いじめ予防を目的とした授業プログラムの研究 教育実践高度化専攻・生徒指導実践開発コース・教授 古川 雅文 松本 剛

研究目的

① 本研究の最終目的は、より効果的ないじめ予防授業プログラムを構築することである。そこに至るまでの3つのステージで理論と実践を融合させ、その成果を学校へ提供する。
<第1ステージ>
 教師が体験的に会得しているいじめ発生のメカニズム(雰囲気、予兆、初期症状)や、解決策及び予防策などの実践及びその効果などについて質的調査を行い、いじめに関する諸理論(臨床心理学、社会心理学など)と関連づけながら、いじめ予防に有効と思われる授業内容、日常活動や行事などにおける児童生徒との関わり方等の教育活動を考察する。
<第2ステージ>
 第1ステージの考察を基に、いじめ予防に効果的な授業プログラムを開発し、研究協力校における試行の結果を検証し、より精度を高める。
<第3ステージ>
 どの学校のどの教師でも容易に実施できるよう、映像資料や教材の開発を行う。

② いじめに関する事象を説明する理論は多岐にわたり、その外的・内的な要因追求や被害・加害双方の臨床研究も数多くなされている。しかしその多くが、児童・生徒を対象とした量的な調査を基としている。一方、いじめ予防の主たる担い手は教師である。日々、いじめやその予兆と思われる事象に向き合いながら、いじめの予防や早期発見・早期対応に当たっているのは教師である。ところが、いじめが社会問題となっている昨今においても、教師の経験に基づいたいじめに関する知識や実践を対象とした調査・研究は少ない。また、クラスの成熟度や状況と関連づけた、1年間にわたるいじめ予防授業の効果的な構成に関する研究はない。
 そこで、小・中学校の教師の知識や実践の質的調査を行い、理論的背景と関連づけながら、理論と実践の両輪をもっていじめ予防を目的とした研究を行うことは意義あることと考える。
 さらに、その成果をベースとして開発するプログラムは、まさに理論と実践の融合であり、学校の教育活動に即したものとなり、効果的ないじめ予防に寄与しうるものと位置づけられる。

(経緯・背景)

  平成23年度の小・中・高及び特別支援学校におけるいじめ認知件数は70,231件(文部科学省,2014)であり、いじめを苦とした自殺がメディアで大きく取り上げられるなど、喫緊の課題となっている。平成25年2月の教育再生実行会議による提言では、その対策として法の整備、早期発見、適切な対応とともに本質的な問題解決が必要とし、道徳を新たな枠組みによって教科化し、人間性に深く迫る教育を行うこととしている。
 県立教育研修所では、平成10年からストレスマネジメント理論等を背景とする「心の教育」の授業案を作成し、研究冊子やHPを通じて普及を図ってきた。こうした取組をより発展させるためには、1時間単位の授業案だけでなく、1年間のクラス経営におけるクラスの成熟度や状況を踏まえた、年間の授業構成を提示していくことが有効であると考える。また、理論的背景の理解を深めることによって、問題の本質を見極めた授業実践が期待できる。
 そこで、いじめの理論的背景の整理とともに、いじめの現状に日々向き合っている教師の経験に基づく知識と実践を調査し、その結果をもとに、これまで作成してきた指導案に加え、新たな指導案も開発し、いじめ予防に特化した授業プログラムを再構築することにより、効果的にいじめ予防に寄与できると考える。
 また、増加する若年世代の教師でも、あるいは心理学的知見のない教師であっても、目的に沿った授業が行えることが必要である。そこで、その方法やポイント及び効果がイメージしやすいように、教師向けの映像資料(DVD)を作成する。実際の授業映像を見ることにより、指導案が理解しやすくなるばかりでなく、授業者による授業内容のブレも縮小されることが期待できる。また、プログラム実施のための研修会への参加や講師の招聘などに係る費用も削減されることから、施策としてプログラムを普及しやすくなり、いじめ予防の取組の全県展開が期待される。

Page Top