教員としての実践的資質能力の有機的統合・形成を目指した授業モデルの提案-「教職実践演習」を中心に- 教育内容・方法開発専攻 行動開発系教育コース・教授 岸田 恵津

研究目的

 本研究の目的は,教職実践演習や他の授業科目,授業外の諸活動を通して,学生の教員としての実践的資質能力の有機的統合・形成を促す具体的な内容・方法を案出・実践してその効果を検証し,授業モデルを提案することである。
 筆者らは,2011~2012年度に,本学の教職実践演習が学生にどのような学びや教育効果をもたらしたのか,また授業担当教員は授業を通して成果と課題をどのように認識したのかについて調査研究を行った。その結果,「事例研究」「模擬授業」「まとめ」から構成される本学の取組は,教職実践演習として有効に機能していると判断された。ただし,いくつかの課題も浮き彫りになった。その主なものは,次の通りである。
①教職実践演習のねらいである「教員として最小限必要な資質能力として有機的に統合され,形成されている状態」とはどのような状態なのかを定義する必要がある。
②教職実践演習という授業科目全体を通して,あるいは4年間にわたる他の授業科目や授業外の諸活動において,学生に「教員としての実践的資質能力の有機的統合・形成」の自覚を促す働きかけが求められるのではないか。また,どのような働きかけをすることが望ましいのか,その具体を考案する必要がある。  これらの課題は,教職実践演習という授業科目の本質にかかわるものであり,本科目のねらいの到達には看過できない課題であることから,研究を継続,発展させる必要がある。
 以上のようなことを踏まえ,本研究の具体的な目的は次の2点である。
 1.学生の「教員としての実践的資質能力の有機的統合・形成」について,その定義や意味を明確にする。
 本学教員を対象とした調査や文献調査により「教員としての実践的資質能力の有機的統合・形成」に関する考えを収集・整理する。また他大学への訪問調査から,実施内容・方法と教職実践演習のねらいとの関わりや課題を調べる。教職実践演習の本学受講学生を対象とした調査から標記に関する考えを明らかにする。
 2.学生の「教員としての実践的資質能力の有機的統合・形成(の自覚)」を促す働きかけの具体を考案し,その効果を検証する。
 1.で得られた成果をまとめ,教職実践演習や他の授業科目などでのアクションリサーチに生かす。その効果を明らかにして授業モデルを提案する。
 「教職実践演習」の特性より,本研究で取り上げる研究課題は教員養成カリキュラム全体にかかわる重要な課題であり,現行カリキュラムの検証と充実・改善につながる点に意義がある。

(経緯・背景)

 2008年11月の教育職員免許法施行規則改正に伴い,2010年度入学生よりカリキュラムに導入された「教職実践演習」は,教職課程における授業科目の履修や教職課程外での様々な活動を通じて得た知識や技能が,教員として必要な実践的資質能力として有機的に統合され,最終的に形成されているかを確認するものであり,「学びの軌跡の集大成」として位置づけられる科目である。本学では,2008年度入学生より(他大学に先行して)「教職実践演習」を新設・必修化し,新たに設置した専門部会において,その授業内容と方法を協議・検討してきた。
 筆者らは,2011年度と2012年度において,「理論と実践の融合」に関する共同研究活動の支援を受け,本学の「事例研究」「模擬授業」「まとめ〔学びの総括〕」という3つの授業構成が,学生にどのような学びや教育効果をもたらしたのか,また授業担当教員は,授業を通して成果と課題をどのように認識したのか等を質問紙調査やグループ・ディスカッションを通して明らかにする研究を行い,本授業科目の改善に取り組んできた。その中で「研究目的」に記したような課題が明らかになったので,研究を継続,発展させる必要が生じた。
 なお,筆者らは,これまでの研究成果を,2012年度日本教育大学協会研究集会第1分科会「教員養成カリキュラム改革の具体的取り組み」において発表し(別惣淳二他;「教職実践演習」の実践に関する研究―兵庫教育大学における効果の検証と課題―),2013年度にも発表を行う予定である。さらに,この研究成果を「日本教育大学協会研究年報(第32集)」へ投稿するため,現在,論文を執筆中である。また,成果の一部を「学校教育学研究」に報告した(南埜猛他;「教職実践演習」の実践に関する研究-学習指導案のデータベース構築と大学の情報発信への活用-,学校教育学研究,25,7-17,2013)。
 本研究は,筆者らの2年間にわたる共同研究を通して明らかになった課題について,さらに検討を加えようと企図されたものであり,その意味において,これまでの共同研究の延長線上に位置するものである。

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