シリーズ「コロナと教育」(濵中裕明教授インタビュー1)

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シリーズ「コロナと教育」は、本学の教員に、それぞれの専門領域の見地から、コロナのこと、教育のこと、人生のことなどを語ってもらうインタビュー企画。
第二弾は、濵中裕明教授です。

国語は苦手。でも、算数が大好きだった少年は、長じてから数学者になりました。
専門は、代数的位相幾何学。兵庫教育大学に着任してからも、数学研究の一本道をまっしぐらに進んできましたが、35歳のとき、数学教育へとその軸足を移します。
数学を何かの役に立つ「実用品」としてだけでなく、数学そのものの面白さを伝えられる教員を育成するべく、日々心血を注ぎつづけて15年。
人生100年時代の今、50歳の大台に乗り、後半戦に足を踏み入れられた濱中教授に、人生のこれまでとこれから、そしてコロナ禍の今について伺いました。



|話し手|濵中裕明教授 |聞き手|佐田野真代(広報室員)・永井一樹(広報室員)

第1回:ルービックキューブと代数学

濵:すいません遅くなりまして。

S:いえいえ。待っている間、5階からの眺望をぼんやり楽しんでおりました。とても、いい景色ですね。



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濵:天気もいいですしね。えーと、今日はどんな話をしたらいいんですかね?

N:どんなことでも。私、濱中先生とこうやってお話するのって、初めてじゃないかと思うんです。誤解を怖れずに言えば、先生ってちょっと近寄りがたいですよね。なんかミステリアスなオーラが漂ってて。

濵:そんなことないですよ(苦笑)。何でも質問して頂ければ。

N:だって、まずそのカバンがミステリアスですよね。濱中先生か渥美清くらいでしょう、これ持ってる人。中に何が入っているんですか?

濵:私のおもちゃ箱です。話のネタになるかと思って持ってきました。


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濵:色んなおもちゃがありますよ。ちょっと手を出してもらっていいですか。こことここを持って、横にちょっと軽く引っ張ってください。そうそう。そんな感じ。

S:ずっと引っ張っていいんですか。

濵:はい。軽く持って、横にぐっと引っ張ってください。もうちょっと。そんな感じ。軽く持って横に引っ張ってください。だんだん外れていくでしょう。もっと横に。

S:もっとですか。もっと力強く。いつまでたっても外れない。


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濵:外れていっているようで、いつまでたっても外れない。そういうおもちゃです

N:錯視ですか?

濵:錯視です。だから床屋のサインポールと基本的には一緒なんです。外れてるようで、ただその場で回ってるだけなんです。

S:でも、手は離れていってる!

濵:ほら、だんだんわかんなくなってくる。

S:不思議。

濵:こんなのもあります。これ知ってます? 大阪城の東門って言ったかな。その門の柱が昭和初期に修復されてるんです。修復されて、柱の上の部分と下の部分が接いであるんですけど、その接き方がこうなってるらしいんです。正面から見ると山型になってるんだけど、横から見ると逆山型になってるんです。外せないじゃないですか、これじゃ。で、どうなってるんだろうっていうのが、昔から謎で。



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N
:そもそも、外れないようにしてるんじゃないですか。

濵:それが外れるんですよ。当時の修復のときの記録が残ってなくて、大阪城の謎として有名だったんですけど、その後、誰かがこうなってるんじゃないだろうかって考えて、レントゲン写真撮ったらしいんです、大阪城の柱の。そしたら考えたとおりの形状だった。中身はこうなってるんです。


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濵:これは、IPP(インターナショナル・パズル・パーティー)という、世界中で毎年夏に行われる極秘パーティーがあるんですけど、そこで参加者に配られたお土産品です。

N:極秘のパーティですか...

濵:世界中のどこで行われるかはメンバーしか知らない。そういう意味では極秘なんですけど、そのパーティーの参加者に配られたお土産品です。

S:先生は会員なんですね。どうやったら会員になれるんですか。

濵:紹介制です。日本にパズルの大家が何人かいて、みんな知り合いなんですよ。パズル、趣味なんですよね。

S:そういうご趣味って、先生のご専門の幾何学とやっぱりリンクするんでしょうか。

濵:どうですかね。ただの趣味ですね。ただ、ルービックキューブなんかは代数学と結構関係してますけど。

S:ああ、ルービック・キューブ。私、人生でまだ一度もできたことがないんです。

N:僕も。

濵:ルービックキューブのコレクションも山ほどあります。今、研究室にありますけど、見たらびっくりしますよ。持ってきましょうか。

N:ぜひぜひ。ところで代数学って、どんな学問なんですか?

濵:代数学っていうのは、演算がある集合に関する学問です。数を例にすると、足し算とか掛け算とかがありますけど、演算っていうのは二つのものから新しいものを作るのが全部演算なんです。そのなかで、"まともな演算"でないとちょっと扱えないので、ある程度きれいな性質が必要になりますけど、ルービックキューブの場合でいうと、「回す」っていう操作がありますよね。ここ(A)を回してから、ここ(B)を回すっていうやり方ができますよね。これもだから、AとBの演算なんです。例えばマイナス1っていうのは2回掛けたら(つまり、マイナス1を二乗したら)、1に戻りますよね。ルービックキューブもこうやって4回回したら元に戻るので、1回の操作にAという名前をつけると、Aの4乗が1なんです。というふうに、この操作も数式で書くことができるし、数式で操作どうしの関係を表すことができるので、そんな感じでやっていくと代数学になっちゃうんです。

N:プログラミングの言語を定義していくみたいな感じですか。

濵:そうですね。とにかく演算があるものは全て代数学です。
小学校のときは、数の足し算などの計算結果に焦点がありますけど、代数学になると、その演算がある集合全体の性質を扱おうとするんです。例えば整数だったら、整数全体としてどんな性質があるかというのを見にいくようになるんです。3×4が12っていうよりも、どんな数も素因数分解ができるという性質に注目する。整数という集合の中で、どんな性質があるかっていうのを探すんです。

N:う~ん、難しい。

S:難しいですね。そして、私には永遠にルービックキューブは解けそうにない。家にはあったんですけどね。

N:絶対ありましたね。

濵:世代ですからね。

N:1970年代生まれですもんね、全員。若い人はやってないですよね、多分。

濵:そうかもしれませんね。

S:私が中学生のとき、凄く流行ってました。テレビでよく、ぶわあって素早く解いちゃう人がいたじゃないですか。濵中先生も一瞬で解けちゃうんですか。

濵::いや、5分ぐらいはかかりますね。 


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