小学校教員養成課程における教科教育・教科専門担当教員の恊働による保健体育系授業の開発 教育内容・方法開発専攻・行動開発系教育コース・准教授 小田 俊明

研究目的

 平成24年の中教審答申においては,従来の教員養成課程における教科に関する教育と教職に関する教育との融合状況の悪さが指摘されている。本研究では,「教科専門」と「教科教育」の教員との恊働によって,これからの小学校教員養成に資する保健体育系授業を開発することを目的とする。具体的には,陸上競技,体作り運動の指導を題材とし,教科教育の教員が全体を統括しながら,教科専門の教員の専門知識を最大限活用し,教員養成のための授業モデルを作成する。
 大学の保健体育系授業モデルの作成において,これまでこのような観点からの授業モデル開発は皆無である。本学の保健体育分野においては教科専門の授業の場合も,教科指導を強く意識した授業構成となっている。しかし,各授業は独立したものであり,オムニバス形式の授業は存在するものの,教科教育と教科専門の複数教員が同時に恊働し授業を行うことはほとんどなかった。このことは,他の教育学部においては特に顕著であることが予想される。本研究では,この融合の試みに対し,提案したモデルケースの長所と短所を解析し,具体的な授業モデルを開発することで貢献するものである。このことにより,今後全教員養成系学部において,これらの分野間の恊働が求められた際,導入時に生じる混乱を少なくし効果的な教員養成を実施具体的な実施モデルを明示可能となる。予想される混乱のひとつとして,従来,教科専門で扱っていた内容をそのまま教科教育系の授業へ導入する事は物理的に不可能であるため,多くの知識・知見のどの部分を教示すべきかのポイントの選定が困難であることが挙げられる。本研究において,モデルケースを示すことで基本的な内容を示し,各学校の実情に応じた改良を加えることが容易となる。また,これらのモデル提示後に生じる改良の作業を通じて,工学部等に見られるような大学が異なっていても必ず指導する内容を策定した保健体育科のグローバルカリキュラムの作成の提案に繋がっていく事も期待できる。

(経緯・背景)

 平成24年8月の中教審答申において「教科に関する科目」担当教員と「教職に関する科目」担当教員とが共同で授業を行う案が具体的に例示された。この背景には,従来の教員養成課程における教科に関する教育と教職に関する教育との融合状況の悪さが考えられる。この共同作業を,「教科専門」と「教科教育」の大学教員との恊働と捉えると,これからの教員養成においては,これらの両分野の知識・知見をバランスよく融合した教師像が求められていることがわかる。その様な教師の養成には,対応したカリキュラム,ならびに授業が必須であるが,現状では本邦においてそれらの試みは非常に少ない。本学の保健体育科においては,学生が教師となった際の基礎・応用的な能力の育成に主眼を置き,教科教育と教科専門の恊働を意識した学部学生,大学院生への教育が従来よりなされてきた。しかし,中教審答申が示すように,今後全教員養成系学部において,これらの分野間の恊働が求められることが予想される。導入時に生じる混乱を少なくし効果的な教員養成を実施するためには,具体的な実施モデルを明示することが望ましい。
 今回申請する研究組織には,教科内容と教科教育の教員が含まれており,各自の専門も異なる.教科教育の教員が授業内容の策定を統括しながら,教科専門の教員との恊働を通じてカリキュラム,ならびに授業内容を計画・実施することで,両教員の専門性を融合した,新たな教育モデルを作成することが可能と考えた。また,同時に授業分析,心理分析,運動学分析等により解析することで,より改善された授業モデルが提案できると期待する。なお,本研究グループのように,全員が博士号を所持する教員による,このような保健体育科内の分野融合型の研究は非常に稀であり,高い水準での研究が期待できることを付記しておく。

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