私は40年以上、教育公務員として現場と教育行政の両方に携わってきました。若い頃から管理職を経験し、学校と教育委員会を行き来しながら、実務の中で多くを学んでまいりました。しかし、さいたま市の教育長に就任したとき、これまでの経験だけでは判断しきれない場面が増え、自分のこれまでの経験と積み重ねてきた知識を体系化する必要性を感じるようになりました。
教育長の仕事は非常にハードで、日々の意思決定は重く、責任も大きい。その中で、「経験を学問として整理し直し、理論的な裏付けを持ちたい」という思いが日に日に強まっていったのです。忙しさを理由に学びを諦めるのではなく、むしろ忙しいからこそ学ばなければならない──そう感じたことが、入学の大きな動機でした。
学び始めてすぐ、教諭時代や教育行政での経験が、面白いほど体系化されていく講義にワクワクしました。そして、フィールドワークなどを通して、自分が立てた問いに迫っていく学びに、確かな手応えを感じました。
また、コースには、自治体も職種も異なる多様な受講生が集まっています。学校現場の教員、教育委員会の職員、自治体の政策担当者など、立場が違えば教育へのアプローチも全く違います。その人たちと議論することで、自分の見落としていた視点や新たな発想気づくことができました。 教育長にとって、多様な立場の人たちと議論できるこの環境は非常に貴重だと感じました。
私は教育長を「選挙を経ない政治家」のような側面があると考えています。教育行政は、教育者としての理想だけでは動かせません。組織を動かすための組織論、自治体の財政構造、政策形成のプロセスを理解する必要があります。また、首長との関係が政策実現の鍵になります。 例えば、さいたま市は一般・特別会計を合わせて1兆円規模で、最終決裁権者は首長ただ一人。教育には莫大な予算が必要であり、教育長が首長と対等に議論し予算を確保できなければ、教育行政は前に進みません。市議会の理解を得ることも欠かせません。教育行政は政治的意思決定と密接に関わるため、教育長には政治家と同様の視点が求められるのです。
一方で、教育長には教育に向ける純粋さも大変重要だと思います。人が学び育つことを何よりも大切にする心です。私はよく学校に足を運び、子どもたちと直接関わることも大切にしてきました。 どんなに忙しい日々でも、子どもたちとの語らいは私にエネルギーを与えてくれました。教育者としての純粋さと、政治家としての現実感覚──この二刀流こそが教育長に求められる力だと思います。 教育の重要性や教育委員会が抱える公共施設の多さなど、教育行政が自治体に与える影響は想像以上に大きいことを、教育長は自覚する必要があるでしょう。
全国的に教育長の人材不足は深刻です。特に小さな自治体はマンパワーがなく、教育行政をマネジメントできる人材が圧倒的に足りません。だからこそ、自ら学びの門を叩く教育長は貴重ですが、学びの場が十分にあるわけではありません。このコースが果たす役割は非常に大きいと感じています。 自治体の規模が違えば課題も違いますが、教育長としての視点には共通点も多く、互いに学び合えるはずです。教育長や教育長候補となる方が議論しながら学べば、全国の教育行政の底上げにつながるでしょう。
最近、教育関係のイベントに参加した際、全国で活躍する教育長や教育委員会の幹部職員として紹介される方の中に、本コースの修了生が何人もいました。コースで学んだ人材が、実際に自治体で成果を上げ始めていることを実感し、非常に心強く感じました。 ここで学んだ人たちが全国で教育長として活躍し、教育行政を前に進めていく未来を期待しています。
インタビュー実施:2025年12月(オンライン)