シリーズ「コロナと教育」(淺海真弓教授インタビュー1)

#インタビュー #コロナと教育 #淺海真弓

シリーズ「コロナと教育」は、本学の教員に、それぞれの専門領域の見地から、コロナのこと、教育のこと、人生のことなどを語ってもらうインタビュー企画。
第三弾は、淺海真弓教授です。

みんなが右手を挙げているときに左手を挙げた幼少期。牛のぬいぐるみを作る時間に犬を作った中学時代。大学受験に気が乗らず、二年間実家に引きこもって、河原で石を拾いつづけた浪人時代。決して、斜に構えたつもりはないけれど、気がつくと、いつも世界からちょっとずれた場所にいた。救いはそのときどきの先生が「あなたはそれでいい」と認めてくれたこと。二十歳で陶芸を始め、兵庫県陶芸美術館の学芸員を経て、兵庫教育大学へ。大学教員と作家活動の二足のわらじを履きながら、今はもっぱら、兵庫県の地場産業から出る廃材・端材を使って、ちょっとへんてこりんな造形活動に取り組んでいる。人呼んで、"兵庫のブリコルール(器用人)"。やっぱり、世界からちょっとずれた場所、ゆるくて"きもかわいい"、淺海真弓ワールドへ。いざ潜入!


|話し手|淺海真弓教授 
|聞き手|佐田野真代(広報室員)・永井一樹(広報室員)・東千尋(教材文化資料館)
|写 真|山下真人(附属図書館)

※このインタビューは2022年7月に収録したものです。          


第1回:手作りのマスク

N:今日は、普通のマスク着けておられますね。

淺:はい。普通のマスク。

N:手作りのは、もうやめられたんですか。

淺:だって、皆さん不織布のマスクでしょ。不織布じゃないと、効果が薄いって言われてたこともあって。コロナが始まったばかりの頃は、手作りのマスクしてましたけどね。

N:そうそう。あの頃不織布買えなかったですからね。

淺:今でも、これ(不織布)をした上に手作りのマスクをされてる方もいらっしゃいますね。

N:おしゃれとして?

淺:でしょうね。でも、今この季節(真夏)にそれをやると、結構死活問題かなっていう。

N:本学の職員で、マスクの下にタオルを入れてる方もいますね。

S:いますね。

淺:誰ですか。

N:この人(佐田野さん)の旦那さん。

淺:旦那さん、かわいらしいですね。

S:いや、それが私、何回理由聞いてもよく分からないんです。

淺:汗かくからかな。

S:よくわからないですけど、出勤時にはいつもタオルを挟んでから、国から配布されたあのマスクをして。

淺:ああ、あのマスク。小っちゃいからじゃないですか、あの布マスク。

S:そうなんですかね。

淺:とにもかくにも、それがサダノスタイルなんですね。

S:はい。そのようです。

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N
:人間って、着ている服でその人の好きなものとか分かったりするじゃないですか。

淺:はい。何となくね。

N:文化的なコードがわかるといいますか。マスクも、もう顔の一番見られるところにあるから、これが「文化」の一部になっていって、おしゃれなマスクとかもどんどん出てきたりしています。この現象をどう思われますか。

淺:結構じゃないですか。私は、あまりそこにこだわりを感じないですけど。むしろマスクはアノニマス(匿名)になれるから好き。紛れられるから。そういう良さってありますよね。

N:ありますね。

淺:知り合いとかでも、気付かない人多いんですよ、マスクしてると。こっちも気付かない場合も多々あって。

N:マスクが隠れ蓑になる。と同時に、マスク自体は衆目に晒されるわけで。僕はコロナが始まってすぐに淺海先生が手作りのマスクを掛けて颯爽と歩いている姿を見て、ああなんて格好いいんだと思ったんですよ。このマスクが、淺海先生という人柄を物語っている、いや、このマスク自体が淺海先生の「顔」なんだなと。

淺:すみません、今日不織布で。

N:いえいえ。あの頃って、マスク買えなくて本当にみんな困ってましたよね。そんななかでいとも簡単にそして器用にかわいいマスクを作っておられました。普段から自分の手で何かを作っておられるから、先生にとってはたぶん何でもないことだったんだと思いますが、今回のように急にモノが買えないという事態に直面したときに、何か代用品というか、代わりのものを即興でつくって凌ぐという営み自体がめちゃくちゃ格好いいなと思ったんです。

淺:ありがとうございます。結構非難されるような風潮あったじゃないですか、手作りマスク。やっぱり気にされる方は気にされるんで、それはちょっと安全パイでいこうかっていうことで、不織布に。でも、面白かったですね。あのとき一斉にみんなマスクつくり始めましたよね。私は、それをすごくいいことだなと感じてて。なくなったら、作ればいいじゃん、みたいな。長いデフレのせいで、何でもモノが安く買えて、使い捨てが当たり前のようになった時代が続いたので、モノがなくなって何かを工夫するというチャンスってあんまりなかったんだけど、そういうチャンスというか、モノをつくるためのきっかけになり得るなというふうなことですごくほほ笑ましくというか、好ましく思ってました。

N:確かに、モノが簡単に手に入る時代でしたからね。

淺:ええ。ガソリン代が今すごく高くなってて、困ることなんだけど、じゃ、お買い物でもルートをより短い距離で行けるようにちょっと工夫するとか、たぶん今まででは考えなかった知恵の巡らし方みたいなことができるようになってきてて、私はすごくゲーム感覚で面白いなというふうに思ってるんです。

N:コロナ禍で外出できなかった頃、自転車でよく子供を近くの公園に連れて行ったりしたんですが、僕40年以上同じところに暮らしてるのに、忘れてるんですよ。子どもの頃自転車で通った細道の風景を。こんなところにこんな溜め池あったっけとか。

淺:リッチだねぇ。マイクロ・ツーリズムじゃないですか。そういえば、東さんは草食べてるってね。

N:自己紹介をお願いします。

H:は、はい。改めまして、この度教材文化資料館に着任しました東千尋と申します。淺海先生にお声かけ頂いた縁で、7月からこちらでお世話になっています。ここに来る前は2年ぐらい無職とフリーランス(漫画家)を行き来していて、無職になった瞬間にコロナが同時に始まって、みんな働いてないから、私も働かなくていいやみたいな気持ちになってたんですけど、お金はすごい切り詰めていかなきゃいけなかったので、川でですね...。芦屋川に生えてる野草を取って食べたという経験があります。

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S
:どう食べるんですか。

H:そのときは、ノビルという野草だったんですが、上がニラとかネギみたいな感じで、下はラッキョウみたいな雰囲気の植物だったんで、上はそのままラーメンに入れたり、下は酢漬けにしたりとか、加熱したら、結構ぽくぽくとしておいしかったです。

淺:でも、野草料理ってある意味すごく高級食材ですよね。

H:結構手間掛かりますし。ノビルは、結構あく抜きをしなきゃいけなかったり、もう一部地域でしか取れなかったりするようです。

淺:でも、コロナである意味時間ができて、手間暇掛けてたからこそ味わうことができた味で、すごいぜいたくだよね。

H:それは、本当にそう感じましたね。でも、先生もコゴミとか食していらっしゃっいますよね。この前、少し差し入れしてくださって。

淺:そうそう。

N:コゴミってなんですか。

淺:コゴミも山菜ですね。

H:そうですね。あれ何に似てるんですかね。

淺:ワラビ、シダ科の植物ですかね。大きくなるとシダみたいになって、うちの周りにすごいたくさん生えてて。

H:ぬるっとした感じがモロヘイヤっぽくて、そんなにくせもなかったので、おひたしにしていただきました。

淺:そうそう。くせがなくて、灰汁もないんで、草食べてるんだったら、これも食べるかなと思って(笑)。

H:すごいおいしかったんで、またください。



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淺:はい。もう本当に取りきれなくてね。ワラビもツクシもすごい取りきれないんです。誰も取らなくなって。周りに子供とかがいたら、たぶん取ったりすると思うんだけど、子供も少なくなってきたし、年寄りは足腰が立たなくなってきたし、だんだんそんな野草を取ろうとかっていう人もいなくなって伸び放題。

N:食べ放題。

淺:そう。

N:でも、毒性がある植物もあって、その辺のリスクと隣り合わせの面もありますね。例えばユリとかキノコとか。さっきのマスクの話でいえば、不織布に対して手作りの布マスクはやっぱり安全性に疑問符がでてきたりする。つまり、ブリコラージュ(フランス語で器用仕事を意味する。日曜大工と訳されることも)的なアプローチだと、プロフェッショナルというか、科学的につくられた製品よりもどうしても機能面・安全面で劣るということで取り下げられちゃうというようなことが多々あると思うんですけど、ブリコルール(ブリコラージュする人のこと)としてのその辺はいかがですか。

淺:でも、ブリコールールは基本的にあまり他人に迷惑をかけたり、不安に陥れたりしないと思います。自分でキノコを食べるのは自己責任の領域だけど、それを人に勧めたりはしない。飛沫の実験の映像が一時期よくニュースで流れてたりしましたよね。普通のマスクと不織布の違いをまざまざと見せつけられて。ああいうのを見せられるとね。自分の飛沫が他人に及ぼす影響を考えると、そこはやっぱり機能のほうを重視しとこうかなと思うじゃないですか。それもブリコールールかなと。だって、何でも自分の手作りのものがいいと言って凝り固まってる人は、プロフェッショナルやと思います、ある意味ね。でも、これは別にこっちにしといた方がみんな安心やし、ええんちゃうの? みたいな、ある意味柔軟な対応ができるのがブリコルールやと思うんですよね。


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