地域と連携したインクルーシブ教育モデル構築に関する実証的研究 特別支援教育専攻・教授 河相 善雄

研究目的

(1) 研究目的

 本研究は、関係諸機関の協力を得て、地域と連携した社会的インクルーシブ体制モデルを構築し、特別なニーズに対応する支援のための連携態勢の在り方と課題を実証的に明らかにしようとするものである。インクルーシブ体制とは、関係諸領域で協働態勢を確立する中で統合的環境整備を進め、特別なニーズに対する有機的に関連付いた支援を実現するものであるが、本研究では、特に特別支援学校と地域の教育機関との連携体制の在り方や課題の析出に主眼を置いている。併せて諸外国のインクルーシブ教育の態勢整備状況を調査し、比較検討することにより、より有効なモデルへの改善の示唆を得ようとしている。

(2) 特色・独創性及び予想される結果と意義

 本研究では、2011年8月に成立し発効した障害者基本法改正に基づき実施方策が模索されているインクルーシブ体制に寄与する教育モデルを構築し、実証的に研究を進めることを予定している。そのため、地域の療育機関等の協力を要請し、包括的・実現可能なモデル構築を目指す。本研究の特色は、教育機関間での連携のみを視野に捉えるのではなく、地域リソースも含めた教育・福祉・医療・労働の各領域の機関が連座する幅広いネットワーク形成の在り方を探ろうとするところにある。研究の主眼は教育領域からのアプローチに置くが、福祉・医療・労働の各領域の関連部局も含め統括する特別支援センターを設置し、各領域での支援サービスをコーディネートすることを考えている。こうした総合的な体制を構築した上で特別支援学校の役割・地域支援の内容について検討する。この意味でプロジェクト的な研究として独創的であると言える。また、諸外国のシステムと比較検討することで、より有効な在り方を模索しうると考える。研究結果に包摂される成果として、中心的成果であるインクルーシブ教育モデルの提示の他に、インクルーシブ社会実現に向けての福祉・医療・労働の各領域での課題の提示、教育制度改革課題の提示等が挙げられ、波及的意義をもつものと言える。

(3) 国内外の関連研究と本研究の位置づけ

 国内法が成立した直後であり、国内では本研究のような意図を持った研究はまだなされていない。また外国のインクルーシブ教育の進捗状況や動向に関する報告はあるが、実際的なシステム構築に取り込むことを意図したものとなっていない。このようなことから、先進的な研究と言える。

(経緯・背景)

 わが国の特別支援教育は、2002 年に制定された障害者基本計画と連動して、福祉・医療・労働の各領域との連携を図り、生涯を見通した支援を提供することを目標に掲げた。教育領域では個別の移行支援計画をはじめ、個別の教育支援計画を策定し、個々のニーズを明確化しながら支援を展開しようとした。対象の拡大、特別支援学校のセンター的機能の充実、特別支援教育コーディネーターによる調整機能の実現等により、インクルーシブ教育を志向するものであったと言える。
 構想が示された段階の2003年時点では、さまざまな方向性への模索がなされたが、実施時点では新たに対象とされた発達障害等への対応が焦点化され、アセスメントに力点が置かれる傾向が強く現れていた。
 現状では、条件整備の遅れから特別支援教室は制度化されず、早急に整備を進めるべき課題とされた。同時に特別支援教育コーディネーターの専門職化も実現に至らず、通常教育担当教員の特別支援教育に係る専門的力量の向上も不十分な水準にとどまっている。
 ところが、障害者の権利条約批准に向けた国内法整備が進む中で、インクルーシブ社会実現を盛り込んだ障害者基本法が2011年8月に成立・発効したのである。このことにより、インクルーシブ教育実現のための環境整備の課題や制度的課題の模索が急務とされるに至っている。
 学内でも特別支援教育に対する理解は深まっており、2010年6月、2011年7月に開催された特別講演会でも150人を超す参加を得た。本年度開催の際に本学学長・文部科学省特別支援教育課課長補佐・兵庫県教育委員会特別支援教育課長・特別支援教育専攻長等の発案でインクルーシブ体制構築を視野にとらえた「特別支援教育の地域連携に関する研究会(仮称)」の提案がなされたのである。後日、加東市長も大いに関心を示し、包括的・総合的なインクルーシブ体制構築への協力を表明している。このような背景および経緯により本研究は着手されることとなった。

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