特別支援学校知的障害職業学科における職業教育に関する介入研究:長期的に働くための資質を育む学習内容の開発と評価 学校心理・学校健康教育・発達支援コース 岡本 希

研究目的

 本研究の目的は、特別支援学校在籍の生徒を対象に、(1)職業教育の効果に関する客観的評価尺度を開発すること、(2)木工作業を通しての職業教育の介入効果を評価することである。

 目的(1)で、就職後に継続して求められる時間厳守・着席・挨拶・身だしなみ・説明を聞く力・質問する力・木工作業の手順の理解・報告・片付けの出来具合を評価する尺度を開発する。調査対象の特別支援学校の生徒を対象とし、男女・年齢・職種の異なる複数の評価者に依頼し、一致度を検証する。その結果をうけて、文言を修正し尺度を本研究の介入研究で使用する。

 目的(2)で、大阪府立豊中特別支援学校に通学する軽度知的障害を持つ中等部の生徒30名を介入群と非介入群に分けて、介入群には長期的に働くことを可能にする資質を育む学習内容を提供し(週1回50分授業×6回)、非介入群には従来通りの授業を実施し、介入効果を評価する。介入前に1回、介入中の各授業で6回、介入後に1回、評価項目として、開発する職業教育の効果に関する客観的評価尺度、ソーシャルスキルトレーニング(SST)尺度、就労スキル尺度、授業開始時の心拍数と身体活動量のデータを収集する。

当該分野におけるこの研究(計画)の学術的な特色・独創的な点及び予想される結果と意義

国内外の関連する研究の中での当該研究の位置づけ等

 知的障害者の離職者数や離職率に関する政府の調査は報告されていない。しかし、障害のある人の離職が多いことが報告されていて(田中他,琉球大学教育学部紀要,2009)、学校教諭の実感と一致する。したがって、中等部・高等部における職業教育に時間と労力をかける必要があると考える。知的障害者の進路学習の効果を評価した先行研究は数少ないが、ソーシャルスキル・トレーニングを取り入れた授業実践は有効であったと報告されている(石津他,特殊教育学研究,2011)。したがって、本研究で実践する就労を継続する資質を育む授業実践は他で実践されていないものであり、その効果は有効であると予想する。

(経緯・背景)

 少子化により小中高の在学者数は減少の一途をたどるが、特別支援学校(知的障害)の在学者数は増加傾向にある(文部科学省 学校基本調査 特別支援教育資料)。2005年に成立した障害者自立支援法では就労移行支援と就労継続支援が重要視され、企業における障害者雇用に対する理解も深まりつつある。しかし、障害のある人が就職した後、定着しない現状も数多い。離職要因の一つに仕事上の相談者を得られないことが挙げられる(福井他,日職災医誌,2015)。仕事上での相談者を得るために、就職後に継続して求められる時間厳守・着席・挨拶・身だしなみ・説明を聞く力・質問する力・木工作業の手順の理解・報告・片付けに関する資質の育成は重要と考える。そこで本研究では、木工作業を通してこれらの資質を育むことを目的とした学習内容を開発し、その効果を介入研究のデザインで検証する。

 従来のソーシャルスキルおよび就労スキルに関連する尺度は、4件法ないし5件法で「思う」から「思わない」までの程度を回答する形式のものが多い。つまり、選択肢の文言が生徒の状態や能力を客観的な文言で表すものではない。公衆衛生学領域では、例えば要介護度の判定に使われる評価尺度のように、対象者の状態や能力を客観的な文言で表す評価尺度が主流である(例:入浴できますか「はい・いいえ」/屋内を歩行できますか「はい・いいえ」/公共の交通機関を利用できますか「はい・いいえ」)。対象者の状態や能力を客観的な文言で表す尺度の利点は、複数の評価者が判定しても一致しやすい点である。したがって、職業教育の分野における客観的な文言から構成される尺度の開発が必要と考える。

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