幼小連携における適時型入学体験活動の試み 〜STEAM教育教材の活用を通して〜 教育実践高度化・教授 溝邊 和成

研究目的

(1) 研究目的

 本研究は、幼小連携・接続期のカリキュラム開発の基礎的研究として、5歳児の小学校模擬体験活動をどのように導入すればよいかについて、小学校と連携しながら、STEAM教材を用いて検討することを目的としている。具体的には、幼小の教員が協働して、誕生月を配慮した5歳児3グループ(児童も含む)を対象に、STEAM教材を用いた小学校擬似体験活動を行い、幼児・児童の活動分析並びに教師・保護者への面接調査・質問紙調査よりその効果を明らかにすることである。

(2) 本研究の特色・独創性及び予想される結果と意義

 <特色・独創性>本研究は、これまで小学校入学直前の園児を対象に「一日体験入学」と称して一斉に実施されていた取り組みとは異なる活動を対象として、その効果・検証を行うことに特色があり、かつ独創性がある。とりわけ、幼児教育先進国と言われているニュージーランドの誕生月後の入学を認める制度を参考に、日本の実情に合わせたステップ方式の「適時型入学体験活動」を設定し、検討する点が研究アイデアとしてもユニークである。また、このような就学前の小学校模擬体験活動に、これからの教育の注目点として受け止められているSTEAM教材等を活用し、調査する点にも未着手の学術的基礎研究としての独創性が見られる。
<予想される結果と意義>「個別最適化された学び」として、幼児の生育状況に応じた入学体験時期を分散したことで、幼児の小学校への不安感軽減と期待感醸成が予想される。またSTEAM教材導入により、活動を共にする児童の成長変化が期待されるとともに指導者側の創造性育成の効果確認や教科統合・横断から教科分化への橋渡しを意識することが成果として予想される。さらに子どもの成長に応じた支援に対する保護者の理解が得られると受け止める。これらの点から、新しい幼小連携カリキュラム開発の一助になる意義が認められる。

(3) 研究の位置付け

 これまでの幼小連携の研究では、国内外ともに幼児の一般的な発達特性をもとに実践的な研究報告がなされることが多く、具体的な幼児の「個別最適化された学び」につながる生育期に着目して研究された事例は、管見の限り見当たらない。したがって本研究は、これからの新しい社会(Society 5.0)に向けた先駆的な取り組みとして受け止められ、今後の幼児・児童期のカリキュラム研究分野において、新しい知見と視点を提供する位置にあるととらえている。

(経緯・背景)

 本研究の着想に至った点として、次の3点に集約される。

 1点目は、新しい小学校学習指導要領及び幼稚園教育要領・保育所保育指針等に見られる日本における教育動向である。ここでは、「公正で個別最適化された学びの実現」をはじめ「STEAM」や「教科横断的」、「創造性の育成」、「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」などがキーワードとして注目される。これまでにも幼小連携のための取り組みがなされてきてはいるが、教員の研修も含め、こうしたキーワードを志向する実践的な研究がなされてきていない現状をとらえている。そこに問題の所在としての端を発している。

 2点目として挙げられるのは、科学教育に着目し、日本及びオーストラリアの取り組みを参考とした幼小連携カリキュラムに関連する研究である(ex.稲井・溝邊2017a,2017b,2018,Inai,Mizobe2018a,2018b,2019)。また、STEAM教育に関連した研究のあゆみも本研究のベースとなっている(ex.李・孫・溝邊2017,北田・溝邊・孫2018,Kitada,Mizobe,Son2019)。日本において、近年脚光を浴びてきたSTEM教育も、理科系を中心とした中・高等学校の実践研究報告が主流を占め、STEAM教育を含めても、幼児教育や小学校教育での先行研究がそれほど多くない点もこれからの研究が待たれる分野・領域と言える。また、STEAM教育は、教科横断的な活動・学習が意図される点も幼児教育の「総合的な遊び」から教科を意識する小学校教科制につながる点においてもその扱いは、教育方法等の学術研究として価値が高いととらえている。

 3点目は、ニュージーランドの幼児教育への視察経験(2015,2019)が契機となっている。幼児教育では「テ・ファリキ」や「ラーニングストーリー」などが注目され、それらについては、いくつか日本でも紹介されているが、2019年の公立幼稚園、プレイセンターなどでの訪問・インタビューとともに、小学校入学準備クラスの見学(ex. St.Josephs Catholic School Pukekohe)が本研究の発想の源になっている。ニュージーランドでは、義務教育は6歳から始まるが、5歳の誕生日以降、小学校(Year1)に入学することができるように入学前から教育段差への対応を進めてきている(Year1は、就学前の準備期間とみなされる)。こうしたシステムの日本への応用に関する事例研究は、今後の幼小連携のための重要な参考例になると考えている。

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