大災害後の子どもの心理的支援における心理アセスメントと個別相談に関する研究 人間発達教育専攻・教授 冨永 良喜

研究計画・方法

【平成23年度】
 岩手県教育委員会は、臨床心理士によって構成する「いわて子どものサポートチーム」によりPTSRED-TRAUMA25を検討修正し、医療の専門家に項目内容と実施手順の確認を得て、さらに、被災地を含む13カ所の研修会にて検討を重ね、「心とからだの健康観察31版、19版」を作成した。研究代表者は、このプロジェクトのスーパーバイザーとして助言してきた。
 実施にあたって、心理教育とストレスマネジメントと個別相談体制の3つを併せて授業やショートホームルームにて分割して実施するように計画している( 「こころのサポート授業2」と呼んでいる) 。心理教育としては、代表的な反応カテゴリーと項目、それに対する望ましい対処法を記載した絵入りのリーフレット(こんなとき、どうする) を作成している。また、ストレスマネジメントとしては、2011年5月~6月に、県外からの臨床心理士を学校に派遣した際に、リラクセーションなどを担任が実施できるように学んでおり、併せて簡便なリラクセーショシを実施する。また、担任による短時間の個別相談、スクールカウンセラーによる相談、スクールスーパーバイザーによる相談、子どもこころのケアセンターの医師による相談体制を整えている。
 基準関連妥当性を検討するために、31版の実施後できるだけ早い時期に、これまで妥当性と信頼性が確認されている尺度(K10:Kessler,RC,etal.2003、I E S-R:Weiss& Marmar,1997) を実施する。
1 .対象者:岩手県沿岸部の高等学校2 - 4 校、岩手県内陸部の高等学校2 - 3 校の生徒に対して実施する。
2 .実施期間:平成23年9月~ 平成23年10月:実施にあたっては、冨永が一部の学校を訪問し実施状況を確認する。
3 .実施方法:「心とからだの健康観察31版」を実施するこころのサポート授業2にて、併せて、ないし、こころのサポート授業2の実施後できるだけ早い時期に、実施する。
4 .調査結果の統計的分析:31版のトラウマ項目とIESR、31版の生活障害項目とK10との関連を検討する。また、31版の因子構造を検討する。統計的検討は、遊間があたる。
5 .調査結果の還元:個別相談において、「心とからだの健康観察3 1版」と併せて、活用する。また、学年、被災による要因などの分析結果もすみやかに各学校に還元する。また、個々の生徒に個票を作成し、望ましい対処のメッセージを伝える。
6 .個別相談の助言:精神医学的な課題が伺える事例については、岩井と有園が、心理療法的介入が必要な事例には、市井と海野が助言する。冨永が現地を訪問し、アンケートの分析結果を学校にフィードバックする。その時に、個別相談のニーズをとりまとめ、岩井・有園・市井に対応の仕方について助言を求める。また、個別相談のためのガイドラインを精神医学的観点・臨床心理学的観点から取りまとめる。

 本調査による期待される成果として、「心とからだの健康観察3 1 版」のIES-rとK 10による併存的妥当性が確認されることで、大災害により被災した生徒の長期的な心理支援の貴重な資料となる。また、被災状況とストレス・トラウマ反応との関連が明らかになる。

【平成24年度】

 発災直後ないし1 年間は、問題が顕在化せず、1年後2 年後と顕在化する事例が阪神淡路大震災では報告されている。そのため、発災から1 年後の個別相談のあり方と内容を発災半年後の「心とからだの健康観察3 1版、1 9 版」と結果の関連を検討する。

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