シリーズ「コロナと教育」(淺海真弓教授インタビュー3)

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シリーズ「コロナと教育」は、本学の教員に、それぞれの専門領域の見地から、コロナのこと、教育のこと、人生のことなどを語ってもらうインタビュー企画。
第三弾は、淺海真弓教授です。

みんなが右手を挙げているときに左手を挙げた幼少期。牛のぬいぐるみを作る時間に犬を作った中学時代。大学受験に気が乗らず、二年間実家に引きこもって、河原で石を拾いつづけた浪人時代。決して、斜に構えたつもりはないけれど、気がつくと、いつも世界からちょっとずれた場所にいた。救いはそのときどきの先生が「あなたはそれでいい」と認めてくれたこと。二十歳で陶芸を始め、兵庫県陶芸美術館の学芸員を経て、兵庫教育大学へ。大学教員と作家活動の二足のわらじを履きながら、今はもっぱら、兵庫県の地場産業から出る廃材・端材を使って、ちょっとへんてこりんな造形活動に取り組んでいる。人呼んで、"兵庫のブリコルール(器用人)"。やっぱり、世界からちょっとずれた場所、ゆるくて"きもかわいい"、淺海真弓ワールドへ。いざ潜入!


|話し手|淺海真弓教授 
|聞き手|佐田野真代(広報室員)・永井一樹(広報室員)・東千尋(教材文化資料館)
|写 真|山下真人(附属図書館)

※このインタビューは2022年7月に収録したものです。          


第3回:きもいということ

N:壁に吊っているのも、廃材でつくった人形ですか。

淺:あれは、チェコで手に入れた雑誌とか新聞で作ったものです。チェコから帰ってすぐにマリオネットのワークショップが予定されていて、それで帰りの飛行機の中いろいろ考えて、こんなのになりました。

H:すごい。全クリップですか、これ。

淺:そう。関節ね。

H:顔はなんでこの人なんですか。

淺:なんかちょうどいいかなと。

N:誰ですか。チェコの有名人?

淺:知りません。


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N
:面白いですね。こういうのって、オンリーワンだからなのか、すごく贅沢なものに見えるんですよね。たぶん長く生きていると既視感のあるものばかり見てるから、年行けば行くほど、こういう既視感のないものが愛おしく思うのかもしれない。

淺:そんな大層なものじゃ。

N:いやお世辞でなく。だって、このハンカチみたいなものひとつ取ってもやっぱりすごい。これも作られたんですか。

淺:いや、これは違います。

N:え、でも先生っぽいですね。

淺:そう。私っぽいですよね。土橋とし子さんってご存じないですか。雑誌ガロに描かれてた漫画家で、『ちびまる子』ちゃんのトシコちゃんのモデルになった人。ファンだったんですよ。今大阪に住んでいらっしゃって。「私、ファンなんですよね」って、土橋さんの知り合いの方に言ったら、お目に掛かる機会があってね、そのとき頂戴したものです。すごいシンパシー感じるなぁと思って。


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N
:本人から頂いた?

淺:はい。ツチハシって、ここに書いてあります。ちょっと"キモカワイイ"系のワールドですよね。

N:淺海先生も、ちょっと"キモカワイイ"系が入ってますよ。

淺:うちの娘に、お母さん作るものきもいねんってよく言われます。

N:そのきもさがいいんですよね。

淺:そう。かわいいだけじゃないよって。かわいいだけのものって苦手なんです、私。

N:きもいっていうのは何なんですかね。きもいの魅力は。

淺:生きてるってことじゃないですかね(いい風に解釈しすぎか)。生き物って、気持ち悪いじゃないですか。というか、生々しい。

N:わかります。たとえば、耳って虚心坦懐に見つめていたら、すごく気持ち悪いんですよ。なんでこんなもん付いてるんやろうって。

淺:...。それはあまり思わへんけど。でも、耳ってすごい個人差ありますね。

N:ありますね。でも、みんなだいたい同じようなものが顔の両側に付いている。それが面白いなと思って。たとえば、先日吉野屋で牛丼食べてたときに、ぐるっと囲むカウンターやったんですよ。そのとき、この牛肉が耳たぶに思えたのかわからないですけど、食べながら、ぱっと周囲に座っている客たちの耳が急に気になり始めて。

淺:変わってんな。

N:おお、耳が並んでいるなと。すごくきもかったですね。

淺:それと近いのか近くないのかわかんないですけど、温泉行ったときに、みんな裸になるでしょ。私は女風呂に入るわけだけど、人間の体っていろいろやなぁと思って。顔だけ見たらおばあさんなんだけど、首から下は結構色っぽいなとか。その反対で、ここから一生懸命頑張ってはんねんけど、ここからはちょっとアンチ・エイジング失敗してはるなみたいな人とか。すごい面白いなと思って。

N:体の表情が人それぞれ違う。

淺:体の表情。うん。ちょっとやらしいかな。

H:大丈夫です。

淺:大丈夫ですか。

N:でも、きもいとか、やらしさみたいなのが、やっぱり先生の作品の魅力ではないでしょうか。

淺:それは喜んでいいものか。

N:僕なんかは、作品にひかれるのって、そういう点がやっぱりポイント高い気がする。

淺:でも、私、山下さん(本日の撮影担当。大学職員と現代美術作家の二足のわらじで活動している)のような知的でクールな作品つくれないから。

Y:いやいや、そんなことないです。


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淺:知的でクールじゃないですか。すぱっと論理性があって。

N:僕には難しいんですよ、山下さんの作品は。

Y:いやいや、僕の話はいいです。

淺:私はそういう風に作れない。頭使わずに感覚的にやっちゃうから。でも、作品の説明を求められることが多くて困るんです。説明できないとアートじゃないみたいなことを言われると、もうアートじゃなくていいよとかって思っちゃう。それは、研究者としてはあるまじき発言なので、一応分析はしてみるんだけど、分析しちゃうとつまんなくなっちゃうんですよね。作り手としては、自分の作品分析をすべきじゃないなと思いますね。

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