平成22年度採択プロジェクト
- プロジェクトの名称
- 健康と適応を守る学校予防教育の国際比較研究 -独自性と共通性の探求から、新たな発展への模索-
- プロジェクトの期間
- 平成22年4月1日~平成25年3月31日
プロジェクトの概要
近年の子どもは、いじめや暴力で学校に適応できないケースや、うつ病、肥満等で心身の健康が著しく阻害されているケースが目立つ。この問題に対しては、不適応や病気罹患後の事後対応では不十分で、すべての子どもがこのような問題をもつ可能性があるとの前提で、学校適応や心身の健康を一次(ユニバーサル)予防的に維持、向上させる必要がある。これまで、この種の予防を学校場面での教育として実施される試みは散見されるが、科学的基盤をもって系統的、組織的にこの問題に対処する試みは不足しており、単発的また一部の学校での適用に限定され適用される現状は否定できない。この現況から、日本において、広範囲の学校で、継続的にこの種の予防教育を実施する必要があるが、そのための予防教育の内容や運用に関する知見は不足している。つまり、複数年にわたり毎週の授業として実施できる教育目標と方法の構築、そして、その実施者や実施時間の確保、実施者への研修や教材提供の問題を克服する必要がある。
そこで、本プロジェクトでは、日本の予防教育の現状を詳細に把握するとともに、この種の予防教育を様々なかたちで先行実施している諸外国の現状を詳細に把握することを始める。それらは、日本における上記のユニバーサルな予防教育の構築への重要資料となり、また、諸外国と日本の予防教育を比較検討することで、今後の発展への知見を得たい。その知見は、広範囲に長期継続的に実施される予防教育のコンテンツとその実施条件(時間や実施者等)の詳細に関連することになる。
このことから、本プロジェクトでは、日本の予防教育の現状と特徴の把握、欧米やアジアでの予防教育の現状と特徴の把握、両者の比較検討、そして、今後の在り方の構築から構成されることになる。海外では、アメリカ合衆国、カナダ、オーストラリア、ヨーロッパ諸国、中国等を主要対象国とし、実際の視察調査や文献調査はもとより、海外の研究者との直接的な意見交換(日本や海外での国際シンポ・専門家会議、国際学会でのシンポジウム等)という手段を講じたい。
本プロジェクトでは、4大学からの研究者のみならず、海外との交流経験の深い研究者も多数参加し、この点から上記の目標が十分かつ迅速に達成される可能性が高い。また、学校教員も研究員として参加していることから、学校での実践への寄与を眼目に置く本プログラムの特徴はたえず意識され、実効性のある教育への知見が蓄積されることになろう。
期待される成果
プロジェクトの実施により期待される成果
本事業の達成により、我が国ではこれまで単発的また非科学的に実施されていた、学校における適応・健康への予防教育の広範囲における継続実施のあり方が明示される。そこから、この種の予防教育の科学的な開発に必要な基礎研究と方法論の研究が導かれ、また同時に予防教育の統合化への理論構築への着手が始まる。このことから、これまでまとまりなく散発的に実施されてきた日本における予防教育の発展に多大な貢献がなされることが期待される。また、海外の研究者との共同で進められるこのプロジェクトでは、これまで欧米のプログラムに追随し、また海外にその特徴が知られていなかった日本の予防教育が海外の予防教育と対等に比較検討される。そこでは、相互に有益な情報を交換し、グローバルな見地から、予防教育を発展させる基盤が出来上がることが期待される。
このプロジェクトは、実際に広範囲の学校で長期間にわたり予防教育を実施することに寄与することが目的であるから、このプロジェクトの後にはその実践への試みが加速されることになろう。具体的には、市町村等の行政単位から都道府県の水準への実践移行が期待される。
また、教員養成系の大学でこのような試みを行うことは、将来教員となる学生に、この種の予防教育の重要性と開発・実践方法にふれさせる好機となる。さらに、この学生が教員になり、学校現場で活躍するプロセスにおいて、予防教育の普及の展開が加速されることが見込まれる。
このプロジェクトの進展の過程においては、研究者のみならず学校教員に、この種の予防教育の在り方と意義が様々な機会を通じて伝えられることになる。それは、シンポジウム、講演、研修会、著作、論文等の機会である。そのことにより同時に、現場でのこの種の教育への意義の理解と実践への機運の高まりがもたらされ、実際に予防教育の適用が円滑に行われる学校基盤が確立され始めよう。