令和6年度学校教育学部学位記授与式式辞
令和6年度、兵庫教育大学学校教育学部158名の卒業生の皆さま、ご卒業おめでとうございます。兵庫教育大学を代表いたしまして、心よりお祝い申し上げます。
保護者の皆さま、本日はたくさん方のご参列を頂きまして、ありがとうございます。ライブ配信を通じてオンラインでもたくさんご参加いただいております。お子さまのご卒業、おめでとうございます。4年間、本当にご支援、ご協力ありがとうございました。兵庫教育大学は、こういう地にある、小さな大学ではありますが、文部科学大臣から教員養成フラッグシップ大学に指定されており、日本の最先端を行く教員養成の研究を進めております。その3年目の評価では、唯一、最上位のS評価をいただきました。お子さまのご卒業後も、ご縁を持っていただけると大変ありがたく思います。
さて、今日は、教師の学びが大きく変わりつつあることをお話ししたいと思います。
卒業生の皆さんは、授業観・学習観の転換が今求められていることをご存じですか。本学は教員養成フラッグシップ大学として先端的な研究を進めていますが、その中心テーマでもありますので、大学の授業でそのことを知った方も多いと思います。
学校教育は、子どもたちに、これまではどちらかというと、一斉授業で教師が知識を伝達する、注入する、あるいは教師が子どもたちを教え導くという性格が強かったと思います。しかし、変化が激しく、予測が難しい社会を生き抜く子どもたちには問題解決力を身につけることが必要であるとして、子供たちの学びは子ども自らが主体的・自律的に行う、子どもひとり一人のニーズに合った個別最適な学びと、子どもたち同士での協働的な学びに変わらなければなりません。
そこでは、教師は子供たちを教え導く人ではなくて、子どもたちの学びの支援者、学びによる子どもたちの発達や成長の伴走者ということになります。このような子どもの学びや伴走者としての教師の支援を手助けするのがデジタルの教材や機器です。簡単にいえば、これが授業観・学習観の転換ということです。
このように授業観・学習観の転換によって子どもの学びと教師の役割が大きく変わるのですから、教師の学びも変わらなければなりません。教師の学びの姿は子どもたちの学びの姿の相似形でありますので、教師自身の学びにおいても見方を転換する、つまり研修観を転換することが必要となります。すなわち、教師の学びにおいても、与えられる研修、受け身的な学びではなくて、教師が主体的・自律的に行う、教師一人一人にとっての個別最適な学びと、校内研修や授業研究など現場での活動における教師間の協働的な学びを中心にすべきということです。実は、皆さんは本学の授業でグループワークやフィールドワークを取り入れたPBL型の授業を多く経験していると思いますが、それが協働的な学びです。
このことを改めて強く自覚してください。自分で主体的に自律的に自分の必要とする研修を選択するようにしてください。その際、兵庫教育大学は多彩な内容の教員研修プログラムを用意していますので、是非活用してください。同じ講座に参加する先生方との協働的な学びができると思います。教育委員会の主催する研修も協働的な学びをするものに変わりつつあります。また、協働的な学びのできる校内研修づくりにも、皆さんの方が先輩方より大学でそれを多く経験していますから、積極的に参画してください。
皆さまは、これからいろいろな進路に向かいますが、本学の卒業生の場合、四つのパターンがあります。
一つ目のパターンは、教師に正規採用されて来年度から就職する方、保育士に採用されて就職される方です。それぞれの学校や保育所等で頑張っていただきたいと思います。ただ、そうそう順調にはいきません。特に最初が大変です。そこでの経験は必ず生きますので、いろいろな方と相談して乗り切ってください。そしてまた、よりレベルの高い学びを求めて本学の大学院に来てください。
転職のハードルが低い時代になっています。教師はつぶしがきかないと思ったら大間違いです。子どもとコミュニケーションできる力は他の職でも重宝されます。教職から他の職に移り、また教職に戻るというキャリアがあってよいし、それはむしろ学校によい影響をもたらすでしょう。
二つ目のパターンは、教師にはなるのですが、教員採用試験に合格できなくて、臨時講師に就かれる方です。臨時講師が減っているのです。これが、今の教師不足の一番の原因です。校長先生や教育委員会の方は、臨時講師を経験した方をむしろ歓迎します。なぜかというと、苦労しているし、いろいろな経験を積んでいるので、即戦力になります。そのために、教育委員会は採用試験で臨採経験のある方に加点しています。加点割合が、最近はより高くなっています。本学の卒業生の中で臨時講師を経験し、その後正規採用されて、大活躍している人はたくさんいます。
三つ目のパターンは、教職に就かずに民間の企業に入ったり、公務員などになられる方です。自分が選択した進路ですので、それぞれの道で頑張っていただきたいと思います。教員免許を取得しています。これからの長い人生、いろいろなことがありますので、また教師になりたいという思いも起こってくるでしょう。そのときは、果敢にチャレンジしてください。教員免許は更新制がなくなりましたので、一生有効で、かつ採用試験の年齢制限もほぼありませんので、いくつになっても教職に就くことができます。また、他の世界を経験した方を学校や教育委員会は歓迎します。なぜかというと、教師集団の多様性が高まるからです。
最後、四つ目のパターンは、大学院に行かれる方です。本学の大学院に進まれる方が増えておりまして、われわれは喜んでいます。教職のスタンダードは学部卒ではありません。大学院の学びをした方が教職のスタンダードです。これからすぐに大学院に行かれる方は、そのスタンダードを早々に獲得することになります。ご存じのように、教職大学院などの大学院に進学して教師になった人の第一種奨学金、最高月額が8万8,000円ですが、これの返還が全額免除される制度が始まりました。なぜ、ここまでして大学院に行って教職に就く人を優遇するのかといいますと、国として教職の標準を大学院レベルにしようとしているからです。
これからの皆さま方の人生において、本学の4年間の学びが支えとなることを祈念いたしまして、私のお祝いの言葉とします。どうぞご活躍ください。
令和7年3月21日 国立大学法人兵庫教育大学学長 加治佐哲也