乳幼児期の防災教育とESDに関する研究―環太平洋地域におけるSDGsを踏まえて 理事・副学長 名須川 知子

研究目的

(1) 研究目的

 乳幼児期の防災教育として、自然環境の恩恵と脅威に関するESDを加え、自然災害への防災教育としてのSDGsのNo.4とNo.13の観点から質の高い教育の中の乳幼児の発達・ケア及び就学前教育へのアクセスや気候変動に起因する自然災害に対する防災力を検討する。ESD,SDGsによる持続可能な発展を基底にした「乳幼児期の防災教育のモデル」(以下モデル)構築することを目的とする。

(2) 学術的な特色・独創性

 本研究は、防災教育をとおして、自然環境に対する恩恵と脅威を含めた畏怖の意識を育むと共に、単なる形式的な訓練に終わらない、ESD研究の継続とSDGsも目標を踏まえた、防災としての理論と実践の両面をもつ研究である。また、そのモデル構築については、同じような自然災害に遭遇している環太平洋地域であるニュージーランド、台湾との国との共同研究を進めることで、課題の共有と工夫を学び合うことで、モデル構築への示唆を得ることが目的である。また、就学前の乳幼児期は、子どもだけではなく、家庭教育を視野に入れるため、子育てに関する機関を中心とした、災害への危機意識や連携によるモデル構築が欠かせない。そのためにも、ニュージーランドにおける日常的に記録方法(ラーニング・ストーリー)の利活用も有効な方法であると思われる。以上、防災教育の基底としてのESD,そしてSDGs、記録による意識の向上、そして防災への親子に対する教材開発等が特色である。

(3) 国内外での研究の位置づけ

 わが国では、幼稚園、小学校以上での教育機関での防災教育は推進されつつあるが、いずれもESDと関わって実践・訓練がされていない。また、就学前の親子の防災、家庭教育としての防災には、殆ど研究がされていない。しかし、台湾での国家主導の教育やニュージーランドでの自然環境教育等では、先進的な知見が多くある。2020年秋には環太平洋地域の国々としてのシンポジウムを開催し、共同研究を発表する予定である。

(経緯・背景)

 わが国おける乳幼児期のESDに関する教育については、2010年のスウェーデンでの世界幼児教育・保育機構会議を契機に国内の7名による研究者グループが形成され、学会シンポジウム等で継続研究した。その結果、2018年には『持続可能な社会をつくる日本の保育』(かもがわ出版)を出版した。その本の最終章「震災とESD」において、地球と共に生きていく人間として、自然に対する「享受権」があるのであれば、人間が自然をもっと理解しようとする姿勢が求められて当然である、ということに気づいた。すなわち、自然の恩恵と同時に脅威について考えることで、暮らし方の方法による減災、さらには、防災への備えが異なるのでは、ということである。2017年には、本学の研究プロジェクトである「大学の機能強化としての就学前教育専門職養成の高度化と幼小連携を含めた総合的カリキュラム開発」(プレ研)において、わが国とタイにおける子育て文化について、ESDの観点から国際シンポジウムを開催、2018年には「幼児教育におけるESD」として、自然の恵みとESDのテーマで台湾から、ESDとラーニング・ストーリーとしてニュージーランドからの基調講演及びパネルディスカッションを実施した。特に、大きな自然災害を受けた神戸市の幼稚園、福島での幼児教育の実践等を紹介し、保育におけるESDと防災教育の関連に焦点をあてることになった。さらに、2019年には「防災教育としての連携のあり方」のテーマで、台湾での国家主導の防災教育や福山市での地域と保幼小連携による防災訓練の実際を紹介し、パネルディスカッションでは、SDGsにおけるNo.4の教育やNo.13の気候変動も含めて、今後の防災教育の方向性を見出した。さらに、本学でも2018年11月にはやまくに地区における附属幼稚園・小学校・中学校及び子育て支援ルームも含めた連携した合同防災訓練を実施した。特に子育て支援ルームでは、合同訓練前後にESDを含めた親子の防災講座を実施した。いずれも日々の生活を見直すことであり、その効果的な方法として、ニュージーランドのラーニング・ストーリー援用することである。これは現在、子育て支援ルームでの「げんきプレイストーリー」として試行している。以上のことから、本研究に至っている。

Page Top