シリーズ「コロナと教育」(淺海真弓教授インタビュー5)

#インタビュー #コロナと教育 #淺海真弓

シリーズ「コロナと教育」は、本学の教員に、それぞれの専門領域の見地から、コロナのこと、教育のこと、人生のことなどを語ってもらうインタビュー企画。
第三弾は、淺海真弓教授です。

みんなが右手を挙げているときに左手を挙げた幼少期。牛のぬいぐるみを作る時間に犬を作った中学時代。大学受験に気が乗らず、二年間実家に引きこもって、河原で石を拾いつづけた浪人時代。決して、斜に構えたつもりはないけれど、気がつくと、いつも世界からちょっとずれた場所にいた。救いはそのときどきの先生が「あなたはそれでいい」と認めてくれたこと。二十歳で陶芸を始め、兵庫県陶芸美術館の学芸員を経て、兵庫教育大学へ。大学教員と作家活動の二足のわらじを履きながら、今はもっぱら、兵庫県の地場産業から出る廃材・端材を使って、ちょっとへんてこりんな造形活動に取り組んでいる。人呼んで、"兵庫のブリコルール(器用人)"。やっぱり、世界からちょっとずれた場所、ゆるくて"きもかわいい"、淺海真弓ワールドへ。いざ潜入!


|話し手|淺海真弓教授 
|聞き手|佐田野真代(広報室員)・永井一樹(広報室員)・東千尋(教材文化資料館)
|写 真|山下真人(附属図書館)

※このインタビューは2022年7月に収録したものです。          


第5回(最終話):謎の時間

淺:私、今住んでるところ、とんでもないところで、山なんです。完全に木々に囲まれてて。コンビニとかお店がないんです。だから、週にいっぺん街に降りていって、食料品とかいろいろ買ってくる。佐田野さんは街中に住んでるんだっけ。

S:私は大学の宿舎です。

淺:だったら、ボン・マルシェ(加東市にあるスーパー)もあるし、周りにお店はたくさんあるから、買いに行こうと思ったらすぐ行けますよね。私はすぐ買いに行けないんで、用心してつい置いといてしまう。

N:なるほど。すぐに代わりのものを買える環境にあるから、捨てちゃうのか。


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淺:今すごく世界情勢が不安定で、燃料とか、いろんなモノの値段が上がってて、それはつらいことではあるけれど、食品ロスを出さないようにするとか、みんながモノを大切にするための賢い知恵を巡らすきっかけになるといいんちゃいますかね。そうそう、それでね、断捨離しなくてよかったわと思うものがあって。みなさん、「時計ストーブ」ってご存じですか。

S:時計ストーブ。いや、知りません。

淺:簡易のストーブなんですけど、うちの倉庫にあってね。捨てようかなと思ってたんですけど、まだ使えるから、置いとこうと思って。本当に軽いストーブなんです。時計の機能があるわけではなくて、昔のボンボン時計みたいな形をしてるからそう呼んでるだけなんですけど。ゴールデンウイークに弟家族が来ることになって、家で何かしようと考えたとき、その時計ストーブのこと思い出して。山の中だから、周りに木はたくさんある。それをくべて火をおこして料理をしようと。野外でするストーブなんです。でも、今はやりのダッチオーブンとか、アウトドアみたいな道具は一切ないからどうしようと思ったら、小学校のときに使ってた飯ごう炊飯の飯ごうがあったんですよ。なぜか取ってあった。その中でお肉とか野菜入れてシチューみたいにして、そのストーブの中にしばらく突っ込んでたら、もう非常においしい煮込み料理ができました。捨てずによかった、飯ごう。


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Y
:いいですね。僕の妻もキャンプにはまってて、道具を買いまくってます。でも、便利でおしゃれな道具よりも、あるものを使った方が絶対楽しいんですよね。工夫して、これ何に使えるかなっていう方が絶対面白い。特に子どもには。

S:それに、先生の話に出てくるひとつひとつに、物語がありますよね。それが積み重なって、すごく素敵な道具に見えてくる。

Y:いいですね、物語。買ったものにはないんですよ、たぶんあんまり。

S:買ったものにもストーリーはあると思いますけど、蚤の市で見つけてきたとか。私は買う方なんで(笑)。

Y:確かに。

淺:でも、買えないということもありますね。アウトドアショップが近くにないというのもありますし。たまたまそこにあるものでするのって、やっぱし育った環境がそういうところだったから、ずっとそうするしかなかった。それがかえって面白いなと思うようになって...。

N:もともとそういうところで、生まれ育ったんですか。

淺:生まれてないですけど、小学校三年生のとき、大阪から無理やり親に連れてこられて。ちょっとすごいカルチャーショックを味わったんですよね。物質世界から隔絶された、なんかようわからへんところに連れてこられた。

S:ご両親が、田舎暮らしに憧れておられた?

淺:そうなんです。もう都会暮らしはいいわ、みたいな。

S:いいですね。

淺:でも、父は大阪に通勤したんですよ。だから、彼は平日は街の中で働いて、土日が山暮らし。それは楽しいやろうと。私や母は山の中に連れてこられて、ここで何か楽しみを見つけねばって感じだった。

S:住んでおられた丹波篠山は立杭焼で有名です。それがきっかけで陶芸を?


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淺:はい。でも、それも行き当たりばったりなんですよね。話せば長い話になるんですけど、何をしたいのかわからない10代だったもんで。でも、何かをしたいって言わなきゃいけないような風潮があって、そのなかでたまたま近くに焼き物があったから、「じゃ焼き物で」って感じですね。

N:何歳から陶芸を?

淺:二十歳です。

S:ということは、大学に通いながら?

淺:いや、これはあまり人に話してないんですけど、普通は18歳で受験して大学に行くじゃないですか。たいていの人はそうだと思うんですけど、私、18歳から2年間ずっと家にいたんです。

N:ほう、何されてたんですか?

淺:山の中でごそごそしてました。今で言う、ひきこもりですね。

S:そのときもご両親は、やっぱりそれでいいって言ってくれた?

淺:そうそう。だから今考えると親、偉かったなと。私、たぶん自分の子どもが18歳になって、「もうちょっと家でいろいろ作ったりしとくわ」って言ったら、すごい不安になると思うんですよね。


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N
:どんな2年間だったんですか。

淺:何してたかなって思い返すと、まず料理してました。パン焼いたり。

N:家事手伝い。

淺:はい。河原から石ころ拾ってきて、石に絵を描いたり。その頃って、みんな大学に入るのがすごく大変だったんですよ。美大とか芸大めざす子って、浪人しないと入れなかった。だから周りに浪人している友達がいっぱいいてね。受験勉強はしてないけど、私が家にいてても、世間的には全然おかしくなかったんですよね。

N:2年目に、やっぱり大学に行かないとって、思われたんですか。

淺:そうです。1年が過ぎた段階で、だいたい浪人してた子が大学受かっていって、本当にひとりぼっちになっちゃった。

N:なぜ教育大学に進まれたんですか?

淺:やっぱしモノをつくるのが好きだったから、そういう道に行こうかなって思ったんですけど、さっきも言ったけど美大・芸大に行くのって、すごい大変なんですよ。専門のデッサンとか、美術の勉強しないといけないし。石膏像を描けとかといわれるのすごい嫌いだから、私には無理と思って。だから、自分の学力で入れて、かつ造形的な勉強ができるってなると、教育大学かと思って。私の親は結構何でも許してくれる人たちなんですけど、家から通えるところか、親戚とかおじいちゃん、おばあちゃんの家から通いなさいと言われて。でももう2年も家の中でどっぷりいたから実家は飽きてたし、愛知県に祖父がいたから、じゃ愛知教育大学にしようと。すみません。そんな理由です。

N:振り返ってみて、その2年間というのは何かの糧に?

淺:いや、糧にはあまりなってないんちゃうかな。確かに必要な時間ではあったかもしれないけど、もったいなかったなと思いますもんね。今、あの若い2年間があったら、もっといろいろできるなって。

S:でも、この2年間がなかったら、こういう作風にはなってなかったもしれないですね。

淺:そうですね。今の若者って、決まった時間の枠の中で動かないとドロップアウトしちゃうっていう危機感を持ってるような気がする。だから、昔みたいに無駄に浪人とかしないんじゃないかな。私の場合は、たまたま運がよかっただけかもしれないけど、大学入ってすごい授業楽しかったし、その2年間は取り返そうと思ったわけでも何でもないですけど、たぶんほかの学生よりは学んだと思うし、努力もしたし、全然フリーズしてる時期があってもいいんちゃうかなと思いますね。東さんも、引きこもってたっけ?

H:引きこもってましたね。

淺:2年間ね。

H:大学卒業して、2年間無職でした。フリーランスとフリーターを行き来する謎の時間が、ついこの間までありまして。

淺:謎の時間やね。ご両親は、何もおっしゃらなかった?

H:両親は心配してたけど、大丈夫でした。何か困ったらお金とかは送るからねって言ってくれたけど、一応途中までバイトをしたりとか、謎の仕事を請け負ったりして生活していましたね。


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淺:なんかやっぱり順調な成長過程じゃないっていうか、親が安心するような生き様じゃないですよね。

N:そうやって、謎の時間を過ごしながら紆余曲折を経て、大学の教員に。でも、今もあいかわらず廃材とよくわからないものに囲まれて、ごそごそとされていらっしゃいますね。

淺:はい。ものに囲まれてないとなんか安心できないからね。でも、完成品にはあまり興味ないんです。だって、完成されたものは、誰かが使い方とか遊び方を想定したものでしょ。そこにまんまと乗るのってちょっと嫌で。あんまり興味が湧かないんですよね。教材屋さんが作ってる造形教材って、大人とか偉い先生とかの思惑があってのものじゃないですか。そこに誘導するのってあんまり面白くないし、もっと廃材とか、いわゆる「造形素材」じゃないもので造形活動をする方が子どももきっと面白いやろうなって思ってます。

N:あ、もうこんな時間。そろそろ戻らないと。今日は長時間にわたりありがとうございました。実際に使わせていただくのは、ほんの一部だと思いますけど。

淺:こんなので記事になるとは思えないけど、楽しかったです。これも謎の時間かな。

N:謎の時間ですね。仕事してるのかだべってるだけなのかよくわからない。

淺:だべっただけでしたね(笑)。でもお疲れ様でした。戻られる前に、まあお茶もう一杯いかが?(了)



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