project: AE(R7~9) グローバル化時代における英語教師のウェルビーイングに関する調査研究
令和7年度採択プロジェクト
- プロジェクトの名称
- グローバル化時代における英語教師のウェルビーイングに関する調査研究
- プロジェクトの期間
- 令和7年4月1日~令和10年3月31日
プロジェクトの概要
プロジェクト研究の概要
(1)研究の背景
日本では「教育振興基本計画」(令和5年中央教育審議会答申)に「日本社会に根ざしたウェルビーイングの向上」が盛り込まれ、教育現場におけるウェルビーイングが注目されてきた。この背景には、教員の精神疾患による休職者の増加の実態がある。令和5年度の文部科学省による調査では、精神疾患による休職者は7,000人を超え、過去最高となった。具体的な数値は発表されていないが、この中には小学校の外国語専科教師や中学校・高等学校の英語教師も含まれている。英語教師は、指導に関する自己研鑽のみならず、自らの英語能力を高めて常に児童・生徒の前でロールモデルになろうとするあまりに燃え尽き(burnout)、「心の病」によって休職・退職に追い込まれるケースもある。
英語教師のウェルビーイングに影響を与える特有の要因としては、以下の点が挙げられる。第1に、児童・生徒やALTとの英語の「やり取り」を通した指導、英語使用への不安、文化的な相違の指導である。コミュニケーションを重視した指導においては、児童・生徒が主体的・自律的に活動に参加するような授業展開が求められるが、そのためには、教師に、膨大なエネルギーと創造的な授業づくりを行う高い力量が求められる。第2に、日本国内において英語を使用する自己の確立と英語話者のコミュニティーへの参加の低さが挙げられる。言い換えれば、教室において英語使用する必然性を設定すること、および外国の文化を取り入れようとする態度を醸成することへの難しさである。また、教師自身も英語母語話者の英語能力を持てないことへの不安や自信の低さが専門性や自己効力感を脅かしてしまい、バーンアウトを起こしている(Sulis, Mercer, Babic, &Mairitsch,2023)。第3に、国の外国語教育政策がある。文部科学省は、グローバル人材の育成を目標に掲げ、学習指導要領の改訂、および、それに伴う教員研修を実施してきた。さらに、すべての小学校・中学校・高等学校を対象に、平成25年度から「英語教育実施状況調査」を実施し、教師の英語運用力、生徒の英語運用能力(英検取得率)、英語を使った授業実施状況等を公表してきた。この調査は、本来,授業改善を目的としたものであったが,自治体ごとの結果が公表されたために、自治体間の競争を生み出す事態にもなり、このことが、英語教師には大きな重圧となっている。
(2)研究の目的
このように英語教師に独特なウェルビーイングを阻害する要因にも拘らず、高いウェルビーイングを持ちながら質の高い指導を行っている英語教師が存在していることも確かである。そこで,本プロジェクトでは、 英語教師のウェルビーイングの実態について、国際的な視点から明らかにし、日本の英語教師のウェルビーイングを向上させるための支援方法を提案することを目指す。具体的には、Seligman (2011)や前野(2013, 2017)に基づき、英語教師用の質問紙調査の開発し、国内外の英語教師に対して、質問紙調査(自由回答形式を含む)と半構造化インタビューを実施する。そして、データの量的・質的な分析に基づき、日本の英語教師が高いウェルビーイングを持って英語指導に当たるための研修や環境整備などの具体策を提案する。
データの収集方法として、日本国内の英語教師については、共同プロジェクト構成大学の卒業生や修了生を中心に、また、国外の調査対象者に関しては、共同研究者による英国での調査、視察として訪問予定のフィンランドでの調査、および研究プロジェクトチームのメンバーがこれまで指導した日本政府(文部科学省)の奨学金による教員研修留学生(パキスタン、マラウイ、ブラジル、コスタリカ、ガーナ等の英語教師)等に依頼し、質問紙調査とオンラインによる半構造化インタビューを行う。
期待される成果
プロジェクトの実施により期待される成果
近年の研究から、ウェルビーイングの高い教師は、(1)より創造的に教えること(Bajorek etal.,2014)、(2)教室内で児童・生徒とより良い関係を育むこと(DeVries & Zan,1995)、(3)高いレベルの学習を達成すること(Briner & Dewberry, 2007; Carprara et al.,2006)、(4)規律に関する問題を減らすこと(Kern et al.,2014)(5)児童・生徒のウェルビーイングを高め、心理的ストレスを低くすること(Harding et al.,2019)、(6)洗練された実践により、学習者の高い学力到達度を実現すること(Solarte,2021)、といった資質・能力が高い傾向にあることが明らかになってきている。教員の置かれた環境は、社会文化的および歴史的な相違はあるものの、国内外の英語教師のウェルビーイングの実態を明らかにすること、また、英語教師への質問紙及びインタビューによって英語教師特有のウェルビーイングを向上する要因を明らかにすることによって、日本の英語教師にウェルビーイングの向上に貢献できる提案が可能になると考える。そして、その提案が英語教師のみならず、すべての教師のウェルビーイングを向上させ、さらには、児童・生徒のウェルビーイングを向上にも寄与することが期待できる。
チーム構成員
※所属・職名等はプロジェクト開始年度4月1日時点です。
プロジェクトに参加する研究科教員
氏名 |
連合講座 |
大学 |
職名 |
役割分担(◎はチームリーダー) |
(チームリーダー) 大場 浩正
|
言語系教育 |
上越教育大学 |
教授 |
研究の総括,国内外の調査,アンケート・インタビューの実施,英語教師ウェルビーイングを向上させるための方策の検討 |
吉田 達弘 |
言語系教育 |
兵庫教育大学 |
教授 |
国内外の調査,アンケート・インタビューの実施,英語教師ウェルビーイングを向上させるための方策の検討 |
山森 直人 |
言語系教育 |
鳴門教育大学 |
教授 |
国内外の調査,アンケート・インタビューの実施,英語教師ウェルビーイングを向上させるための方策の検討 |
千菊 基司 |
言語系教育 |
鳴門教育大学 |
准教授 |
国内外の調査,アンケート・インタビューの実施,英語教師ウェルビーイングを向上させるための方策の検討 |
プロジェクトに参加する院生
氏名 |
配属大学・連合講座・学年 |
主指導教員 |
役割分担 |
サルバション 有紀 |
上越教育大学,言語系教育,3年 |
大場 浩正 |
アンケート・インタビュー実施補助,データ分析補助 |
二森 正人 |
兵庫教育大学,言語系教育,3年 |
吉田 達弘 |
アンケート・インタビュー実施補助,データ分析補助 |
宮崎 貴弘 |
兵庫教育大学,言語系教育,3年 |
吉田 達弘 |
アンケート・インタビュー実施補助,データ分析補助 |
プロジェクト研究員
氏名 |
配属・職名 |
推薦教員 |
役割分担 |
Andrzej Cirocki, Dr |
ヨーク大学・准教授 |
吉田 達弘 |
国外における研究動向の調査,英語教師ウェルビーイングを向上させるための方策 |
研究成果報告