身体接触を伴う運動「組ずもう」の教育的効果-集団凝集性の観点から- 小学校教員養成特別コース・准教授 筒井 茂喜

研究目的

(1) 研究目的

 本研究の目的は,身体接触を伴う運動「組ずもう」によって生起する「身体への気づき」から相手の 気もちを主観的に認知する行為が学級の「集団凝集性」に及ぼす影響を検討することである。

「集団凝集性」とは,「メンバーが集団に留まるよう作用する力の総量」(Festinger , schachter and Back,1950)と定義されており,「集団凝集性」の高い集団は,一般的には集団の構成員が好意的につながり,集団作業効率も上がるとされている(織田ら,2007など)。

成人を対象に協同を必要とする集団競技(バレーボール,サッカーなど)を調査した先行研究(近藤,2015など)において,集団スポーツは集団凝集性を高める働きがあるとする報告がみられる。しかし,本研究のように,児童を対象とした個人競技での調査は管見の範囲ではみられない。さらに,身体接触という非言語コミュニケーションチャネルに焦点を当て,身体接触によって感じる他者の「身体への気づき」から主観的に他者の気もちを認知する行為が「学級集団の凝集性」に及ぼす影響を検討したものはない。

 著者らは身体接触を伴う運動によって生起する「身体への気づき」から互いの気もちを主観的に認知し合う行為は,児童が互いに「わたしの感覚」を相手の身体の内部まで伸ばし,身体の内部で起こっていることを生き生きと感じ,感情を伝え合っていることといえ,これは他者を基層から理解するということに結びつき,心的なつながりを生むであろうと考えている。

しかし,近年,学校では教育的管理の下,「組体操」「押しくらまんじゅう」などの身体接触を伴う運動が姿を消しつつある。このような学校教育の現状が,子どもの他者との関係をつくる力,すなわち「他者の立場に立ち,他者の感情を理解する力の低下」を招き,それが児童・生徒間の心的なつながりを弱め,学級集団への所属意識を低下させている要因の一つではないかと推察している。

本研究は児童・生徒間の心的なつながりを強め,学級への所属意識を高める体育授業の在り方を究明するものであり,また,身体接触を伴う運動の教育的価値を問い直す上でも意義あるものと考える。

(経緯・背景)

 著者らは,乳幼児期における母子間の身体接触は子どもの情緒の発達などに大きな影響を及ぼす(宮川ら,2010など)こと,また,幼児は仲間づくりの手段として身体接触を積極的に用いている(塚崎ら,2004)こと,さらに,「体と体をぶつけ合い,肌と肌を触れ合って遊ぶことを通して,子どもは他者の立場に立ち互いの関係をつくった」と指摘されている(村田,2002など)こと,これらに加え,身体接触が感情の伝達に有効な非言語コミュニケーションチャネルの一つである(大坊,1998など)ことに着想を得て,身体接触を伴う運動の教育的効果の内実を明らかにしようとしている。すなわち,小学校2年から5年生児童を対象に身体接触を伴う運動「組ずもう」「カバディ」「タッチフットボール」の授業を実施し,その教育的効果を「身体への気づき」「攻撃的な感情の表出」の抑制の観点から検討した結果,身体接触を伴う運動は,児童に「身体への気づき」を促し,「攻撃的な感情の表出」を抑制する働きのあることを見出している(著者ら,2011,2012,2014,2015,2016)。また,「攻撃的な感情の表出」が抑制されたのは,「身体への気づき」から相手の気もちを主観的に認知する行為によって,児童の中に相手への「共感的な心情」が生起したためではないかと推察している。

以上のことから,著者らは身体接触を伴う運動は児童間の心的つながりを生み,児童の学級集団への所属意識,つまり「集団凝集性」を高めるであろうと考えている。

なお,教材を「組ずもう」にしたのは,他の教材(カバディ,タッチフットボール)に比べ,最も「身体への気づき」を高め,「攻撃的な感情の表出」を抑制する傾向かみられたためである。また,本研究グループは,全員が兵庫教育大学の卒業生または修了生である。授業者は,修士号を持つ体育教科教育学を専門とする教員であり,理論と実践の融合をめざした高い水準での授業が期待できることを付記しておく。

Page Top