令和3年度採択プロジェクト
- プロジェクトの名称
- 包括的な健康教育の実践的指導者のための研修カリキュラムの開発
- プロジェクトの期間
- 令和3年4月1日~令和6年3月31日
プロジェクトの概要
プロジェクト研究の概要
【本共同研究プロジェクトの趣旨】設置者が行う合同研修や各学校の校内研修などで指導的立場にある教職員を対象に実施される健康教育に関する研修を,包括的・体系的に実施するためのカリキュラム及びその実施方法を開発する。特にその研修内容,研修方法及び技術的な側面(例えば遠隔による双方向の参加型研修を効果的に実施する技術など)を開発することで,指導的立場の教職員の育成を図る仕組みの基盤を研究する。【詳細】我が国の健康教育は,発達段階に応じて「保健」の学習指導,学級活動,特別活動,各種学校行事などにおいて実施されている。これらは,校長以下,教諭,養護教諭,栄養教諭,学校三師,スクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーなど,学校の職員が相互に連携して実施するものであるが,子どもたちのかかえる健康課題は時代の変化により変わっていくものであり,健康教育の担当者は常に最新の知識や技術を基盤として,子どもたちの健康教育にあたる必要がある。
プロジェクトリーダーが在籍する岡山大学には独立行政法人教職員支援機構の地域センターが置かれており,平成30年度及び令和元年の夏季に「学校保健の視点で捉える危機管理-実践から学ぶPDCとAの往還―」を実施した。また今年度もさらに包括的な健康教育を担える指導者のための研修を企画しているが,昨今の新型コロナウイルス感染症対応はもちろん,今日的な健康課題に向き合う能力を高めるための教職員の研修のニーズがきわめて高いことを経験する。健康教育は学校保健の大きな柱の一つであり,その学校保健は学校教育の円滑な実施とその成果の確保に資する,いわば学校経営上のインフラであるので,本来すべての学校の教職員の養成課程と卒後研修のなかに包含されるべきものである。しかし保健体育科の教員や養護教諭を除いて,教員養成段階で学校保健は必修ではなく,現実には教員となってオン・ザ・ジョブで経験を積み重ねて能力を身に着けている場合が多いと想定される。今回の新型コロナウイルス感染症で誰もが健康教育の重要性を再認識したと思われるが,対応すべき健康課題は感染症の他にも多く存在し,包括的・体系的な健康教育の実践が不可欠である。
そこでこの研究プロジェクトでは,まず初等教育段階を中心に学習指導要領に準拠しつつも,発達段階と社会的な状況を踏まえた健康教育の内容について体系化を試みる。具体的には米国の健康教育基準(National Health Education Standards)の構造を参考に,栄養,休養,身体活動,好ましい生活習慣,けがの予防,感染症予防,一般的な衛生,性教育,飲酒・喫煙・薬物乱用防止教育,メンタルヘルスなどの内容について検討する。この広範な領域をカバーできるように,研究チームは専門横断的に構成した。また医師などの資格を有する研究者,健康教育の実践者,学校管理職等経験者をチームに加えた。このメンバーが協力して,職員研修等で指導的立場にある教職員が実際に健康教育に関する研修を企画する場面で,学校(および地域)の健康課題の状況を把握(診断)するツールと研修計画を組み上げるツールを開発する。また研修を必ずしも対面式ではなく,遠隔システムなどICTを活用した双方向の参加型(非集合型)で実施できる汎用性の高い方法も併せて開発する。
この研究の過程で,外国の事例を参考にしながら,わが国の実態(学習指導要領,教員の配置,学校の規模など)にあった研修の在り方を国際比較によって考察したい。具体的には,プロジェクトリーダーが2017年に当連合研究科の共同研究プロジェクトRで現地視察した米国ロードアイランド州の健康教育の実践例を詳しく分析することを考えている。この州では全米で唯一日本の養護教諭に近いSchool Nurse Teacherが各学校に配置されており,看護職としてキャリアを積んだ社会人を教員として養成する課程では児童生徒の包括的な健康教育に重きを置いている。現在米国では2014年より新たに実施されているWhole School, Whole Community, Whole Child (WSCC)という全米共通の包括的健康教育及び保健管理プログラムの実施状況と,指導者に対する研修の仕組みを一つのモデルとして観察・検討し,このプロジェクトで開発しようとしているカリキュラムの開発に資するようにする。