東日本大震災の被災後5年間における児童生徒への教育的な心理的支援に関する研究 学校心理・学校健康教育・発達支援コース・教授 藤原 忠雄

研究目的

(1)研究期間内に明らかにすること

本研究では,養護教諭の視点から次の3点について検討する。
○震災後5年を経た現在の児童生徒の状況
○震災後5年間における児童生徒へ必要であった心理的支援の在り方
○今後の児童生徒への心理的支援の方向性

(2)学術的な特色・独創的な点及び予想される結果と意義

 本研究では,被災地の児童生徒への心理的支援の在り方を教師の目線で検証する。これまでは,被災地の児童生徒への心理的支援として注目されて来たのは,精神科医や臨床心理士が中心となったASD(急性ストレス障害)やPTSD(心的外傷後ストレス障害)への支援などが主なものであった。そうした被災直後や心的外傷後のネガティブな反応についての理解や対応,そして治療についての理解は拡がり深まった。一方,そうした症状は被災児童生徒の全てが呈するのではなく一部であるにも関わらず,児童生徒全員がPTSDとなり大変なことになるという誤解や混乱も生じていた(我妻,2012)。また,そうした症状を呈さない多数の児童生徒への心理的支援の在り方はどうあるべきかが問われていた。即ち,症状を呈している児童生徒への臨床的な心理的支援だけではなく,そうでない多数の児童生徒への教育的な心理的支援が必要であった。この後者に焦点を当て,教師の目線から被災後5年間における児童生徒へ必要な教育的な心理的支援の在り方を検証する。

 本研究では,養護教諭の目線からの検証とする。多くの教員は担任を持つ関係上,自分の学級・クラスと学年に目が向きがちであり,全校的な視点が十分とは言えない。養護教諭は,全学年の児童生徒の情報を得ているとともに,児童生徒が身体的・心理的な不調を訴える対象でもあり,児童生徒の状況を最も全校的視野で捉えることが出来る立場である。

 以上から,被災後の全ての児童生徒に必要である教育的な心理的支援のポイントを抽出することが出来るとともに,こうした視点での取り組みがあまりなされていないため学術的にも意義があると考える。

(3)国内外における本研究の位置づけ

 前述したように,本研究は,被災地の児童生徒への心理的支援の在り方を教師の目線で検証するものであり,国内外での取り組みも少数である。また,阪神淡路大震災での取り組みやその反省が東日本大震災で活かされたように,東日本大震災での取り組みやその反省がこの度発生した熊本地震での取り組みに活かされるとともに,今後の被災地での児童生徒への教育的な心理的支援の充実にも貢献できるものと考えている。

(経緯・背景)

 着想に至った経緯は,次の3点である。

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