
(1) 研究目的(何をどこまであきらかにしようとするのか)
新学習指導要領における「在り方生き方教育」の理念やコンセプトを視点に、次の代表的な研究実践や取組に研究対象を焦点化する。
- ・「公民科」、「特別活動」等新学習指導要領下における「在り方生き方教育」の取組における成果と課題
- ・研究開発学校「公共」(兵庫県) における理念的な枠組みや実践における成果と課題
- ・大阪府における高等学校での「志学」の取組における成果と課題
- ・茨城県や埼玉県等首都圏における高等学校道徳教育の取組における成果と課題
- ・英国・ドイツ・韓国における高等学校段階の道徳教育にあたる取組の諸特徴の分析
- ・これらを教育課程編成のレベル、教育内容(コンテンツ)のレベル、指導方法のレベル、それに伴う条件整備のレベルにおいて総合的に分析・検討を行い、次期教育課程編成上の改善の方向性を教科等の枠組み、教育内容や指導方法を例示しながら提言としてまとめる。
(2) 当該分野におけるこの研究の学術的特色・独創的な点及び予想される結果と意義
- ・新学習指導要領における「在り方生き方教育」の理念やコンセプトを基軸に据えて、各都府県の実践や諸外国の動向を分析するものであるということ。
- ・次期学習指導要領改訂へ向けて、「在り方生き方教育」に特化してその改善の方向性を提言(教育課程編成の方向性及び学習プログラムの展開案) するものであること。
- ・新学習指導要領では、高等学校道徳教育の充実に向けて「全体計画」の作成が求められたところであるが、どのように改善・充実を図っていくか、各高等学校における具体的方策・実践への示唆となる。
- ・「在り方生き方教育」の改善・充実に向けた諸課題や条件整備の問題に言及することで、高等学校教員の研修や養成・教員免許制度等の課題にも影響を与えるとともに、専門職学位課程における高等学校教員の指導力向上に向けた充実策にも寄与するものと考えられる。
(3) 国内外の関連する研究の中での当該研究の位置付け等
- ・平成20年の中央教育審議会答申、平成21年の高等学校学習指導要領公示等に前後して、高等学校における道徳教育の新たな取組が一部の都道府県で先行的に試行されてきた。しかし、それらについて総合的な比較研究が行われているわけではない。文部科学省が指定した研究開発学校の取組(平成16~18年度)や茨城県の高等学校「道徳」の取組(平成19年度~)がその先鞭をつけ、現段階では埼玉県(平成22年度~)や千葉県(平成25年度~)での実施、東京都における「奉仕」から「道徳」への変更(平成25年度~ ?)等首都圏での新たな動きが広がるとともに、さらに研究開発学校における「公共」(兵庫県)の取組、大阪府における「志学」の取組等が注目されている。まさに、その検証を行う段階に来ていると言えよう。
- ・小川一郎氏の『「在り方生き方指導」の理論と実践』(1992)が先駆的であるが、高等学校道徳教育に係るほとんど唯一有力な先行研究については、兼松儀郎氏の一連の研究「中等教育を一貫する道徳教育の内容構成と指導方法に関する実証的研究」(2 0 0 5 -2 0 0 6 )、「社会的自立を促す高等学校道徳教育プログラムの開発に関する研究」(2 0 0 7 -2 0 0 8 )、「生きる意味の哲学的探究を根幹にすえた高等学校道徳教育の構築に関する研究」(2 0 0 9 -2 0 1 1)が挙げられる。これらはアーティキュレーション、社会的自立などの視座からの示唆に富む実証的研究である。
- ・本研究はこれらをレビューしつつ、 「在り方生き方教育」のコンセプトを基軸に据えて、国の教育政策の動向や各都府県教育委員会の取組等を視野に入れつつ、本邦において新たな展開軸を見せつつある「在り方生き方教育」の理論や取組を俎上に載せ、これからの方向性を占おうとするものである。
(経緯・背景)
- ・平成24~平成25(あるいは継続できた場合平成26)年度の研究期間の適時性
ほぼ10年ごとに学習指導要領の改訂作業が行われ、今回の改訂作業が平成17年から始まったことを考えれば、この研究の適時性が指摘できる。次期改訂に向けた有力なエビデンスを提供することができる。
- ・平成22年度先行実施による高等学校における道徳教育(「全体計画」の作成)の充実への模索
全体計画作成を機に十分に進んでいるという評価は未だに聞き及んでいない。全体計画を作成して終わっていないか。高等学校道徳教育の次の一手は何かを模索している段階である。また取組への方向性や具体化など実践上の課題がある。
- ・研究代表者及び共同研究者のこれまでの実践・担当業務や研究経過、ネットワークの活用
研究代表者及び研究分担者は、これまで中学校・高等学校における道徳教育・生徒指導等の改善・充実について実践的側面・行政的側面・研究的側面等からかかわってきた。そのリソースやネットワークを活用して、高等学校教育の充実策について「在り方生き方教育」の観点から整理することが大きな課題解決に繋がると考えられる。
- ・専門職学位課程における高等学校教員等の抱える課題への対応
専門職学位課程に入学する高等学校の現職教員、さらには高等学校教員を志望する学生の課題解決に応える理論と実践を架橋する教育内容・方法を創造することが求められている。