理論と実践の融合を目指すピア・メディエーションプログラムの開発―「集団や社会の形成者としての視点」を働かす特別活動を目指して- 生徒指導実践開発専攻・特任教授 池島 徳大

研究目的

本研究の研究目的は、次の3つである。

当該分野におけるこの研究(計画)の学術的な特色・独創的な点及び予想される結果と意義

 「ピア・メディエーションプログラム」の開発研究は、日本国内ではまだ十分に行われているとは言い難い。諸外国の実践を参考にしながら、試行錯誤が行われている段階であるといえる。しかし、その試行錯誤的な諸実践のなかから、諸外国の実践を調査することによって、さらに日本の文化に適合したプログラムの開発が期待できる。現に、池島(2011)は、その先駆的研究として公刊(「ピア・サポートによるトラブル・けんか解決法! ほんの森出版」)しているが、さらに改善の余地があると考えている。今後予想できることは、イギリスでは、日本の学習指導要領にあたる「ナショナルカリキュラム」の「シティズンシップ・エデュケーション(市民性教育)」のなかに、「ピア・メディエーション」が取り上げられているおり、我が国においても、特別活動」のカリキュラムに、いじめ問題解決の予防的対応策の一つとして取り上げられるよう、啓発を図っていきたい。

(経緯・背景)

 筆者は、これまで学校でおこるいじめ問題にどのように対応していくかについて、学校教育臨床の視点 から臨床研究を行ってきた。特に、子ども同士のもめごと問題への介入策について、いじめ予防、生徒指導の開発的指導の視点から、欧米で行われているピア・サポートに着目して実践研究を進めてきた。それが、ピア・メディエーションである。ピアとは仲間を意味し、メディエーションとは調停、仲裁をさす。子ども同士で起こるトラブルは、全国どこの学校でも日常的に起こっている。このようなときに、最も身近にいる子どもたちが、解決の担い手となって関わることができるよう、関わり方や解決スキルを教えていくことは、極めて大きな教育的効果をもたらすであろう。これまでに得た臨床的知見を述べれば、例えば、低学年の子ども2人がけんかしている場面遭遇した高学年の子ども(すでに、トラブルへの関わり方や解決スキルのトレーニングを受けた子ども)が二入に関わり、首尾よく解決できたとすれば、二人の当事者はもとより解決した高学年の子どもにも、大きな満足感得られるに違いない。また、手助けした子どもには人の役に立つことをしたのであるから、二人から感謝されて自己有用感も高まるであろう。これが、まさにピア・サポートなのである。筆者もかつて小学校教員時代に経験したことだが、学校現場ではなかまづくりをとても大切にし、そのための人間関係形成の取組も行ってきている。しかし、よく考えてみると、人間関係が深まっていく過程においては、必ずといってよいほど葛藤や対立が起きる。そこで、発想を転換して、教員がなかまづくりを進めていくのと平行して、トラブルが起こったときに、民主的な解決方法を教え、実際に学ぶ機会(つまり、理論と実践の融合を図る機会)をつくって深く学ぶことは、アクティブ・ラーニングと言ってよく、教育的効果はかなり高いといえる。問題の解決を通して、ともに成長しようとする態度を育んでいくことは、集団や社会の形成者となっていく上において大きな教育的意義がある。しかし、残念ながら、教育現場にはトラブル問題の解決への具体的な方法を熟知していないことが多く、スキルトレーニングしていないため、経験則による指導となっていることも少なくない。

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