特別な個別的支援の必要性を入学前後でアセスメントする方法についての研究-兵教大附属小学校での特別支援教育の充実に向けて-
 特別支援教育専攻・教授 石倉 健二

研究目的

(1) 研究目的

目的①:入学前の「線引き」「描線模写(ドットあり)」「図形模写」等のパフォーマンスと、入学後の「書字」の習得との関係を明らかにする
目的②:入学時の「情緒・行動的特徴」と、入学後の特別な個別的支援の必要性との関係を明らかにする。
目的③:「線引き」等のパフォーマンス及び「情緒・行動的特徴」「協調運動(上肢・全身)」の関係を明らかにし、特別支援教育の一環としての協調運動に関連する指導の可能性について考察する。

(2) 学術的な特色・独創性及び当該研究の位置づけ

 就学前後におけるひらがな書字習得に関連する能力として、「線引き課題」に見られる視覚と運動の協応能力、「描線模写(ドットあり)」に見られる空間認知能力や模写能力、「図形模写課題」に見られる模写能力がレディネス要因として指摘されている(尾崎,2018)。また、いわゆる「発達障害」に関連する「情緒・行動的特徴」の把握に、「SDQ(子どもの強さと困難さアンケート)」がしばしば用いられている。これらのアセスメントを入学時のクラス編成や入学後の個別的支援の必要性等を判断するために、入学前後に利用することの有用性について検討することが、本研究の特色である。
 さらに、「協調運動の困難(いわゆる“不器用さ”)」が書字を始めとした学習活動、情緒・行動面や自己評価、集団適応などに影響を与えることが指摘されている(大塚・石倉,2019)。そのことから、書字情緒・行動面の困難さを改善するために、協調運動に関連する指導の可能性について検討しようとする点が、本研究の独創的な部分である。なお協調運動に関連する指導は、特別支援教育で行われる「自立活動の指導」を念頭に置き、兵教大附属小学校(以下“附属小”)のチャレンジ教室での実践を想定するものである。

(1)着想に至った経緯

 研究代表者が附属小の入学試験で観察員となったことを契機として、入試結果を入学後の指導に活かすための方策や入学試験の検討に関わる機会を得た。特に附属小においては、入学時に新入生に関する諸情報が乏しいことから、クラス編成や入学後に必要になると思われる特別な個別的支援に関する情報を早い段階から収集することが求められている。
 そこで、令和3年5月附属小1年生を対象に「線引き課題」「図形模写課題」「SDQ」を実施し、その後、夏休み前後で「読むこと・書くこと・手先のこと」「情緒・行動面」などについて、担任らから聞き取り調査を行った。その結果、5月に収集した情報が1学期の学習や学校生活への影響を予測するために一定程度活用できる可能性が示されたが、調査項目が十分に焦点化されていないことが大きな課題であった。そのため、調査内容と項目をさらに明確にすることが求められている。
 こうした経緯から、附属小入学時クラス編成や入学後の特別な個別的支援の提供に資するアセスメント法について検討を行うことの必要性が、研究代表者と附属小の間で共有された。

(2)研究の背景

 小学校における特別支援教育ではいわゆる「発達障害」の児童が中心であるが、昨今はその中でも「協調運動の困難」を主訴とする「発達性協調運動症(略称:DCD)」が注目されている。DCDは自閉スペクトラム症、注意欠如・多動症、限局性学習症との併存が多いため正確な診断に困難さはあるが、一方で「協調運動の困難」は知的障害を含む神経発達症全般に共通し得る特性と言うこともできる。
 そこで本研究では、この「協調運動の困難」に関連する項目に着目してアセスメント法と指導法を検討するものである。日本国内では、通常学級在籍児童の「協調運動の困難」書字を始めとした学習活動や「情緒・行動面」等の関係について縦断的な調査は実施されていないため、本邦においては貴重な研究となる。

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