特別支援学校知的障害職業学科における職業教育に関する介入研究:長期的に働くための資質を育む学習内容の開発と評価 学校心理・学校健康教育・発達支援コース 岡本 希

研究の概要

 国内では障害のある人への就労支援施策の進展が著しく、特別支援学校高等部生徒の約85%の卒業後の進路は就労である。しかし、知的障害者の離職率は高く、国内では関東に比べ、関西でより高い。東西の離職率の差は、職業教育の充実の違いの可能性がある。離職率を改善するには、就職先での同僚や上司のサポート体制の構築も課題ではあるが、特別支援学校在籍中に生徒の授業態度や職業に関する能力を育む教育を受けておくことがより重要と考える。本研究の目的は、特別支援学校在籍の生徒を対象に、(1)職業教育の効果に関する客観的評価尺度を開発すること、(2)木工作業を通しての職業教育の介入効果を評価することである。

 開発予定の調査票項目には、時間厳守・着席・挨拶・身だしなみ・聞く力・質問する力・木工作業の手順・報告・片付けの可否を含む。知的障害をもつ中等部生徒を対象とし、年齢や職種の異なる男女に依頼し、評価の一致度を検証する。介入研究の対象者は大阪府立豊中特別支援学校に通学する軽度知的障害を持つ中等部の生徒30名である。介入群には長期的に働くことを可能にする資質を育む学習内容(時間厳守・着席・挨拶・身だしなみ・聞く力・質問する力・木工作業の手順・報告・片付け等)を提供し(週1回50分授業×6回)、非介入群には従来通りの授業を実施する。評価項目として、介入前と介入中と介入後に、開発予定の職業教育の効果に関する客観的評価尺度、ソーシャルスキルトレーニング(SST)尺度、就労スキル尺度、授業開始時の心拍数と身体活動量、木工作業の成績、生徒による授業感想のデータ収集を行う。

 特別支援学校での職業教育は一般的には高等部のカリキュラムであるが、本研究では中等部の段階で職業教育を取り入れる。これは、より早い段階で適切な教育を受けるほうが教育の効果が大きいという理論(Heckman JJ, et al:Review of Agricultural Economics,2007)に基づく。本研究で実践する学習内容は、時間厳守、着席、挨拶、整容、説明を聞く、質問する、木工技術、報告する、片づけることを教育するものであり、介入群と非介入群を設定して介入効果の差を評価する。いくつかの評価項目の中でも、落ち着いて授業に出席できているかの生理学的指標として授業開始時の心拍数を計測する点は新しく、本研究は「理論と実践の融合」に該当すると考える。

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