Diversity(多様性),Equity(公正性),Inclusion(包摂性)の頭文字をとったDE&Iは,多様な人々が誰もがいきいきと活躍を続けながら生きがいをもって暮らしていくために,あらゆる組織が推進すべき考え方であり,実現すべきビジョンである。そうであるにもかかわらず,DE&Iの推進・実現は容易ではない。なぜならそこに,いくつもの障壁が存在しているからである。たとえば,性別,職業,年齢等に対する価値観の偏り,認知の歪み,偏見や思い込みを意味するアンコンシャス・バイアスである。人間に備わった心の仕組みがDE&Iの推進・実現を妨げてしまうのである。また,組織環境にも課題がある。たとえば「障害」について,それを個人の問題に還元することなく,組織内の成員や道具等との関係によって社会的に構成されるものと措定するなら,DE&Iの推進と実現は,組織環境のリデザインの問題として再構成されることになる。
本研究では,DE&Iの実現に向けて,アンコンシャス・バイアスの解消と組織環境のリデザインを企図した2つのフェーズからなる人材育成プログラムの開発を試みる。第1フェーズは,テーマに関連した学術的知見(社会心理学や特別支援教育等)のレクチャである。第2フェーズは,関連事例に基づくエクササイズである。本研究の目的は,これら2つのフェーズの内容と方法の開発である。なお本研究が対象とする組織は,企業と学校である。DE&Iに関する実践は,企業が先駆する。その一方で遅滞しているかもしれないのが,学校である。したがって,企業と学校の両方を視野に入れることで,相補的で相乗的な展開が期待されるのである。