言語習得理論に基づく小学校英語教育のプログラム開発 教育内容・方法開発専攻・文化表現系教育コース [言語系教育分野(国語)]・准教授 菅井 三実

研究目的

 本研究課題の目的は、言語獲得の領域で注目を集めている「用法依存モデル(usage-based model)」と「比喩的拡張(metaphorical extension)」という2つのモデルを小学校英語の環境下で解釈し、実際の小学校英語教育でのデータと照合しながら多角的に検討を加え、どのような入力(input)を児童に与えることが有益かを導き出すとともに、簡便なデジタル教材を提供することにある。「用法依存モデル」は、英語圏における英語の母語習得について具体的なプロセスを説明するものであり、そのプロセスとの比較において、小学校英語教育の環境下で児童が英語を学ぶプロセスにどのような相違点があるかを分析する。その上で、小学校英語教育に適合したコンテンツを作成して、視覚教材という形でHP上から提供できるように手配することを目標とする。
 本研究の特色として、「用法依存モデル」が、第二言語習得、特に日本語教育で本格化されようとしている中で、小学校英語への応用は未だ試みられておらず、本研究は、その先駆的な試みとなることが挙げられる。同様に、「比喩的拡張」も、単純な原理で語彙の拡張を促進する汎用性の高いモデルでありながら、小学校英語への応用が見られないことから、萌芽的研究となる。
 本研究の位置づけとして、科学研究費補助金基盤研究(C)「国語科と英語科の連携による教員と学習者のための教科内容高度化プログラム開発」(研究代表者 菅井三実, 2012-2014年度)が、中学校・高等学校における言語教育を対象としていたのを補う形で、小学校での英語教育に対象を広げるのである。

(経緯・背景)

 小学校英語が必修化される中で、中学校との連携・中学年への拡大・将来的な科目化といった課題を視野に入れるとき、歌やゲームを中心とする遊び的な側面から語学としての実践的な学習内容を充実させる方向に進めていく必要性を認識していた。というのも、現状の英語活動は、英語の入力を促進する手段として歌やゲームが多用されるものの、入力したものがどのように吸収され習得されるかに関する検証が成立していないからである。
 一方、言語研究の知見から提唱された「用法依存モデル」は、言語獲得に関して高い説明能力を持ちながら、小学校英語への応用は進んでおらず、その萌芽的研究として本研究課題を設定したところである。また、中学年からの英語学習にも耐えられる学習モデルを導入する必要があるとの認識から、英語圏の子どもが母語としての英語を習得するプロセスに小学校英語指導の手がかりを求めようという意図もある。同様に、「比喩的拡張」も、単純で汎用性の高いモデルとして教育効果が期待されながら、小学校向けには応用されておらず、教材化が待たれていたところであった。
 言語習得には、狭義の言語的情報のほか、五感による言語外的情報が手掛かりとなることが指摘されているが、視覚情報を含む教材を作成することによって、言語外的情報を補充できるのではないかというアイディアを含んだものでもある。

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