異なる水準への適用を可能にする「知識の有機的関連づけ」に関する教授学習心理学的研究 授業実践開発コース・教授 黒岩 督

研究目的

【研究目的】

 本研究では,工藤(2008)の「知識理解の3水準」論に基づき,小学校と中学校における授業実践を通して,学習者内部に有機的な関連づけが成立する心的プロセスを実証的に解明することが目指される。主たる研究の目的は,次の2つである。目的1:黒岩他(2012),吉國他(2012),吉國他(2013),黒岩他(2013)で開発された授業の知見をふまえ,新たに小学校と中学校で授業実践を行い,学習者内で異なる知識どうしが有機的に関連づけられていく過程(「内的関連づけの成立」のメカニズム)を明らかにする。目的2:工藤(2008)の「知識理解の3水準」論に基づき,知識を制御的適用するという発展的な推論過程を学習者内部に導出できることについて,検証することである。

【本研究の特色及び予想される結果と意義】

 特色1:黒岩他(2013)で提起された研究課題,すなわち関連づけの成立や制御に役立つように,学習者に誘発される内的な処理や状態も反映した「関連づけに関するモデルを精緻化させる」という課題に応える研究内容であること。特色2:工藤(2008)の整理には含まれていない,小学校と中学校という異なるステージの学習者を対象にして,知識の有機的な関連づけが成立するメカニズムを明らかできること。
 予想される結果と意義:教授学習心理学研究において,未だ大学生を対象とした知見に基づく整理ではあるが,内的関連づけの成立によって学習者の知識の整合性・一貫性を高めることは,新知識に対する信頼度を増す効果を生み出すことが予想されている(工藤,2008)。このような工藤(2008)の「知識理解の3水準」論に基づき,新たに小学生や中学生を対象とした授業を実践することによって,学校教育場面においても学習者の内的関連づけを促進することが,知識の「制御的適用(誤前提課題の解決)」を可能にすることを実証できる意義があろう。

【学術的位置づけ】

 本研究は,黒岩他(2013)で提起された研究課題を克服し,工藤(2008)の「知識理解の3水準」論を,小学校と中学校の授業実践によって実証する教授学習心理学研究として位置づく。

(経緯・背景)

 既に,黒岩 他(2013)によって,1.異なる単元どうしを関連づける授業実践の効果については,一定の成果が得られたこと,2.その効果が生起するメカニズムや対応する内的(心理的)過程については,関連づけモデルの精緻化を通してさらに検討していく余地が残されていることが指摘されている。本研究は,このような共同研究成果と課題を十分にふまえ,学習者内で異なる知識どうしが有機的に関連づけられていく過程を,新たに心的モデルとして構築しようとする発展的研究としての特徴を有している。
 また,従来の教授学習心理学研究においては,異なる知識どうしの関連づけの成立が,学習のあり方や知識の適用方法に影響を及ぼすことが論じている(例えば,佐藤,2006や工藤,2008)。これら一連の研究では,1.外的な関連づけ操作を確保するだけでなく,実際に学習者内部で関連づけが成立しているか否かという学習者内要因へも注目することが重要であること,2.知識理解の評価には,従来のような再生課題と転移課題に二分されるような水準だけでなく,新たに知識の制御的適用が可能かどうかを測定する水準が用意される必要があることが,指摘されている。しかしながら,この整理はあくまで大学生を対象に文章教材を用いた教授実験から得られた知見である。そこで本研究では,新たに小学生と中学生を対象にして,知識を有機的に関連づけることを促進する援助を実施し,それによって,知識を制御的適用するという発展的な推論過程を学習者内部に導出できるかどうかを検証する。

【文献】

 工藤与志文(2008)「誤前提課題」を評価課題として用いた教授学習実験の概要と展望  日本教授学習心理学研究4(1),40-49.
 黒岩督・吉國秀人・西本保宏・黒木智道・小倉誠(2013)単元間の縦断的関連づけに注目した授業の開発(2) -中学校3年理科「化学変化とイオン」単元での実践- 日本教授学習心理学会第9回年会予稿集,50-51.
 佐藤康司(2006)関連づけの成立と認知的能動性が学習に及ぼす影響 日本教授学習心理学研究2(2), 49-58.

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