中学校の諸活動におけるキャリア発達を促す共育活動の効果に関する研究―キャリア教育モデルプランの提示を基に― 教育実践高度化専攻・教授 松本 剛

研究目的

 本研究の目的は、中学校におけるキャリア発達を促進するために有効な教育課程を開発することである。キャリア教育の諸理論(機能理論、発達理論など)に基づき、キャリア教育における基礎的・汎用的能力(文部科学省.2011) と関連づけながら、中学段階において必要なキャリア教育モデルを立案する。
 中学校においてキャリア教育を推進するには、単なる出口指導に陥ることなく、生徒の発達段階に応じたキャリア発達を促す教育が必要であり、キャリア教育について正しく理解させ、有効なキャリア教育履修を教育課程に位置づけて指導することが重要である。そのためには、学校教育諸活動を見直し、キャリア発達にとっての課題を明確にしつつ、生徒のモチベーションを高める取り組みを継続することが重要となる。そこで本研究では、附属中学を実践校として、学校教育諸活動や各教科における教育内容を、生徒のキャリア発達を促す効果から吟味し直すこと、そして、生徒のキャリア教育へのモチべーションを高める具体的な教材作成や、教育諸活動におけるキャリア発達効果の測定などを通じて、中学校におけるキャリア教育モデルを示したい。

 本研究は単なるプランの作成だけでなく、キャリア理論に基づいたキャリア発達を促進する内容を持ち、その教育的効果についての検証は教育心理学の知見から客観的に評価されるものであり、科学的な手法を用いた分析に基づいている。
 キャリア教育の充実に関する閣議決定(教育振興基本計画,平成20年)を受けて、学校教育におけるキャリア教育の充実が求められている。しかしながら、どのような具体的方法や教材によってキャリア教育を推進していくかという学校全体で取り組むモデル作成は進んでいないのが現状である。本研究は、中学校におけるキャリア教育のモデルを提示し、学校現場で使いやすくかつ生徒にとっても魅力的な取り組みを開発する点において独創的であり、キャリア教育の理論と実践をともに発展させるものといえる。本研究は、我が国におけるキャリア教育の推進に寄与しうるものと位置づけられる。

(経緯・背景)

 今日、少子高齢社会の到来、産業・経済の構造的変化、雇用形態の多様化・流動化などの社会背景により、子どもたちの将来への不透明さが増幅しており、中学校においても進路を巡る教育のありかたが見直されている。このような状況下、子どもたちが「生きる力」を身につけ、将来への夢や希望を持ち、明確な目的意識を持って日々の学業生活に取り組む姿勢が求められるところである。また、激しい社会の変化に対応し、主体的に自己の進路を選択・決定できる能力やしっかりとした勤労観、職業観を身につけ、人生において各人が直面すると考えられる様々な課題に柔軟にかつたくましく対応し、社会人・職業人として自立していくことができるようにするキャリア教育の推進が求められている。
 学校におけるキャリア教育の推進には数多くの要因が関与している。先述した社会的背景要因、児童生徒のもつ個人的背景要因に関する考慮も含める必要がある。本研究では、単なる出口指導に終わることがない、これら諸要因を認識した上で、生徒個々のキャリア発達の推進を進める視点を持ちたいと考える。生徒の発達段階を考慮しつつ、将来社会人・職業人として自立していくことができる生徒を育てるためのキャリア教育推進モデルを作成したいと考えた。また、その効果を科学的に測定、検証することによって、モデルの再構成、適正化にまで言及したい。

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