部落史研究の成果を組み込んだ社会科歴史授業の開発―小・中学校の歴史教科書の分析と授業開発を中心にして― 教育実践高度化専攻 授業実践リーダーコース・教授 米田 豊

研究目的

1 研究の目的

 本研究の目的は、歴史学研究(教科内容の研究、とりわけ部落史研究)の成果を組み込んだ社会科歴史授業を開発することである。

2 社会科歴史教育の分野における本研究の学際的な特色・独創性

 近年、歴史学研究(教科内容の研究、とりわけ部落史研究)の分野では、部落史に関する史料が多く発掘され、その分析、研究が進んでいる。その成果と課題は次の( 1 ) から( 5 ) のとおりである。
 これらのことが社会科歴史教育に組み込まれていない。最新の部落史研究を組み込んだ社会科教育学研究、授業開発、授業実践が喫緊の課題である。このことが、本研究の学際的な特色・独創性である。
( 1 ) 部落史の基点を近代とする研究
 近世「かわた」身分=近現代の部落という系譜は成り立つ。しかし、それ以外の要素で見た場合、この等式が成り立つかどうかは、歴史的検討が必要である。
( 2 )被差別部落の成立時期
 中世の「河原者」などが全く近世の被差別民衆に組み込まれなかったことは論証できない。おそらく、多くの被差別部落は中世末期に起源をもつ。今後の歴史的検討が必要である。
( 3 ) 分裂(分断)支配政策
 従来の分裂(分断)支配政策は、次のように転換されるべきである。近世中・後期になると、幕藩権力による差別的な民衆支配が強化された。そして、結果として民衆の間に反目の差別感情が浸透し、近世被差別部落民衆が分断された。
( 4 )近世の諸身分と序列
 近世の諸身分と序列は、つぎのように転換されるべきである。
 ① 支配身分として武士が存在し、その中にも階層があった。
 ② 被差別身分として、百姓・町人(職人・商人)・えた・ひにんが存在した。
 ③ 被差別身分の中にも支配層が存在し、階層があった。
( 5 ) 経済力の問題
 近世被差別部落は、超歴史的に貧困であったという歴史的事実はない。むしろ、近世においては、経済的に裕福であった事例もあり、階層性が存在した。

(経緯・背景)

 1.着想に至った経緯と研究の背景
 社会科教育の目標の一つは、社会諸科学の研究成果を組み込んで社会認識形成を行うことである。とりわけ、社会科歴史教育においては、歴史学、民俗学、文化人類学等の科学の研究成果を組み込むことが大切である。教科書執筆者は、このような研究成果を教科書記述に反映させようとする。しかし、部落史研究の成果が教科書に的確に反映されていない。当然、部落史研究の成果を組み込んだ教育現場の社会科歴史授業はほとんど行われていない。
 奈良県立同和問題関係史料センターをはじめとして、部落史の見直しのための調査研究が行われ、研究成果を発表している。(『同和教育の手引き第34集同和教育資料 部落問題学習の充実を目指して-「部落史の見直し」と教育内容の創造』奈良県教育委員会1992.03)部落史の見直しを理念として主張することは盛んに行われている。しかし、日々の社会科の授業の中での部落史の見直しを組み込んだ実践は見られない。研究代表者の奈良県教育委員会、橿原市教育委員会の社会科担当指導主事として県内の社会科授業を見てきた経験から指摘できる。
 教科内容の研究者(部落史の研究者)と教科教育の研究者(社会科教育)、教育現場の実践(社会科歴史教育) が共同で取り組むべき喫緊の課題である。

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