自立活動における「身体の動き」の指導効果に関する研究-知的障害児と肢体不自由児を対象として- 大学院特別支援教育専攻・教授 石倉 健二

研究目的

【目的】

 本研究では、知的障害や肢体不自由のある児童生徒「身体の動き」に関する指導の効果について検証することを目的とする。その具体的な内容としては以下の3点である。

(1)自立活動の指導で多用されている「動作法」が、児童生徒の日常生活活動(ADL)の改善に与える効果について検証する。
(2)自立活動の指導で多用されている「動作法」が、児童生徒の行動障害の改善に与える効果について検証する。
(3)知的障害のある児童生徒の身体的不器用さへの指導として必要な方法や心理的支援について検討する。

【特色と位置づけ】

 本研究は、自立活動等で実施される「身体の動き」に関する指導の効果について、以下に示すような国際的に標準化された指標で検証を行うことが特色である。

 (1)については、自立活動の指導の効果として、客観的な指標に基づいた評価が行われていない実情がある。日常生活活動(ADL)については、国際的に標準化されているFIM(機能的自立度評価表)を用いることで、指導の効果を検証することができると考えられる。
(2)についても同様に、指導の効果が客観的な指標に基づいて行われていない実情がある。行動障害については、国際的に標準化されたABC(異常行動チェックリスト)の日本語版(ABC-J)を用いることで、指導の効果を検証することができると考えられる。
(3)不器用さについては国内で標準化された指標がないが、国際的には最もよく使用されているMABC-2(英語版)を使用する。なお、不器用さそのものは必ずしも改善するとは限らないため、改善のための指導法だけでなく、改善に至らない場合の支援法についても検討を行う。

(着想に至った経緯等、研究の背景について)

 自立活動の指導についてその実践報告は多くあるものの、効果に関する検証を集団的・系統的に行った報告は少ない。そうした状況の中で、筆者らは以下のような検討を行ってきた。

(1)日常生活活動(ADL)について石倉(2012)は、動作法を実施した19名を対象にFIMを用いて指導の効果について検証を行った。その結果、身体の動きを主課題とする者で、ほぼ最高得点又は最低点を除いた中得点群では、障害の種別に関係なくADL得点(運動面)の上昇が認められた。しかし、ADL(認知面)についての効果は限定的であり、明確な結論を得ることができなかった。
(2)行動障害について石倉(2014)は、動作法を実施した15名を対象にABC-Jを用いて効果の検証を行った。その結果、対人関係や行動上に軽度以上の困難さがある者については、障害種や年齢に関係なく、ポジティブな方向への変化が認められる場合が多かった。しかし、対象者の特性や変化の内容については、さらなる検討が求められた。
(3)身体的不器用さについて、和田・石倉(2014)は事例検討を行い、その効果の検証にMABC-2を使用した。また5歳児を対象とした大規模調査(和田・石倉、投稿中)では、MABC-2チェックリストの日本語訳を使用し、その活用の可能性について示唆した。しかし、評価方法としての活用法や、指導法等についての検討にまでは至っていない。
 上記の点を踏まえ、これまでの研究で課題として指摘された点について検討を行う必要がある。

(文献)
・石倉健二(2012)1週間キャンプでのADL評価の試み.日本リハビリテイション心理学会大会論文集,22-23.
・石倉健二(2014)療育キャンプを通した行動障害の変化についての定量的評価に関する研究.日本リハビリテイション心理学会大会論文集,22-23.
・和田健作・石倉健二(2014) 発達性協調運動障害の疑いのある幼児に対する運動指導の検討.発達心理臨床研究,20,79-88.
・和田健作・石倉健二(投稿中)身体的不器用さを有する5歳児についての実態調査.リハビリテイション心理学研究.

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