シリーズ「コロナと教育」(濵中裕明教授インタビュー4)

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シリーズ「コロナと教育」は、本学の教員に、それぞれの専門領域の見地から、コロナのこと、教育のこと、人生のことなどを語ってもらうインタビュー企画。
第二弾は、濵中裕明教授です。

国語は苦手。でも、算数が大好きだった少年は、長じてから数学者になりました。
専門は、代数的位相幾何学。兵庫教育大学に着任してからも、数学研究の一本道をまっしぐらに進んできましたが、35歳のとき、数学教育へとその軸足を移します。
数学を何かの役に立つ「実用品」としてだけでなく、数学そのものの面白さを伝えられる教員を育成するべく、日々心血を注ぎつづけて15年。
人生100年時代の今、50歳の大台に乗り、後半戦に足を踏み入れられた濱中教授に、人生のこれまでとこれから、そしてコロナ禍の今について伺いました。



|話し手|濵中裕明教授 |聞き手|佐田野真代(広報室員)・永井一樹(広報室員)

第4回:やっぱり、黒板

N:コロナ禍でオンライン教育に奮闘されている様子を先生のFacebookで拝見していますが、教育や授業について変わったことがありますか?

濱:授業はあんまり困ってないですね、実は。割とオンラインへの対応がうまくいったなと思ってます。でもゼミはすごく困ってます。最近は対面でできるようになってきたので、そんなに困ってないんだけど、オンライン中は困りました。

N:なぜですか?

濱:授業(数学教育)だったら、文献を探してきてPDFにして画面共有で一緒に見て話し合ったりすればいいんです。Googleドキュメントってあるでしょ。あれ使えば、複数の人で同時に編集できるんです。なので、ひとつのファイルをゼミ生と共有して、授業中に議論しながらちょっと気づいたことを互いにGoogleドキュメント上にまとめていくという感じで進めることができるんです。だから、数学教育は困らないんですが、数学のゼミはやっぱり黒板なんです。ゼミ生と黒板を共有して議論したい。黒板を共有したいんだけど、私の方はApple pencilとかで書き込んで話をしたりできても、ゼミ生の方は書き込むデバイスを持っていないのが一般的なんです。

SGoogleドキュメントではダメなんですか?

濱:GoogleドキュメントとかWordとかって、数式がすごく貧弱じゃないですか。それに我々は数式だけで議論してるんじゃなくて、図形だったり図式だったり、色んなものを縦横無尽に描ける、要するに何でも描ける黒板が共有されてないと困るんです。

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S:なるほど。

濱:あと、オンラインだとゼミ生達が固いんですよね。一人ずつしかしゃべられないじゃないですか。だから、発言がすごく少なくなっちゃって、アイデアが出にくくなったというのはあります。数学のゼミっていうのは、普通輪読するんです。つまり、数学のテキストをみんなで回し読みして、内容を説明していくんです。これはすごく伝統的な授業方法で、たぶん全国津々浦々の数学のゼミでは輪読が行われているのではないかと思いますが、私それが嫌いで。理学部だったら、理想的なのかもしれないけれど、教育学部で数学の専門書を輪読しても意味がないなと私自身は思っていて、だから、私は「正真正銘の探究をしよう」ってよく言っています。どういうことをするかというと、私が思いついた出発点から、ちょっと考えようぜ、という感じでスタートして、「こんな風にやってみてよ」と言って、みんなでやっていって、「じゃあこう言う場合はどうなるんだろう?」というのが出てきて、それをまたみんなで考えているうちに、「じゃあこの場合はどう?」「これとこれの関係はどうなってるんだろう?」と話がどんどん広がっていって、だから筋書きがないんです。完全に筋書きのない探究をしていて、どうなるか私もわからないんですけど、思いつきでやってる。そういう探究型のゼミをするときには、なおさらオンラインだとやりにくくて。

S:数学って、孤独な沈思黙考型の学問かと思っていたので、そんな風に黒板の元に集まってみんなでコミュニケーションするというイメージが全然ありませんでした。とても新鮮です。

N:昔『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』っていう映画がありましたよね。不良役の主人公・マット・デイモンが大学の清掃アルバイトしてるんですが、廊下の黒板に書かれた数学の難問をチョークですらすら解いていくんですよ。学問から最も縁遠そうな不良なのに。その板書を見た教授が、「うわあ天才現る」って驚いて。黒板ってすごいコミュニケーションツールなんだなって、そのとき思いましたね。

濱:日本の羽衣チョークが世界中の数学者に愛されていたんだけど、倒産したんですよ。そのとき、世界中の数学者から、「羽衣チョークがなくなったら困るじゃないか!」っていう熱いツイートが溢れたんです。

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N
:羽衣チョークは何がいいんですか?

濱:書き心地が。

S:粉が落ちない。

濱:海外産のチョークではダメで、「やっぱ羽衣チョークだ!世界中でもう買い占めだ!」って騒いでいました。

N:しかも、数学関係の人が言っている(笑)。

濱:はい。数学関係の人が。

N:ということは、やっぱり数学関係の人は特に黒板が。

濱:チョークと黒板ですよ。

N:何か文系のためのものというようなイメージがありますが、確かに高校の時を思い出しても、数学の授業の板書量って凄かったですね。

濱:最近でこそ数学の方もスライドで研究発表するようになりましたけど、私が院生の頃は黒板で発表していました。その当時、既に多くの分野がスライドに移行してたと思うんですけど、最後までチョークで発表してたのが数学者じゃないですかね。(第5話につづく)

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