VEOを活用したオンライン教員研修プログラム開発のための基礎研究 教育実践高度化専攻・言語系教科マネジメントコース・教授 吉田 達弘

研究目的

(1) 研究目的

 本研究は,オンライン上での授業研究を中心とした教員研修プログラムの開発のための基礎研究を行うものである。オンラインでの教員研修プログラムを実現するシステムとして,イギリスのNew Castle Universityで開発され,その後,VEO Inc.が商品化したVideo Enhanced Observation(VEO)を活用する。VEOは,Apple iPad用の動画編集ソフトで,授業を撮影し,それをポータルサイトにアップロードすることで,グループ内で動画の共有ができる機能を実装している。これにより,関係者が教室に一堂に揃う対面式でなくても,オンライン上で協働的な授業研究に取り組むことが可能となる。また,VEOには,授業の特定の課題やポイントに目印を付けるタギングという機能があり,例えば,指導助言者が,授業の特定の場面にタグを付与し,授業者とその場面をめぐってテクストベースのディスカッションができる。本研究では,特に,教員の資質能力向上が課題となっている小学校の外国語・外国語活動を対象とし,授業を担当する2名の教員に協力を願う。また,システム構築だけでなく,指導助言にあたる大学教員による効果的なファシリテーションのあり方も検討する。

(2) 当該分野におけるこの研究(計画)の学術的な特色・独創的な点及び予想される結果と意義

 ビデオを活用した授業研究や教師の振り返り研究は,数多く報告されているが,それをオンラインで,しかも,授業研究に特化したシステムを活用した例は,少ない。日本でも教職大学院が増え,学校教育現場での実習機会が教育課程に組み込まれ,実習の中では,チームコンサルテーションが求められている。このような状況の中,対面式の授業研究に加え,オンラインでの研究の頻度が増えれば,学校教育現場と大学の間で,より質の高い授業改善,教員の専門的力量形成が実現でき,将来的には,英語だけでなく他教科の教員研修に利用可能になると考える。

(3) 国内外の関連する研究の中での当該研究の位置づけ

 VEOを使ったオンラインでの教員研修の開発は,本研究の分担者であるOxford University Press(OUP)トルコ支社のChristopher Sheen氏がトルコ国内,ベトナム,マリなどでパイロット的に実施しており,今回,開発者のPaul Miller氏,実践者のSheen氏と協同的に研究に取り組むことで,日本の学校教育環境に適したオンライン教員研修プログラム開発の基礎づくりを行う。

(経緯・背景)

 申請者は,小中高での校内研修で,授業の直後に撮影したビデオを活用する授業研究や教員のリフレクションの研究に取り組んできた。そして,2018年から,上述したVEOを活用し,英語授業を担当する教師の振り返り研究でその効果を発表している(吉田,印刷中,Yoshida, in press)。申請者がVEOを国内で最初に使用した研究者であったことから,VEO Inc.のPaul Miller氏と交流が始まり,Oxford University Press(OUP)が,VEOを使ったオンラインの教師研修プログラム(Digital Coaching with VEO)を開発中であるという話をうかがった。さらに,OUPのChris Sheen氏も交えて研究交流をする中で,日本の教員養成大学に適したオンラインでの教員研修システムの開発の話が持ち上がった。こういった経緯から今回の申請にいった。
 また,2020年度から新学習指導要領が実施となり,小学校には外国語科が導入される。このため,学校教育現場では,授業研究を通した教員研修のニーズが高まっており,申請者(吉田)は,令和元年度に県内外の小学校で実施された英語の授業研究で指導助言を行った。こういった対面式での研修に加え,オンラインでの研修システムが導入されれば,授業研究や研修の頻度が上がり,また,授業者の課題に焦点化した質の高い教員研修プログラムの開発につながると考える。
 また,本研究の成果は,今後の教職大学院での「学校教育基盤実習」「教科指導力向上実習」のチームコンサルテーションをオンライン化にもつながる。昨今,学校教育現場,大学ともに多忙化が増しており,実習期間中に学校を訪問し,現場で指導行う日程調整が難しくなっている。VEOによる授業研究が可能となれば,現場のメンターも交えて,オンラインでのディスカッションを実装することが可能となり,これまで以上に頻繁に,また,対話的なチームコンサルテーションが可能になることが考えられる。

【引用文献】

吉田達弘.(印刷中). 「『二人称的アプローチ』による英語授業研究の試み」浅川和也他編著『英語授業学の最前線』ひつじ書房.
Yoshida, T. (in press). A second-person approach toward understanding English language lessons: A sociocultural analysis of the post-lesson conversation. The European Journal of Applied Linguistics and TEFL.Vol.20.

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