汎用的な能力の育成を意図した社会科教科書と授業の開発— 小中学校「環境」単元を事例として- 教育実践高度化専攻 授業実践リーダーコース・教授 米田 豊

研究目的

(1) 交付期間内に明らかにすること

 本研究は、汎用的な能力の育成を意図した社会科教科書と授業の開発を小中学校「環境」単元を事例として行うものである。このことは、次期学習指導要領の改訂への対応を視野に入れ、理論と実践が融合された小中学校の新たな授業モデルを提案することになる。
その内容は次の3点である。

これらの研究成果を教育研究大会(例:兵庫県中学校社会科教育研究会丹有大会)等で発表したり、研究成果を冊子で公表したりすることにより構築された理論と実践の有効性を明らかにすることになる。

(2) この研究(計画)の学術的な特色・独創的な点および予想される結果と意義

<学術的な特色・独創的な点>

 本研究の学術的な特色・独創的な点は、次の3 点である。

(3) <予想される結果と意義>

本研究で予想される結果と意義は次の2 点である。

(3) 国内外の関連する研究の中での当該研究の位置づけ

学習指導要領と社会科に関わる先行研究では、米田豊が今次改訂のキーワードとなった「習得・活用・探究」と社会科の関係を明らかにしたものがある(米田豊編著『「習得・活用・探究」の社会科授業&評価問題プラン』明治図書 2011.6)。また、米田は「言語力」の視点でも社会科授業のどの場面でどのような言語力をつけることが可能かを明らかにしている(岩田一彦・米田豊編著『「言語力」をつける社会科授業モデル中学校編』明治図書 2009.9)。これらの先行研究は、本研究において「汎用的能力」をどのように社会科授業で育成するかについて考える視座となるものである。

また、学校現場の実状にあった理論と実践の融合の取組に関する先行研究として、中学校の年間カリキュラムに調査活動を現実的に組みこんだ「身近な地域の調査」の授業開発がある(米田豊研究代表『中学校社会科地理的分野「身近な地域の調査」の授業開発-社会認識形成の視点からの「地図活用」を中心にして』三教育機関共同研究‐平成23-24 年度)。さらに、社会科教育における思考力・判断力・表現力の評価方法の開発を教育現場の実態把握からとらえなおした研究がある(米田豊研究代表「社会科における思考力・判断力・表現力の評価方法の開発」国立教育政策研究所公募型プロジェクト研究報告書 2014.3)。これらの研究は、本研究における理論構築と教科書や授業の示唆となるものである。

(着想に至った経緯等、研究の背景について)

 理論と実践の融合という理念は語られるものの、その実現には困難が伴う。それは理論と実践を結ぶ架け橋を期待される教科書に問題があるからである。教科書記述と資料の構成の不十分さや教科書記述が現実社会の実状と齟齬がある。このようなことが要因になって、主たる教材であるはずの教科書が学校教育現場では十分に活用されていない。学習指導要領の理念を具現化したものであるはずの教科書が十分に活用されないことにより、教員ごとで指導内容に差がでたり、旧態依然とした知識注入型の社会科授業が行われたりしていることも少なくない。従前から知識注入型の授業の限界については指摘されている。

また、平成26 年3 月31 日に文部科学省は「育成すべき資質・能力を踏まえた教育目標・内容と評価の在り方に関する検討会」がまとめた提言でも、今後も「探究」する社会科授業の必要性が高まることは明らかである。「探究」する社会科授業に対応する「環境」単元を事例とした教科書を開発し、その教科書をもとにした授業実践を行うことは提言の趣旨にもかなうものになる。

特に、小学校「環境」単元においては自然環境の保護に関する記述が多く、ともすれば価値注入型の社会科になる危険性もはらんでいる。この点からも、価値判断における事実の分析的検討を可能とする教科書を開発することは合理的な意志決定学習に有効となる。

理論と実践の融合のためには、何で理論と実践を結ぶかという視点が必要である。そこで、本研究ではどの教室でも使われ、すべての子どもがもっている教科書に視点をおいて進めていく。

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