表現力等を育むため、学習活動の基盤となる言語能力を向上させることはとても重要であり、国語科を含めた全ての教科等において、言語活動の充実を図る必要がある。
 本校では、2007年度から4年間「学び合い、高め合う授業づくり」を主題に「コミュニケーションによる思考を育む授業のありかた」を、昨年度から「主体的に『学び』を深める生徒の育成」をテーマに、「グループでの協働学習による学び」を研究している。また、国語科においても本校の研究テーマを踏まえ、昨年度から「論理的に思考し表現する能力の育成」をテーマに研究を重ねている。本研究は、グループ活動を中心にした授業の中で、質の高い課題や「論理」のモデルを活用することで、論理的に「話す力・聞く力」「書く力」を育成する研究で、これまでの本校の研究を飛躍的に発展させるものとして位置づけられる。

Page Top