令和3年度学校教育学部学位記授与式式辞
兵庫教育大学学校教育学部、令和3年度162名の卒業生の皆さま、ご卒業本当におめでとうございます。兵庫教育大学を代表いたしまして、心よりお祝い申し上げます。皆さまの4年間の学生生活はいかがだったでしょうか。後半の2年間はコロナ禍真っただ中でありました。われわれも初めての体験でいろいろなチャレンジがありました。皆さんもそうであったと思います。コロナがいつ終わるかは分かりませんが、ただ完全に元に戻ることはありません。
対面だけの学生生活とオンラインが入った学生生活、両方を経験したことは将来にとっては意味があると思います。オンラインのみの授業を受けられました。オンラインと対面を組み合わせたハイブリッド型の授業もたくさん受けられました。皆さま方はこれから多くの方がオンライン授業やハイブリッド授業を提供する側、する側に回ります。そのときに、いろいろな思いや経験をぜひ生かしてください。生かされてこそ、この経験が意味をもつことになります。
本学でのコロナの感染状況ですが、2回波がありました。一つは昨年の春ごろです。第何波なのか忘れましたが、学部生を中心に陽性者がたくさん出て、正直申し上げてどうなることかとその時は思いました。もう一つは今年の第6波です。ここでも教職員を含めて感染がありました。ただし、それなりの感染者は出ましたが、学内での集団的な感染、クラスター感染は起こっておりませんし、重篤になられた方が出たという報告も受けておりません。ですので、本学の感染状況が特に厳しかったわけではないと思います。皆さま方が感染対策を遵守した結果と思っておりますので、卒業にあたりまして感謝申し上げます。
さて、皆さまはこれから大学院に進学する方、教職等の職に就かれる方、さまざまと思います。この4年間、本学の教員養成スタンダードを基にしたカリキュラムで学ばれました。教員養成スタンダードの中心に何が書いてあるかはご存じですね。「学び続ける教師」です。職に就いてから学ぶことの方が私の経験上、学生時代よりも重要です。
職に就いてからの学びと、学生時代の学びは何が違うでしょう。いろいろな違いがあると思います。二つほど挙げてみましょう。一つは、学生時代の学びにもないわけではないですが、職に就いてからの学びは多くの場合、義務なのです。つまり現職者への研修が義務化されます。教員であるとまず1年間の初任者研修。それから10年目にも研修があります。教育委員会によっては5年目とか、さらには10年超えてからも義務的な研修が幾つもあります。つまり、嫌でも受けなければいけない。自分が必要としなくても、受けなくてはならないのです。
もう一つは、教職だけではなくてあらゆる職業は多忙です。例外なく忙しい。忙しい中で、つまり自分のこなさなければならない多くの仕事がある中で、研修や学びをしなければならないのです。忙しい中で、しかも必ずしも自分が必要と思っていない内容の研修を受けなければならない。
ここが分かれ目なのです。授業や生徒指導の評判の高い優秀な先生、本学の大学院の現職の学生の中にも何人もおられますが、そういう方と、そうでない先生との違いは何か。研修を受ける姿勢にあります。優秀な先生は与えられたもの、自分が必要としないもの、場合によってはつまらないものであっても役立てるという発想をするのです。
忙しい中で研修に時間を使います。そのときに、優秀でない先生は、休息といいますか、ぼうっとしています。もしその研修がつまらなかったら、不平不満をいいます。ところが、優秀な先生は、せっかくの研修を有効活用しようとします。今は必要でなくても、いずれ必要になるかもしれないし、得るものがあると思ってその時間一生懸命取り組みます。つまらなかった、研修講師が下手であったら、なぜ、この講師は下手なのかを考えます。
つまり、基本的な姿勢の違いがあるのです。与えられる学びが自分のものとなっているか、やらされているだけなのかの違いが大きいということです。自分のものにしている方は、学びに主体性があるのです。あらゆる研修の機会を自分に生かそうと思っています。これは教職だけではなくて、あらゆる職にあてはまります。この点が、これからの決定的な違いになるとお考えください。本学の教員養成スタンダードの中心に「学び続ける教師」とあるのは、そういう意味でもあると再確認いただきたい。
さて、皆さまのこれからの進路は大きく分けて四つあります。一つは、教員採用試験に見事合格されて、正規の教員として学校現場に入られる方です。本当に頑張っていただきたいし、主体的な学びをしていただきたいと思いますが、大体若い頃の1年目とか2年目とかの頃に困難が来るといわれています。そのエビデンスがあります。そのときに自分に閉じこもらずに、友だちや先輩、大学の先生などに相談をすることが大事です。その時の苦労は必ず次につながりますので、ぜひそこを乗り越えてください。現職の先生になられてから大学院での学びもありますので、ぜひ兵庫教育大学に戻ってきてください。
二つ目の進路は、講師として常勤の場合もあれば、非常勤の場合もありますが、学校現場に入られる方です。ご存じだと思いますが、この形で教職に就かれる方が減ってきていまして、日本中の教育委員会と学校が大変苦労しています。実は、教育委員会や学校の校長先生方が欲しい先生は、臨採を経て講師として頑張って、めげずに正規の教員になろうとする方なのです。どこの教育委員会も臨採での講師の経験を、教員採用試験において加点しています。その加点の割合がだんだん高くなっています。必ず正規教員になれますので、ぜひ諦めずに頑張ってください。
それから三つ目の進路は教職ではなくて民間の企業とか、公務員として仕事に就かれる方々です。それぞれの職業で頑張っていただきたいと思うのですが、教員免許をもっていることを忘れないでください。学校の先生の集団、教職員集団を、今どういう集団にしようとしているかといいますと、多様な背景と高い専門性をもった教職員集団です。民間企業等での経験は評価され、尊重されます。民間企業を経験した人が先生になれば、教職員集団の多様性が増します。ご存じと思いますが、教員免許更新制が廃止されますので、これまでのように10年有効ではなくて生涯有効になります。思い立ったら教職を志望してみてください。その際に先ほどいいましたように、多様な背景と高い専門性ですから、高い専門性を身に付けるようにしてください。民間企業に就いたら、その分野で得意分野というか秀でたもの、情報でもいいし、カウンセリングでもいいし、そういうものをもってぜひまた教職に戻ってくると大変重宝されると思います。完全に教職に移らなくても、副業とか兼業で教職を担当できる可能性もあります。そういう政策が進められようとしています。
四つ目の進路は大学院に進まれる方です。最近大学院に進まれる方が増えておりまして大変結構なことと思っております。教職という仕事にとって、大学院を修了すること、つまり修士号と専修免許状をもつことはスタンダードになっています。標準です。学部卒がスタンダードではなくて、大学院を修了することがスタンダードとお考えいただきたい。ですから、これから大学院に行かれる方は、既にそういうスタンダードを得ることになりますので、そのつもりで頑張っていただきたい。特に、高度な研究力を身に付けて、それをリーダーとして学校現場等で生かしてください。よろしくお願いいたします。
それでは、皆さんのこれからの人生が豊かになることを本当に願っております。その際に、この4年間の学びが、その支えとなることを期待しております。本日はおめでとうございました。頑張ってください。
令和4年3月23日 兵庫教育大学学長 加治佐哲也