Society5.0時代を生き抜く人材育成のための探究学習プログラム―「高校生版・Information Analysis 5&5」の有効性の検証― 教育実践高度化専攻・グローバル化推進教育リーダーコース・講師 吉田 夏帆

研究目的

 Society 5.0時代の到来ならびに情報化やグローバル化の進展等を受け、社会事象の複雑化や予測困難性の増幅がより激化すると言われている。また、選挙権年齢や成年年齢の引き下げに伴い、高校生にとって政治や社会が一層身近なものとなることから、我が国においても、学習者が自ら考え、積極的に国家や社会の形成に参画すべき環境が整いつつある。ゆえに、学校教育には、学習者が様々な変化に積極的に向き合い、他者と協働して課題を解決していくことや、玉石混淆の情報を見極めて知識の概念的な理解を実現し、情報を再構成するなどして新たな価値につなげていくことのできる資質・能力の育成が求められている[1]。このような背景から、2018年の学習指導要領改訂に伴い、高等学校において「総合的な探究の時間」が導入されることとなった。しかしながら、同学習指導要領では、探究学習の実施方針等は学校現場に一任されており、その具体的かつ効果的な枠組みや実践手法の詳細については明示されていない。それゆえ、学校現場(教師)は探究学習の導入や実施において様々な困難を抱えている[2]。そのような中、申請者らは、大学教育ですでに高い効果が確認されている国際的な探究型授業の枠組みをアレンジし、実に6年前から、高校生を対象とした一泊二日の合宿形式による探究学習プログラム「高校生版・Information Analysis 5&5」を実施してきた。

 そこで本研究は、この探究学習プログラム「高校生版・Information Analysis 5&5」に関する次の3点について検証することを目的とする。①同探究学習プログラムの目標や枠組みは文部科学省が提示する「総合的な探究の時間」のそれと合致しているか、②同探究学習プログラムは「総合的な探究の時間」で育成すべき学習者の資質や能力の獲得に貢献し得るか、③同探究学習プログラムは実際の学校現場においてどの程度実現可能性が見込めるものか。これらの検証を通して、本研究では、高等学校におけるより効果的かつ実現可能性ある探究学習プログラムの実践に資する知見やロールモデルの提示を試みる。

 なお、先行研究では、従来の探究学習について、「調べ学習との差異化が不分明」「学習者主体の探究学習の具現化が難しい」「学習指導要領が示す高次な探究になっていない」といった課題が指摘されている[2][3]。一方、この探究学習プログラム「高校生版・Information Analysis 5&5」では、「単なる調べ学習に終始しない探究のデザインとなっていること」「問いかけによる指導で学習者主体の探究を引き出す仕組みとなっていること」「一泊二日の合宿形式で行うことで集中的に探究を深める時間の確保が可能であること」といった点に特色があり[4]、これらがまさに、従来の探究学習とは異なる独創的な点になっていると言える。

[1] 文部科学省(2018)『高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説:総合的な探究の時間編』
[2] 一般社団法人英語4技能・探究学習推進協会編(2021)『探究学習白書2021』
[3] 本田由紀(2022)「高校の探究学習のテーマ設定場面における指導はいかに行われているか」『教育社会学研究』111: 5-24
[4] 關谷武司編(2021)『インフォメーション・アナリシス5&5:世界が変わる学びの革命』関西学院大学出版会

着想に至った経緯

 上述の通り、申請者らは、大学教育ですでに高い効果が確認されている国際的な探究型授業の枠組みをアレンジし、実に6年前から、高校生を対象とした一泊二日の合宿形式による探究学習プログラム「高校生版・Information Analysis 5&5」を実施してきた。この「Information Analysis 5&5」とは、単に情報を受け身的に取捨選択するだけではなく、自らが主体となって情報を分析・評価し、最終的には自分自身の考えを論理的に構築していくことを目的とした、高次の思考を促す探究手法である[4]。同探究学習プログラムでは、この探究手法を用いて一泊二日の「知の合宿」を行い、世界や日本で生じている様々な課題をテーマに、世の中の通説に対して、ファクトにもとづいてその検証を試みる。

 具体的には、「Information Analysis 5&5」の5つのステージに沿って探究を進める。まずインターネットを活用して課題の概略を掴み(Stage1)、そこでキーとなる情報(論点)を選択する(Stage2)。続いて、その情報をもとに図書館で関連文献を検索および収集し、得られた文献から検証に必要なファクトを拾い上げていく。さらに、それらの情報を「Information Analysis 5&5」の5つの観点(①根拠の検証、②背景の把握、③利害関係の把握、④論理性・妥当性の検証、⑤三角検証)にもとづきグループメンバーと検討を繰り返す(Stage3)。そして、真実はどのあたりにあるのかを議論を通して探究し(Stage4)、自分たちの考えを論理的に構築し最終結論を導き出す(Stage5)。これを一泊二日の合宿という缶詰状態で行うことで、参加生徒の知的好奇心を刺激し、グループメンバーとの協働で妥協のない探究活動を促すのである。

 同探究学習プログラムは、5人程度のグループに分かれて実施する。実施にあたっては、全体統括であるモデレーターの指導の下、各グループにはサブモデレーターが1人ずつ配置され、学習者の活動をより近くでサポートする。このサブモデレーターは「Information Analysis 5&5」の経験者等であるため、テーマの分析内容を詳細に把握しているが、活動中は学習者に答えを教えるのではなく、何度も問いかけを重ねることで、彼らが自ら真実に辿り着けるよう導くファシリテーター的役割を担っている。

 以上より、同探究学習プログラムは上記のような実践実績があるものの、その有効性については、未だ学術的には十分に検証されていない。ゆえに、本研究において、申請者らがその検証に取り組むこととした。

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