幼保一体化施策に関わる実証的研究と教員研修モデルの構築 人間発達教育専攻 幼年教育コース・教授 名須川 知子

研究目的

(1) 研究目的

 平成23年7 月29 日「子ども・子育て新システムに関する中間とりまとめ」が少子化社会対策会議決定として提示され、その中で、就学前教育の基本的な理念の確認と公的教育機関としての存在価値が課題となっている。まず、子どもが満3歳になった際には、学校教育を施すことを明言し、その就学前の子どもにとってふさわしい教育は、『幼稚園教育要領』等にあるように「遊びをとおした学び」とされている。しかし、それは我が国の幼児教育の現状においては不明瞭であると言わざるを得ない。そして、その理念を具現化しているのが「公的な」幼児教育機関であるのだが、多くの市町村では財政による公立幼稚園は経済効率の観点からその存在自体を危うくされている。それは、まさしく幼児教育の理念と実践が遊離した結果であると言える。したがって、本研究では、就学前教育としてのふさわしい教育理念を再確認すると同時に、その具現化である機関について分析することで、幼児教育理念がどのように体現されていくのか、行政プロセス形成の過程分析等をとおして明らかにしていきたい。また、そこで問われることは教師の質的向上である。幼保一体化としての教師教育のあり方について、モデルを構築したい。

(2) 特色・独創性及び予想される結果と意義

 本研究は、「理論と実践の融合」という観点から、幼保一体化に関わる幼稚園の統廃合に関する行政プロセス形成の過程を明らかにするところに独創性がある。理念は明確であっても、幼児教育はその地域の幼児にふさわしい方法を選び、つくりあげていく手法がとられるため、「遊びをとおした学び」のスタイルがスタンダードであることの認識も危うい状態である。公的就学前教育機関の意義と、幼保一体化における教員研修のあり方をモデル化することは今後の幼児教育の質の向上に大いに貢献できると考える。

(3) 国内外の関連研究と本研究の位置づけ

 幼保一体の成功例として、国外ではスウェーデンモデルを挙げることができる。一方近隣市町村では、現在三木市が、幼保一体の審議を実施しており、その審議経過の分析と相互理解について明らかにしたいと考えている。さらに、平成23年度兵庫県幼児教育推進会議では、「遊びをとおした学びの事例集」を作成中であり、その手引きを元に幼保一体化における研修プログラムを構築できると考える。

(経緯・背景)

 内閣府は、平成24年1月の通常国会に「子ども・子育て新システム」法案提出を目指しているという。一方で、兵庫県内の近隣の市町村では、今後の市町村の就学前教育のあり方を模索せざるを得ない状況となっており、幼保一体化の動きの中で、経済効率から公立幼稚園の統廃合もあわせて行政計画の中で語られている。このような中、第1に本来の就学前教育のあり方を再認識・共有化する必要があること、第2に主に公的教育機関である公立幼稚園が積み上げてきた「保育の質」をどのように維持することができるかということ、第3に幼児教育の高い質保障のための幼稚園教員と保育士との合同研修の必要性を感じている。
 現在、大学周辺の市からの要請で、幼保一体化としてのビジョンを明らかにするための問い合わせや相談が多く寄せられている。その中で三木市の幼保一体化ワーキング・チームでは、昨年から公私立幼稚園・保育所・行政、大学が一体になって幼保一体化のビジョンについて、話し合いを進めている。そこでは、国の方針の動きをみながら、現行の幼稚園・保育所の保育内容のプレゼン、保育観察を行い、従来の幼保の溝を埋めながら相互理解を深めている。また、その成果については、保育者はもちろん広く市民にも幼児期にふさわしい保育について考えてもらおうという趣旨で今年度未には公開シンポジウムを実施する予定である。一方、兵庫県幼児教育推進会議では、保育内容の充実の観点から「遊びをとおした学び」について、全県から事例を収集し、保育の質の向上と幼小連携に役立つ手引書を作成中である。幼児教育の理念を活かすには、特に就学前においては公的教育機関の果たす役割は大きく、また教育の質の確保には教師教育がかかせないのである。すなわち、「幼保一体化」は教育理念と行政の原点を探られる契機ともなっている。また、昨年、幼保一体化の成功例としてあげられるスウェーデンのプレスクールを訪問し、我が国と同じく二元化と待機児童の問題を抱えていたが、幼保一体化の政策推進後は、結果として待機児童解消となっていることを知った。幼保の問題は政策と大きく関連しており、行政との関わりの中での幼保一体化の推進を研究することは「理論と実践の融合」の観点からも大変意義のあることと考えている。

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