汎用的な能力の育成を意図した社会科教科書と授業の開発— 小中学校「環境」単元を事例として- 教育実践高度化専攻 授業実践リーダーコース・教授 米田 豊

研究の概要

 平成20年度版学習指導要領によって「習得・活用・探究」をキーワードにした授業を行うことが求められるようになった。社会科では特に地理的分野において動態的地誌と主題学習の導入という大きな変革がなされた。しかし、学校現場においては旧態依然とした従前の学習指導要領に基づくような授業が行われている現状がある。
その理由は次の3点である。

 ①については、米田豊が「社会科では習得した知識を活用して新たな知識の習得を図る。その学習過程全体が探究である。」と論じ、学校現場にもその米田の「探究Ⅰ・Ⅱ」の理論に基づく授業実践が増えており、この課題に関しては解決の方向にある。

 しかし、②③の状況は改善されておらず課題が残っている。これらの課題は「理論と実践の融合」の難しさを示している。例えば、教員は学習指導要領改訂の理念に関するキーワードを知ってはいるものの、そのねらいを深く理解していないことも多い。それは、教員がその理念を具体的に理解する手段の一つである教科書を手にできる時期と関係している。学習指導要領改訂後の移行期間において、教員は改訂のキーワードを知ってはいても対応した教科書がないことにより、その改訂の理念をイメージしにくい現状がある。そして、改訂の理念を本格的に授業化にするのは教科書を手にしてからになる。つまり、学習指導要領の全面実施後に研究が本格化するという現状ある。一部を除いた学校現場では改訂直後の対応に遅れがみられる。教員の研究に対するモチベーションは学習指導要領改訂直後には高まっている。しかし、研究のスタートが遅くなることによりそのモチベーションは低下していく。そして、従前どおりの改訂の理念を組み込んでいない授業が展開されることになる。

 このように理論と実践を融合することは難しい。そこで理論と実践をつなぐ架け橋となり、学習指導要領の趣旨を組み込んだ教科書の開発が必要になる。

 平成26年3月31日に文部科学省は「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会」がまとめた提言を公表した。この審議会は、次期学習指導要領の改訂にむけての基礎的な資料を得ることを目的として設置されている。つまり、この提言が次期改訂のベースになる。提言では、学習指導要領の構造を三つの観点から見直すことの必要性について述べた上で、現在は「何ができるようになったか」よりも「知識として何を知ったか」が重視されがちで、汎用的能力の育成が不十分であるとしている。そして、育成すべき資質・能力として「教科等を横断する汎用的スキル」を示している。したがって、次期改訂において「汎用的」がキーワードになる可能性が高い。

 既に述べた学校現場の現状から推測するに、次期改訂がなされても「汎用的」という言葉だけが一人歩きし、必ずしも理念が浸透しないという状況になることが危惧される。このような理論と実践が融合しない状況を克服するためには、既に述べた②③の課題を克服しなければならない。

 本研究では、②の課題を克服するために次期改訂を視野に入れた教科書研究と開発を行うことで、次期改訂移行期間から新たな理念に学校現場が対応できるようにする。理論と実践の融合のための架け橋となる教科書と授業の開発を目的とする。さらに③の課題を克服するために、②で開発した教科書をもとにした授業モデルを開発し実践することによって、理論を組み込んだ実践の具体を示すことを目的とする。教科書と授業開発においては小中学校「環境」単元を事例とする。「環境」単元の授業開発においては「小中学校の学習の連続性を意図した単元構成」、「社会認識形成をもとにして市民的資質の育成を図ること」に留意する。

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