平成21年度採択プロジェクト
- プロジェクトの名称
- 情動知能を育む教育「人間発達科」の新たな展開 -児童生徒の問題行動防止教育プログラムの開発に関する実践的・学際的・国際的アプローチ-
- プロジェクトの期間
- 平成21年4月1日~平成24年3月31日
プロジェクトの概要
近年,子どもたちのなかで,いじめ,不登校,学習意欲の低下,喫煙・飲酒・薬物乱用,性の逸脱行動,過食・拒食,自殺,少年犯罪など,深刻な問題が多発している。これらの問題は,対処療法が困難であるため,問題の発生そのものを未然に防ぐ一次予防が極めて重要である。そのためには,子ども自身が自分で自分を律する調整能力を身につけることと,他者と適切にかかわることができる対人関係能力の育成が欠かせない。近年,「情動知能」(Salovey & Mayer, 1990)として,注目を浴びている能力である。申請者らは,平成14年度から6年間,文部科学省研究開発学校指定を受けて,兵庫教育大学附属小学校に特設教科「人間発達科」を設置し,学習プログラムの開発をいった。それらの成果は,「情動知能を育む教育-「人間発達科」の試み」(ナカニシヤ出版,2006)と「子どもを伸ばす情動知能の育成」(明治図書,2008)の2冊の本として出版している。
「人間発達科」の授業で,子どもたちは,人間の発達を漠然と眺めるのではなく,自分と異年齢の他者がどのように違うのか,運動機能,言語,情動・社会性,認知・思考の各観点で観察することによって,発達についてより深く理解することができる。そして,児童が年少者と自分を比べることによって自分が発達してきたことに気付く。これは,児童の自己効力感や自尊感情を高めることになり,学習意欲の向上にもつながる。一方,年長者との比較は自分の発達の可能性を実感させ,将来の自分がそうありたいと願う自己像の明確化につながる。そしてそのような発達の違いを認識して,相手とかかわることで,適切な対人関係を築くことができると考える。また,低学年時に高学年の児童から優しくされ,養護される経験をたっぷり持った児童は,高学年になり養護する立場に立ったときに低学年に対して優しくかかわることができるようになる。それは,自分が低学年時に優しくしてくれた高学年児童がモデルとなっており,その時の嬉しい情動体験からどうしてもらったら嬉しいかを知っているからである。そして同時に,低学年から高学年の全ての子どもたちが,自分たちは,大切にされる存在であり,他者のために貢献できる存在であることを学ぶ機会にもなる。このようにして,自己と他者の情動変化に気づいたり,相手の情動を推しはかったり,情動の表出をコントロールしたりして,他者とかかわる能力が育まれるのである。
そこで,本研究では,上記の研究の成果を基盤として,兵庫教育大学大学院連合学校教育学研究科を構成する兵庫教育大学,上越教育大学,鳴門教育大学,岡山大学に在籍する研究者の学際的・国際的共同研究を行う。学習プログラムの内容を関連する周辺領域を包含して充実させるとともに,附属学校から一般の公立学校へ,小学校から中学校へ,特別支援教育へと発展させる。そして,アメリカ,カナダなどで実践されている「Social-Emotional Learning」(SEL)の学習プログラムの推進者との協議を行い,国際ワークショップを開催する。