平成21年度採択プロジェクト
- プロジェクトの名称
- 「伝統と文化」に関する教育課程の編成と授業実践の総合的研究
- プロジェクトの期間
- 平成21年4月1日~平成24年3月31日
プロジェクトの概要
平成18年12月に我が国における戦後約60年間の教育指針であった教育基本法が改正された。その教育目標のひとつとして、「我が国の伝統と文化を基盤として国際社会を生きる日本人の育成」が明記された。この教育基本法改正を踏まえて新しい学習指導要領の検討が中央教育審議会においてなされ、本年3月に文部科学省から新しい幼稚園教育要領、小学校学習指導要領及び中学校学習指導要領等が公示されたのである。この新学習指導要領では、「確かな学力、豊かな心、健やかな体の調和を重視する『生きる力』」の育成を理念として、伝統と文化に関する教育が重要な役割を有するものとされている。そして、学校教育の教育課程においては、国語科の古典、社会科の小学校歴史学習、中学校の地理・歴史・公民の三分野、技術・家庭の伝統的な生活文化、音楽科の唱歌・和楽器、美術科の我が国の美術文化、保健体育科の武道などの内容が充実事項とされている。平成23年度からは小学校、平成24年度からは中学校において新学習指導要領の内容に基づく伝統と文化に関する教育の具体化が切実な課題となる。この課題に対しては、国及び各自治体において先駆的に実践研究がなされている。例えば、平成17年度から東京都教育委員会では「日本の伝統・文化理解教育推進事業」が始まり、推進校(60校園)の幼稚園、小中高、特別支援学校において教育研究を進展させている。さらに、国立教育政策研究所の「我が国の伝統文化を尊重する教育に関する実践モデル事業」が、全国の小中高の研究推進校(100校程度)において実施されている。また、東広島市と静岡県島田市では地域の全小中学校において推進されている。高等学校においては平成19年度から都立学校における学校設定教科・科目として「日本の伝統・文化」、兵庫県では高校設定科目としての「日本の文化」が実践されている。また、平成20年度からは埼玉県の高校設定科目「伝統・文化」が始まっている。しかしながら、これらの先行研究は各推進校における実践研究に留まり、「伝統と文化」に関する教育の目標論としての学力形成の性格、教育課程の編成、授業実践の方法に関する理論的研究が着手されていない現状である。したがって、これらの先行授業事例を参考に我が国における「伝統と文化」に関する教育の実践研究を根拠づける理論的研究の推進が求められる。
- 日本と外国における「伝統と文化」に関する教育の教育課程と授業実践に関する資料収集とそのデータベースを開発する。
- 日本と外国における「伝統と文化」に基づく教育の授業実践の中からモデル授業実践を撮影し、デジタル映像記録を作成する。
- 日本における「伝統と文化」に関するモデル授業実践の授業内容と授業方法を歴史研究、理論研究、実践研究の方法によって解明する。
- 日本における「伝統と文化」に関するモデル授業実践に関与している学習者の学力を心理研究の方法によって解明する。
- 日本における「伝統と文化」に関する授業実践の研究成果を外国における調査研究成果と比較し、教育課程の編成と授業実践の共通性と相違性を解明する。
- 日本と外国における「伝統と文化」に関する教育課程と授業実践の研究成果を国内外の研究者と教育者による研究発表交流会を実施する。
- 日本における「伝統と文化」に関するモデル教育課程とモデル授業実践を開発する。
- 「伝統と文化」に関する教育の研究成果を図書として刊行をする。
期待される成果
本研究の期待される成果については、次のように指摘できる。
- 本研究では「伝統と文化」に関する教育の先行事例を収集し、データベースを開発するところに特色がある。また、既に開発しているウェブページに公開する予定であるので、伝統と文化に関する教育の研究情報を社会的共有システムとして活用することが期待できる。なお、将来的には授業実践の映像データベースの開発も可能になることが期待できる。
- 本研究では「伝統と文化」に関する教育を歴史研究、理論研究、比較研究、実践研究、心理研究の方法の総合的研究に基づくところに特色がある。したがって、過去、現在、未来という時間的関連と地域、日本、諸外国という空間的関連を視野に、教育実践の研究を推進できることが期待できる。
- 本研究では総合的な学習の時間における授業実践のみならず国語、社会、音楽、美術、体育、家庭などの各教科における授業実践も研究対象とするところに特色がある。したがって、教科指導における学力形成との関連も解明することが期待できる。
- 本研究では日本の「伝統と文化」に関する教育内容を外国(中国、韓国、米国、英国)における「伝統と文化」に関する教育内容と比較するところに特色がある。したがって、「伝統と文化」に関する教育が愛国心形成を意図するものと批判する見解を国際的視野から検討することが期待できる。
- 本研究では「伝統と文化」に関する教育研究の視点を踏まえて地域の学校との協力関連に基づくところに特色がある。したがって、教育研究の成果が地域における学校づくりと地域づくりを促進させることが期待できる。
- 本研究では研究者自身の専門領域を踏まえた教育課程と授業実践を開発するところに特色がある。したがって、専門領域の研究者が学校教育における教育課程と授業実践の研究と改革に関与することが期待できる。
- 本研究では研究成果を国内外の研究者と教育者との研究発表の場を設定し、研究成果を図書刊行によって公開するところに特色がある。したがって、研究成果が限られた研究者のみに提示されるのではなく、国内外の多くの人たちの関心を引き出すことが期待できる。
チーム構成員
プロジェクトに参加する研究科教員
氏名 | 連合講座等 | 大学
|
職名 | 役割分担(◎はチームリーダー) |
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(チームリーダー) 安部 崇慶 |
学校教育方法 | 兵庫教育大学 | 教授 | ◎研究総括 伝統と文化に関する 教育の歴史研究と比較研究 |
中村 哲 | 社会系教育 | 兵庫教育大学 | 教授 | 伝統と文化に関する教育の理論研究と比較研究 社会科教育関連の実践研究 |
佐藤 真 | 学校教育方法 | 兵庫教育大学 | 教授 | 伝統と文化に関する教育の比較研究、 総合的な学習に関連する実践研究 |
福本 謹一 | 芸術系教育 | 兵庫教育大学 | 教授 | 伝統と文化に関する教育の比較研究、 美術科教育に関連する実践研究 |
永木 耕介 | 生活・健康系教育 | 兵庫教育大学 | 教授 | 伝統と文化に関する教育の比較研究、 体育科教育の武道に関連する実践研究 |
山本 宏子 | 芸術系教育 | 岡山大学 | 教授 | 伝統と文化に関する教育の比較研究、 音楽科教育に関連する実践研究 |
西園 芳信 | 芸術系教育 | 鳴門教育大学 | 教授 | 伝統と文化に関する教育の比較研究、 音楽科教育に関連する実践研究 |
余郷 裕次 | 言語系教育 | 鳴門教育大学 | 教授 | 伝統と文化に関する教育の比較研究、 国語科教育に関連する実践研究 |
プロジェクト協力者
氏名 | 大学
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職名 | 役割分担 |
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浅川 潔司 | 兵庫教育大学 | 教授 | 伝統と文化に関する教育の心理研究 |
プロジェクトに参加する院生
氏名 | 配属大学・連合講座・学年
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役割分担 |
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大畑 健実 | 兵庫教育大学・社会系教育・D3 | 伝統と文化に関する教育の教育課程と授業実践の開発研究 |
プロジェクト研究員
氏名 | 配属・職名 | 推薦教員 | 役割分担 |
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リチャード ・ルービンジャー |
インディアナ大学・教授 | 中村 哲 | 伝統と文化に関する教育の歴史研究支援 |
沈 暁敏 | 華東師範大学・助教授 | 中村 哲 | 中国における伝統と文化に関する教育の調査 |
前原 敏雄 | 東広島市立 志和中学校校長 |
中村 哲 | 東広島市における伝統と文化に関する 教育の調査 |
張 東浩 | 全州教育大学校・助教授 | 中村 哲 | 韓国における伝統と文化に関する教育の調査 |
永添 祥多 | 西日本工業大学・教授 | 中村 哲 | 日本における伝統と文化に関する教育の調査 |
金 廷妃 | 京仁教育大学・教授 | 福本 謹一 | 韓国における伝統と文化に関する 教育の調査と教材の開発 |
アレキサンダー・ベネット | 関西大学・准教授 | 永木 耕介 | 韓国における伝統と文化に関する教育の調査 |
甲斐 純子 | 福岡教育大学・教授 | 山本 宏子 | 家庭科教育における「伝統・文化」に関する 教育課程の編成と授業実践 |
※職名は平成23年4月1日現在による。