Society5.0時代における教師の力量形成に資する授業科目群の開発 学校臨床科学コース・准教授 奥村 好美

研究目的

(1) 研究目的

 本研究では、Society5.0時代における教師の力量形成に資する授業科目群を開発することを目的とする。それにより、従来の授業のあり方に捉われることなく、ICTを活用し、他者と協働的に、長期的・多角的な視点を持って新たな教育活動を設計・実践・省察・改善できるような力を育成する科目群の1つのあり方を提案することを目指す。本研究の学術的な特色・独創的な点は、①個々の科目で個別に資質・能力を育成するのではなく、複数の連携科目を通じて新しい時代の教師に求められる力を総合的に高めるあり方を提案できる点、②学びを個々の教職大学院内に閉じることなく、遠隔技術を活用して継続的に他の教職大学院と連携を行うことで、院生が多様な他者と学びを共有し協働的に省察する機会を創出するあり方を提案できる点にある。

 ①に関しては、個々の科目で個別に資質・能力を育成し、それらの力を統合することを各院生に委ねるのではなく、求められる力を院生が総合的に高められるように、4科目を授業科目群として相互に連携させる。具体的には、東京学芸大学の教職大学院の対話型模擬授業検討会を参考にアレンジを加えた模擬授業を行う科目を軸とする。そして、そこでの取り組みを一層効果的にするために、現職院生と学卒院生の協働的なあり方を学べる科目や、長期的・多角的な視点で教育活動を設計・省察・改善する方法を学べる科目を連携させ、軸となる科目で活かせるようにする。これにより、求められる力の総合的な育成が可能となることが想定される。

 ②に関しては、これまで教職大学院の科目が個々の教職大学院内に閉じられがちであったのに対して、本研究では兵庫教育大学と東京学芸大学の院生が遠隔技術を活用して継続的に連携する場を設ける。具体的には、チャットワークなどのアプリケーションを用いて科目ごとに学んだことや模擬授業の板書の写真などを蓄積していく授業ポートフォリオを作成する。そして、それを東京学芸大学の院生にも公開することで継続的に学びを交流する。この授業ポートフォリオを活用して、オンラインで東京学芸大学の院生と協働的に省察する場を設けることも想定している。ICTを活用して遠隔地の他者と継続的に学ぶ経験をすることで、院生はICTを生かした学びのあり方を経験を通して学ぶことができ、教師になった際にICTを活用した教育活動を設計・実践できるようになることが想定される。なお、将来的には、兵庫教育大学と東京学芸大学とで大学間連携を結び、教育課程内で連携を定着させることも視野に入れている。

 このような本研究には、Society5.0時代に求められる教師の力量形成に資する授業科目群の1つのモデルを提案することができるという意義があるといえる。

(経緯・背景)

 教師の力量形成に資する科目としては、これまでにも多くの教職大学院で工夫を凝らした科目が開講されている。特に教育活動の省察に関しては、東京学芸大学の教職大学院の渡辺貴裕らが「カリキュラムデザイン・授業研究演習」という科目で実施している対話型模擬授業検討会(渡辺貴裕、岩瀬直樹「より深い省察の促進を目指す対話型模擬授業検討会を軸とした教師教育の取り組み」『日本教師教育学会年報』第26号、pp.136-145)が近年注目されている。そこでは、コルトハーヘン(Fred A.J. Korthagen)の教師教育論を援用することで、院生が学習者の視点を持って協働的に省察を行い、深い気づきを得ることが大切にされている。そこで本研究では、渡辺らの取り組みに学びつつ、Society5.0時代の教師に求められる力をより総合的に育成することを目指し、独自の授業科目群を創出することとした。

 Society5.0時代においては、EdTechを活用しながら、従来の一斉一律の授業のみならず、公正に個別最適化された学びを実現することなどが教師に求められている。そのためには、自らの取り組みを省察し学び続ける力を育成することはもちろん、これまでの教師教育のあり方に捉われず、①他者と協働的に知を作っていく力、②場当たり的・一面的ではなく長期的・多角的な視点を持って新たな教育活動を設計・実践・省察・改善する力、③ICTを活用して多様な他者とつながり、協働的に学びを深める力はますます重要になるといえる。そこで、本研究では、兵庫教育大学版対話型模擬授業検討会を位置付けた科目とともに複数の科目を連携させて科目群とすることで①現職院生と学卒院生の協働的な学びのあり方や、②カリキュラムなど長期的な視点・海外の教育など多角的な視点を持って新たな教育活動の設計・省察・改善を行う方法を学べるようにした。加えて③ICTを活用して授業ポートフォリオという形で学びの履歴を蓄積し、それを活かして東京学芸大学の院生とつながることで学びを深められるようにした。さらに、より良い授業科目群の創出を目指すためには第三者の視点から取り組みを吟味することが重要である。そこで、コルトハーヘンの教師教育論やLesson Studyといった本研究の中核的事項に精通しているオランダの教育専門家と連携し、助言を得ることとした。これにより、幅広い視野と確かな専門性に基づき授業科目群を開発することが可能となると考えられる。

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