シリーズ「コロナと教育」(淺海真弓教授インタビュー2)

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シリーズ「コロナと教育」は、本学の教員に、それぞれの専門領域の見地から、コロナのこと、教育のこと、人生のことなどを語ってもらうインタビュー企画。
第三弾は、淺海真弓教授です。

みんなが右手を挙げているときに左手を挙げた幼少期。牛のぬいぐるみを作る時間に犬を作った中学時代。大学受験に気が乗らず、二年間実家に引きこもって、河原で石を拾いつづけた浪人時代。決して、斜に構えたつもりはないけれど、気がつくと、いつも世界からちょっとずれた場所にいた。救いはそのときどきの先生が「あなたはそれでいい」と認めてくれたこと。二十歳で陶芸を始め、兵庫県陶芸美術館の学芸員を経て、兵庫教育大学へ。大学教員と作家活動の二足のわらじを履きながら、今はもっぱら、兵庫県の地場産業から出る廃材・端材を使って、ちょっとへんてこりんな造形活動に取り組んでいる。人呼んで、"兵庫のブリコルール(器用人)"。やっぱり、世界からちょっとずれた場所、ゆるくて"きもかわいい"、淺海真弓ワールドへ。いざ潜入!


|話し手|淺海真弓教授 
|聞き手|佐田野真代(広報室員)・永井一樹(広報室員)・東千尋(教材文化資料館)
|写 真|山下真人(附属図書館)

※このインタビューは2022年7月に収録したものです。          


第2回:ブリコルールは断捨離が嫌い

S:さっきからブルコラージュとかブリコルールとか聞き慣れない言葉が...。

淺:ああ、すいません。ブリコラージュっていうのはフランス語で器用仕事とか日曜大工とかいう意味らしんですけど、例えば大工さんとか、木工職人さんといったプロフェッショナルな人たちは、仕事をするとき初めに完成図とか設計図があって、その目的に向かって材料を調達してどんどんそろえて、という風な進め方をするわけですけど、ブリコルール(これはブリコラージュする人のことを言います)は、何となくこんなものあったから、じゃ、これでできるものを作ってみようかなという感じの人です。例えば、カレーを作らなあかんとなったときに、いや、でも、今日はジャガイモないからカレー作られへんっていうのは、たぶんプロフェッショナルなんだけど、冷蔵庫を見て、ジャガイモないけど、なすびとカボチャがあるから、これでカレーつくってみたらおいしいんちゃうか? というのがブリコルール。あるもので何か工夫して作ろうとすると、失敗することも多いんですけど、今まで考えもつかなかったような面白いものとか、おいしいものも作れることもあるっていう、そういう緩い感じです。

S:わかりやすい説明ありがとうございます。先生のお部屋にあるものはまさしく。

淺:あ、そうですね。これ、布のブリコラージュっていうシリーズで、自分の中では、主にジーンズが多いんですけど、着古したジーンズとかを解体して、それを素材に何かを作るというものです。

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N:素材は、買われたものですか?

淺:いえ、頂いたものとか、家族の着古したものとかですね。母とかが買ったもので、もう何年も死蔵されてたものとかもあります。初めからこんなん作ろうと思って作り始めたわけじゃなくて、そういった家の中にある生地みたいなのをうにゃうにゃ触ってると、こんなものができましたという感じで。

N:素晴らしいですね。

淺:ありがとうございます。あまり誰も褒めてくれないからうれしいです。一応私、美術で作家活動をしているんですが、淺海さんの作るものって何にも分類できないから、評価のしようがないって言われます。専門は陶芸なんですが、陶芸の世界って、評価の土壌がしっかりとあるんですよね。やっぱしコンクールであったり、いろんな団体があって。一方、ブリコラージュの団体なんてもちろんないし、そんなんで作家活動をしてる人もそうそういないので、評価のしようがないっていう風に言われて。でも、それってある意味すごい褒め言葉だなっていう風にも捉えています。

S:確かに私が最初に淺海先生の作品を拝見したのは陶芸作品でした。まだ、本学に来られる前の、たしか丹波篠山のまちなみアートフェスティバルだったかと。

淺:ありがとうございます。懐かしい。

S:ところが、次見に行ったときは、布作品でした。お人形みたいな感じのものを作られてましたよね。

淺:はい。そうですね。

S:いろいろ変化している。

淺:そうなんです、今おっしゃっていただいたのって、ある意味私のブリコラージュの遍歴だなと思うんですけど、焼き物ってすごい時間的に拘束されるんですよ。土を乾燥させながら形をつくっていかないといけないので、作業をするとき、よっしゃっていう構えが必要。服も着替えて、土に向かうっていう。汚れるし、とても何かをしながらはできない作業なんです。たぶんここに勤め始めて数年後に子供が産まれるんですけど、育児と大学の仕事しながら、作品は作れないよっていうのがあって、土の。でも、この布の作品ってどこでも作れるんですよ。小っちゃいパーツだったら、病院の待合とか銀行の順番待ってる間とか電車の中でも作れちゃう。焼き物できないけど、布やったら何か作品つくれるわと思って、土をいったん休むつもりで布のほうに入ったんですけど、これはひょっとしたら私には、土よりぴったりしてるかもしれないということで、もう結構子供大きくなったんですけど、いまだに楽しく続けてるという。

N:いわゆる、おかんアートですか。

淺:おかんアートですね、ある種の。

N:育児と仕事の隙間でいろいろ楽しくやるっていう。

淺:そう。でも、それ面白いなと思って。そんな緩さだから、今もずっと、10年以上続けてて、家の中布まみれでえらいことなんですよ。今日ヒガシさんに差し上げたのも友人がくれて、でも、これ全然着られるし、かわいいし、私にはちょっと似合わないけど、ヒガシさんなら似合うかもっていうのをお譲りしたもの。専用のアトリエでも作ろうかなと思ったこともあったんですけど。

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N:何のアトリエですか?

淺:布のための。一応陶芸家としてスタートしたので、陶芸ができる環境はあるんですけど、布の作業専門スペースはないんですよ、我が家に今のところ。でも、つまんないなと思って辞めました。今これ、リビングの机や食卓の上に置いてて、ちょっとした隙間時間に作っているんですが、食事している横に何か転がってるみたいな感じっていいでしょ。顔が転がってるとか、目玉がいっぱい落ちてるみたいな状況でやっててね。たぶんそっちの方が面白いんやろうなと思って、専用の工房をつくるより。何か面白い作品ができそうな気がするんです。

S:たくさん作られていると思うんですが、作品はどこで保管を?

淺:この子たちは、私がつくる作品の中でも非常にタイニーな方です。私の作品ってだいたい大きいんです。大きめの作品はね、うちに倉庫があって、そこにぎゅうぎゅうに入ってはります。


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N:どれぐらいの大きさの倉庫ですか。

淺:それがいわく的な居抜き物件的に購入したものなので、非常に広大です。

N:どれぐらいですかね。

淺:どれぐらいかな。広大です。

N:東京ドームくらい?

淺:そこまでは。でも、この部屋から向こうの事務室ぐらいまでの広さはあるでしょうね。

N:すごい。全部倉庫ですか。

淺:はい。

N:広大ですね。倉庫といえば、この研究室の隣りの木工室にも、先生が収集された廃材・端材の類いが。

淺:すいません。

N:いえいえ。僕もどっちかっていうと、溜めちゃう方なんですよ。あの、図書館のスタッフって綺麗好きの方が多くて、めちゃくちゃ掃除するんですよ。特に、若い女の子たちがかなりアクティブでですね、そのおかげで最近見違えるようになりました。『コクリコ坂から』っていうジブリ映画があるでしょ。そこにカルチェ・ラタンという名の荒廃したクラブハウスが出てくるんですけど、女子たちの掃除の力で見事に生まれ変わるんです。その掃除の仕方とそっくりなんですよ。要りますか要りませんか、はやく白黒つけなさい。そういう圧がとにかく凄い。彼女たちのおかげで、確かに部屋が綺麗になるし、生産的にもなるし、いいことづくしではあるのですが、あまりにもその捨て方がアクティブすぎるような気がして、何と言いますか胸を締め付けられるような気持ちになることがあるんですよ。

淺:わかります。私も断捨離反対。最近ね、子供の造形指導されてる方から聞いた話で、名言やなぁと思ったんですけど、「断捨離は私たちの敵です」っておっしゃって。どういう趣旨で言ったかというと、子どもの造形活動で、廃材アートっていうジャンルがあるんですよね。例えばおうちにあるお菓子の箱とか包装紙とかリボンとか使って、何かを作るという活動なんですけど、最近それが成立しないっておっしゃるんですよ。おうちにそういうものがストックされてないって。何でもお母さん、ものを捨てたがるから。でも、何か造形活動をするときに、例えばきれいな紙だとかその造形活動のためにわざわざ用意された素材だとかで作るのって、実は結構難しい。何の取っ掛かりもないし、子供にとっては非常にハードルが高い活動なんですよ。けれど、お菓子の箱だとかを素材にしたときって、例えばこの色を生かそうとか、この形を生かそうとか、もし破けてたら、この破れたところを生かそうみたいな感じで、なんぼでも想像力が広がっていく。そういう種がいっぱい詰まっているものなんだけど、それ自体をゴミとして捨てちゃうということは、子供が想像とかイマジネーションを膨らませる元となる種を捨てるのに等しいんじゃないかというようなこと言われて。だから、断捨離が大っ嫌いだと。子どもの造形作品すら平気で捨てる保護者の方、多いらしいですよ。家が片付かないから、持って帰ってきちゃだめなんて言う人もいるのだとか。

N:なるほど、でも、先生の研究室って、ごみいっぱい集めてくる割にすごくきれいなんですよね。やっぱり分類されて置かれてるから、きれいに見えるのか。

S:確かに片付いてますよね。

淺:そんなことないです。ぜんぜん汚い。なんか隠してるだけです。ああ、そんなところ撮らないで、恥ずかしい...。

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