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第6号 (2005年3月発行)

第6号 (2005年3月発行)

  

「教育実践学論集」掲載論文 和文要旨 第6号 (2005年3月発行)

論文表題
著者 掲載頁・和文要旨
倉橋惣三の保育思想における子どもの権利保障論 -児童保護論を中心に-
狐塚 和江 pp.1-12
地域教材の成立過程とその意図についての一考察 -「米百俵」教材を中心として-
木村 松子 pp.13-24
M.マッケンジーの「教育の新理想」としての「自由」概念とその史的意味 -イギリス新教育運動の多義性の内実解明にむけて-
山崎 洋子 pp.25-36
教職科目における障害児教育関連科目の設定の現状と課題
河合 康 pp.37-46
情意表現から見た終助詞
劉 笑明 pp.47-54
地方小都市に住む高齢女性の社会集団加入 -岡山県高梁市の事例-
野邊 政雄 pp.55-66
社会教育施設における絵画教室についての一考察 -生涯学習の視点から-
上浦 千津子 pp.67-78
地域の音楽学習のための教材開発 -≪撫養の子守唄≫を事例として-
今 由佳里 pp.79-90
ヴィクトリア朝盛期の日用製品と大衆美術教育 -ヘンリー・コウルと初等美術教育を中心として-
藤田 知里 pp.91-104
奈良女高師附小における溝上泰子の家事科教育の構想と実践 -家庭科における「子ども」と「科学」の統合に関する研究-
原田 省吾,佐藤 園 pp.105-116

掲載論文

「教育実践学論集」掲載論文 和文要旨

第6号掲載論文

著者: 狐塚 和江
論文題目: 倉橋惣三の保育思想における子どもの権利保障論 -児童保護論を中心に-
 本稿の目的は,倉橋惣三の保育思想における鍵概念である「生活」を,子どもの権利の視点から考察することによって,そこに見出される今日的な実践課題を明らかにすることである。本稿では,倉橋の児童保護論をその保育思想の一応の到達点とみなして再考し,そこから導き出される「生活」の意味を考察し,倉橋が子どもの権利である保護と教育を統一的に保障する論拠としたのは,「生活」がもつ機能としての発達支援と,子どもの自発的で一体的な生活の2点であることを指摘する。そして,倉橋の子どもの権利論と「生活」概念の今日性とその意義についても言及する。
キーワード: 倉橋惣三,子どもの権利,保護と教育の統一,発達支援,子どもの生活

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著者: 木村 松子
論文題目: 地域教材の成立過程とその意図についての一考察 -「米百俵」教材を中心として-
 本稿の目的は,「米百俵」として近年再ブームを呼んだ故事の成立過程及び小学校社会科地域教材への導入過程の検討を通して,教材化をめぐる意図と授業での教師の働きかけの内容について明らかにすることである。 戊辰戦争を経験した当該地域における藩主・藩士を偉人視する傾向が戦前の旧制中学校読本の中だけでなく,戦後の社会科教材の中にもあり,そこで語られる「米百俵」故事も,武士や軍人の英雄視と繋げて指導される傾向があることが指摘できた。藩士に偏る地域史料や武士や軍人の立場で語る教材によって,授業の中に意図的・無意図的な軍事主義が入り込む可能性がある。地域の要請と社会科の目標との厳密な検討作業の必要性が明らかになった。
キーワード: 「米百俵」,地域教材,人物学習,地域の歴史,軍事主義
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著者: 山﨑 洋子
論文題目: M.マッケンジーの「教育の新理想」としての「自由」概念とその史的意味 -イギリス新教育運動の多義性の内実解明にむけて-
 教育実践が不可避とする自由を考えるため,本論では新教育運動の先駆組織「教育の新理想」の主導者・マッケンジーの「自由」概念に着目し,その根拠と史的意味を解明した。(1)彼女の「自由」概念には民主的・社会的契機と宗教的・神秘的契機が内在し,(2)その外延は人間自然,その視座は社会批判の文脈で捉えられ,(3)教育目標の基盤は身体・魂・精神の三位一体と内心の自由を保障する'sevenfold'という東洋的自我発達図式,目的的自由は生の一般哲学,方法的自由は協同的自由によって根拠づけられ,(4)新教育運動に顕在化したスピリチュアルと協同のファクターによって自由を希求するダイナミズムとネットワークが促進され,教育の自由が学校教育のエートスとなった。
キーワード: M.マッケンジー,「教育の新理想」,イギリス新教育運動,教育における自由,自我のスピリチュアルな発達
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著者: 河合 康
論文題目: 教職科目における障害児教育関連科目の設定の現状と課題
 本研究では,大学が教員免許状取得希望学生に対して,教職科目において障害児教育関連科目をどのように設定しているのかを明らかにし,大学のカリキュラムの今後の方向性を検討することを目的としている。教育職員免許法の規定に従い,「幼児,児童及び生徒の心身の発達及び学習の過程」に障害児教育関連科目を必修として設定しているのは4分の1程度であり,また,科目が設定されていても,一部でしか障害に関する内容を扱っていない科目が4分の3以上を占めていた。今後は,教育職員免許法における義務内容を文部科学省から各大学に早急に周知徹底すると同時に,大学側も主体的に現状を見直す必要性を指摘したい。
キーワード: 教育職員免許法,教職科目,「幼児,児童及び生徒の心身の発達及び学習の過程」,障害児教育介護等体験
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著者: 劉 笑明
論文題目: 情意表現から見た終助詞
 日本語には,感情,感動,意志,願望など,いわゆる話し手の情意を表す終助詞がある。本稿では,このような情意を表す終助詞について,その分類及び意味・機能を考察した。現代日本語に使われている終助詞は,文脈や発話形式やイントネーションなど,いくつかの要因によって多種の意味・機能を表す可能性がある。また喜怒哀楽の表現が個人差と場面差によって違い,さらに話し手と聞き手との関わりも終助詞によって異なる。ここで実際の用例を通して情意的色彩の生成モデル及びそれぞれの情意表現の特徴を明らかにするとともに,情意を表す終助詞を把握し,その意味・機能を記述する。
キーワード: 情意表現,終助詞の機能,発話形式,男女差,イントネーション
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著者: 野邊 政雄
論文題目: 地方小都市に住む高齢女性の社会集団加入 -岡山県高梁市の事例-
 筆者は,岡山県の地方小都市である高梁市で1997年から1998年にわたって65歳以上80歳未満の高齢女性523人を対象に調査をおこなった。本稿の目的は,そのデータを分析するとともに,地方中核都市である岡山市の調査データと比較することによって,地方小都市に居住する高齢女性の集団加入について次の3点を追究することにある。第1に,どのくらいの高齢女性がそれぞれの集団に加入しているかを明らかにする。第2に,どのような要因が高齢女性の集団加入を規定しているかを明らかにする。第3に,どのくらいの高齢女性が伝統的地域集団のおこなうそれぞれの活動に参加しているかを明らかにし,参加活動数に影響を及ぼしている要因を追究する。
キーワード: 集団加入,高齢女性,地方小都市,都市化度,伝統的地域集団
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著者: 上浦 千津子
論文題目: 社会教育施設における絵画教室についての一考察 -生涯学習の視点から-
 本研究では,社会教育施設における受講者の意識を観察及び質問紙により調査し,学習動機や価値観について考察することから,生涯学習社会を見据えた美術教育のあり方を検討した。受講者の目的や動機は,技術獲得への期待と精神的な安定の希求といった2側面をもつこと,絵画教室が,美術を通したコミュニケーションを拡張する場となり,これまで生きてきた時間と今後の人生を見つめる機会となっていることなどを確認した。受講者の個に応じた学習課題に対応するための指導法の開発を進めるとともに,受講者が文化の学び手であると同時に担い手でもあることの自覚を促してゆくことが,美術教育と社会を取り結ぶ上で重要であると考える。
キーワード: 生涯学習,社会教育施設,絵画教室,美術教育,文化
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著者: 今 由佳里
論文題目: 地域の音楽学習のための教材開発 -《撫養(むや)の子守唄》を事例として-
 本稿の目的は,地域性を生かした学校音楽教育のあり方を探求するという観点から,音楽科教育実践における地域に伝わる子守唄の学習教材について提案をすることにある。事例として,6点の教材性を備えていることが明らかになった《撫養の子守唄》を取り上げ,音楽科の授業実践における学習の手立てを導き出し,歌唱及び和楽器学習の展開を提示する。 子どもの生活環境の中にある親しみやすい子守唄を取りあげることによって,子どもたちは民俗音楽の特徴的な旋律やリズム,音色等に積極的な関心を示すようになる。また,その教育的効果は,子守唄の美的・文化的価値に気づかせ,地域に埋もれている民俗音楽を継承し,意識化することにある。
キーワード: 《撫養の子守唄》,教材化,学習方法,楽曲分析,地域学習
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著者: 藤田 知里
論文題目: ヴィクトリア朝盛期の日用製品と大衆美術教育 -ヘンリー・コウルと初等美術教育を中心として-
 本研究では,ヴィクトリア朝盛期における日用製品のデザインと大衆美術教育との関わりを検証するために,ヘンリー・コウルの初等美術教育政策を踏まえ,当時公学校で使用されていた図画手本を調査し,考察を行った。その結果,図画手本には,コウルの政策,それに内在する諸問題,さらに当時流行していたデザインの動向が反映されていたことが明らかになった。この点から,当時の初等美術教育は,職業美術教育であったことが改めて強調され,行政による単独の働きかけのみならず,社会の需要により存在し,デザインや社会情勢と連動していたとの結論を得た。
キーワード: 初等美術教育,ヴィクトリア朝,ヘンリー・コウル,図画手本
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著者: 原田 省吾,佐藤園
論文題目: 奈良女高師附小における溝上泰子の家事科教育の構想と実践 -家庭科における「子ども」と「科学」の統合に関する研究-
 本研究は,家庭科における「子どもの学びの論理(子ども)」と「学問・科学の論理(科学)」の統合の可能性について,木下竹次の教育理念と,奈良女高師附小における家事・裁縫科の実践の分析を通して探ることを目的としている。本報では,溝上泰子の「小合科学習(家事)」の構想及び実践に焦点を当てて分析を行った。 溝上は,「科学」の系統性を重視した家事科カリキュラムを編成し,それを木下の構築した「子ども中心の学習法」で実践することにより,「子ども」と「科学」の統合を図ろうとした。そのため,家事科の学習では,溝上のカリキュラム編成と木下の学習法の間に理論的矛盾が生じ,「子ども」と「科学」の充分な統合をみることができなかった。
キーワード: 「子ども」と「科学」の統合,小合科学習(家事),溝上泰子,木下竹次,奈良女子高等師範学校附属小学校
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