令和元年度からの教育課程における学びの可視化に関する研究―新カリの教育効果の検証― 理事・副学長 須田 康之

研究目的

(1) 研究目的

 本研究は、令和元年度から本学で実施している学部カリキュラムにおいて、学部学生が教員として必要とされる資質や能力をどのように獲得しているのかを明らかにすることにある。新しい教育課程を実施するために、平成30年度に、学校教育学部の課程名称を初等教育教員養成課程から学校教育教員養成課程に変更した。これは、小学校の教員のみならず幼稚園から高等学校の教員を視野に入れた教員養成を行なうことを意図するものであった。新教育課程の大きな特徴は、卒業要件単位を128単位とし、卒業と同時に、小学校1種免許状に加え中学校2種免許状あるいは幼稚園1種免許状という複数の免許状を取得できるようにしたことにある。小学校と中学校(あるいは幼稚園)の両方の免許状取得を必修とすることで、小学校6年間、中学校3年間の計9年間の義務教育段階にある子どもの成長に対して責任を担える教員を養成することを明確に打ち出したといえる。このために、①「初等国語」等初等科目1単位を1年次に配置し、3年次に「国語科教育法Ⅰ・Ⅱ」等各教科の教育法4単位を必修としたこと、②教育実習を再編し、4年次の中学校実習と高等学校実習4単位を必修にしたこと、③教養科目群の英語の必修単位数を4単位から7単位を増やしたこと、④初年次教育として「クラスセミナーⅠ・Ⅱ・Ⅲ」を配置し新入生に対して丁寧なかかわりをすると共に、「教養ゼミ」「学校課題事例研究Ⅰ・Ⅱ」を配置し、教員としての教養を身につけ、協働して課題を発見し課題を解決できるようにPBLを取り入れた授業を増やしたこと、がカリキュラム改革の特徴であった。加えて、1年次から学年全体を12クラスに分けたクラス制を採用し、2年次から中学校(幼稚園)の免許状を取得するためのグループ、そして3年次からは卒業研究の指導教員を決定して課題探究活動を行なう3つの学びの場を保証した。
 こうしたカリキュラムの改革と、学生の所属組織のあり方が、学生の学びにどのような影響を与えているのかを明らかにすることを本研究の目的とする。

(2) 研究の学術的特色・独創的な点及び予想される結果と意義

 本研究の第一の特色は、学生の学びのプロセスを明らかにするために、社会構成主義的アプローチを採用することにある。インタビューアーとなる教員自身が学生のキャリア形成にかかわっているという点を重視し、聴き取り調査の中での対話的やり取りを通して学生の学びのストーリーを共に創り出す。研究の第二の特色は、学業成績の経年変化をGPAならびに主要科目の成績によって押え、教員採用試験の受験の有無や合否の結果にどのように作用しているのかをパネルデータ分析によって行なう。1時点の変数間の影響関係ではなく、3時点以上のデータを取得することで、学生の学びのプロセスの解明が数量的分析から可能になる。

(3) 本研究の位置づけ

 学修成果の可視化は、大学教育の内部質保証をするために不可欠である。しかし、その手法は確立されていない。本研究を通して学修成果の可視化の方法論を確立し、それを学内外に公表する。本学学生の学びの現状を把握するとともに、それ踏まえた教育課程の再編を行なう。

(経緯・背景)

 この間、学修成果の可視化を行なうことは、大学に課された重要な課題となっている。しかしながら、その手法が確立されているわけではない。本学においても、アセスメントポリシーを策定し、TSS(Teachers’Standard-based Score)の得点を算出して学修成果の可視化に取り組んではいるものの、この得点をどのように扱うのかについて、共通認識があるとはいえない。そこで、まず、学修成果の可視化の第一段階として、本学に入学し本学のカリキュラムを履修して教員になっていく学生が、どのような課題に向き合い、それをどのようにして乗り越え、教員としての道を歩み出しているのかを明らかにする必要があると考えるに至った。その際に、現行のカリキュラムと指導体制がどのような教育効果を発揮しているのかを確認する必要がある。令和元年度からの教育課程の改訂は、小学校と中学校の両方の免許状を取得することに特徴があった。義務教育を担う教員としてそれにふさわしい資質や能力を身につけているのかを検証する必要があると考えている。
 第二段階として、統計学的手法を用いて学びの可視化をする際に、学生の学業成績は貴重な材料となる。経年的な資料が調っているのに加え、個人データが完備している。従って、パネルデータ分析を実施することにより、教員を職業として選び取らない学生に対して、また、教員採用試験に合格する学生とそうならない学生の4年間の学びのプロセスを把握することにより、適切な介入の方法を検討することが可能になる。質的な聴き取り調査ならびに量的な統計分析によって得られた結果をもとに、学生の意欲を喚起する支援体制をより強固なものにすることができると考えるに至った。

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