危険行動防止および積極的健康のための包括的生徒指導マニュアルの開発-ライフスキル教育の実践を通じた理論的基盤の再構築と実践の集約- 人間発達教育専攻・学校心理・発達健康教育コース・教授 西岡 伸紀

研究目的

① 研究目的

 ライフスキルは,日常的課題への対処に必要な心理社会的能力であり(WHOによる),意志決定,コミュニケーション,目標設定などの諸能力,それらを支えるセルフエスティームの形成を目指す。ライフスキルは,「生きる力」と大きく重なるものである。ライフスキル教育は各地の小,中学校で実行され,喫煙,飲酒,暴力等の問題行動の減少に加え,セルフエスティームの低下防止,対人関係,学校との連結感の向上などの積極的健康にも成果が報告されている。同教育では,児童生徒の知識や経験を活用する参加型学習が多用されており,授業評価も良好である。そのため,姫路市,広島県福山市,埼玉県川口市等では教育委員会が推進を図っている。しかし,実践の背景となる理論が社会免疫理論,社会的学習理論,認知行動理論等あり理解が容易ではなく,カリキュラム開発の理論も十分とは言えず,実践例が模倣されるものの,理論を踏まえた実践が進まない。同教育では,まさしく「理論と実践の融合」が求められている。
 本研究では,同教育の基盤である上記の諸理論,それらの相互関係,カリキュラム開発の理論等を,実践を通して再構築し,実践と関連させわかりやすく具体的に示す。さらに,理論の実践化のための支援方策を開発する。以上を同教育実践のためのマニュアルとして具現化する。

② 学術的な特色・独創的な点,予想される結果と意義

 同教育の特徴は,児童生徒の危険行動防止のみならず,積極的健康の促進も図ることにある。また申請者らは,ライフスキル教育の理論と実践の知見と経験を有し,実践校,教育委員会との連携を築いており,マニュアル開発の準備が進んでいる。例えば, WHOライフスキル教育のガイドラインの翻訳,出版,同教育推進のためのワークショップ,講演による啓発,著書の出版による実践の推進を行ってきた。また,ライフスキル教育を推進している上記教育委員会,実践推進校等と連携し,教員研修や公開授業を支援し,実践を踏まえた理論の改訂を試みてきた。
 これらの経験等を活かしマニュアルを作成する。その際,上記3市の学校,教育委員会の間で授業参観,連携や情報交換等を促し,その成果を活かし,理論の再構築の質を高める。マニュアルは,理論を踏まえた確かな実践の推進,児童生徒の危険行動防止,積極的健康に寄与すると期待される。

③ 本研究の位置づけ

 本研究は,理論的基盤が弱いライフスキル教育に対し,実践を踏まえて理論を再構築する。また,姫路市教育委員会が推進する開発的・予防的研究推進事業と関連付けて展開する。

(経緯・背景)

 ライフスキル教育は全校体制で実施されることが多いため,まず推進役の教員が,1~2日の参加型研修(多くの場合有料),実施校の授業参観等により,同教育の特性や内容を理解する。次に,それらの体験や既存の資料を参考に,校内研修での説明や演習により,プログラムの学校への導入が図られる。ただし,校内研修には様々な課題がある。具体的には,ライフスキル,及びライフスキル教育を支える諸理論の理解,スキルを指導することへの抵抗感,指導時数の確保,道徳や特別活動の特質との違いや共通性,評価への戸惑い,新たな指導方法への抵抗感,自由度の高い参加型学習を用いることへの不安など挙げられる。また,意志決定や目標設定等の各スキルに関する理解も十分ではない。
 これらの課題は,本来プログラムにより解決されるべきものである。しかし,従来のプログラムは,同教育の意義,理論の概説,指導案,ワークシートなどを含み,モデル授業例を示し,教職員の多様なニーズには応えきれておらず,教職員にライフスキル教育の具体的イメージを持たせるには他の方策が必要である。
 その方策として,以上の課題に応える包括的なマニュアルの作成がある。マニュアルでは,実践と関連付けて,理論をわかりやすく具体的に示す。さらに,ライフスキル教育の用語に関する丁寧な解説,同教育の様々な効果,学習内容や活動に対する児童・生徒の評価,教科領域等(道徳,特活,保健学習,総合的な学習の時間)との関係,習得スキルの日常課題への適用,活用される指導方法の解説等を含む。さらに,様々な授業場面の写真や動画などが欠かせない。
 本研究では,ライフスキル教育実践校,教育委員会等のニーズを踏まえ,それらの知見や経験を活用しつつ,ライフスキル教育の理解・推進のため,視聴覚情報を含む包括的マニュアルを作成する。

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