関係的理解を促す体育授業モデルの開発 小学校教員養成特別コース・准教授 筒井 茂喜

研究目的

(1) 研究目的

 平成25年の中教審答申において、「身につけた知識・技術を活用し、見出した課題をよりよく解決する児童・生徒の育成」に関わる学校現場の取組みが未だ十分でないことが指摘されている。

 本研究は、体育科教育の研究者と情報教育及び体育科教育を専門とする現場教員の協働によって、中教審の求める「知識・技術を活用し、よりよく問題を解決する児童・生徒の育成」に資する体育授業モデルの開発を目的とする。具体的には、ボール運動及び器械運動を対象にして、児童が知識・技術の持つ意味を理解し、その本質を抽象化・一般化することで、汎用性のある知識を獲得できる授業、すなわち関係的理解を重視した体育授業モデルの開発を行う。

 体育授業研究において、「わかるとできるの統一」は古くて新しいテーマであり、「理解に支えられた技術の習得」は、児童・生徒にとって価値のある体育授業実現にむけて追い求められてきた課題である。しかし、現状の体育授業は、技や動き方の名称などの個別的・記述的知識及び正しく動くためにはどうすればいいかなどの対処的理解の習得に終始している。したがって、知識・技術の裏側にある意味を追求し、汎用性の高い抽象化・一般化された知識・技術の獲得を目指した授業はみられない。また、知識・技術の習得を主とした授業では、学習課題を論理的に解決していく学習場面も少なく、論理的思考力を養う観点からも問題がある。

 本研究で用いる「関係的理解」という概念は、近年、主に算数・数学教育において注目されているものである。「関係的理解」とは、学習内容の意味や基本的概念の理解を意味しており、「関係的理解」によって得られた知識・技術は、問題の文脈・形式が変わった場合にも活用できるとされている。しかし、体育科において「関係的理解」によって得られる汎用性の高い知識・技術の習得を目指した研究及び実践は、管見の範囲ではみられない。

 また、「関係的理解」促す学習方法の一つとして、反省的思考を組み込んだ学習の有効性が報告されている。
しかし、体育科においては、教師を主体とした反省的思考に焦点を当てた研究は報告されているが、児童・生徒を主体としたものはみられない。

 以上のように、本研究の目的及び方法は、体育科教育の分野ではみられないものである。また、本研究の提示する授業モデルは、中教審の求める児童・生徒の育成に資するものであり、これから体育授業の方向性を示すものである。

(経緯・背景)

 平成8年から平成25年に至るまで、中教審は「身につけた知識・技術を活用し、自ら課題を見つけ、自ら考え、主体的に判断し、よりよく問題を解決する児童・生徒の育成」を一貫して答申している。これは、現在及び未来の日本に生きる児童・生徒に求められる重要な資質・能力を明示するとともに、未だ学校教育はこの要請に十分に応えることができていないという状況を指摘していると考えられる。学校教育に携わる者には、中教審の答申を真摯に受け止め、「身につけた知識・技術を活用することで、よりよく問題を解決できる児童・生徒の育成」に資する授業の構築が求められているのである。

 そもそも身につけた知識・技術を問題の解決に活用する場合、身につけた知識・技術の質が問われるであろう。汎用性の低い個別的・記述的知識・技術では問題の解決に生きて働くものになりにくいことは容易に推察される。

 体育では正しいとされる身体の動かし方、動き方の習得に主眼をおいた教え込み型の授業が数多く見受けられる。そのような授業には、「なぜ、この動き方をするのだろう」「この動かし方には、どのような意味があるのだろう」という思考を働かせる余地はなく、また、その必要もない。児童・生徒は教師から指示された知識・技術の習得にただ励むのである。しかし、このようにして得た知識・技術では、問題場面や状況が変わると活用できない可能性がある。すなわち、いろいろな状況下での問題の解決に知識・技術を活用するためには、関係的理解によって得られた汎用性の高い知識・技術が求められるのである。この関係的理解を促す学習方法の一つとして、反省的思考を取り入れることの有効性が報告されている。反省的思考には、対象となる知識・技術の本質を論理的に追究することが求められることから、関係的理解を促す体育授業は、児童・生徒の論理的思考力も高め得ると考えられる。

 前述したように、問題の解決に生きて働く汎用性の高い知識と論理的思考力を児童・生徒に身につけさせる授業の構築は、中教審が学校教育に一貫して求めてきたものである。本研究は、その要請に応えるものである。

 なお、本研究グループは、全員が兵庫教育大学の修了生である。授業者は、修士号を持つ体育教科教育を専門とする教員であり、理論と実践の融合をめざした高い水準での授業が期待できることを付記しておく。

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