平成23年度採択プロジェクト
- プロジェクトの名称
- 地域における理数教育活性化のための教員研修モデル・プログラムの開発・評価に関する教育実践学的研究
- プロジェクトの期間
- 平成23年4月1日~平成26年3月31日
プロジェクトの概要
問題の所在
PISA調査やTIMSS調査の結果から,我が国の理数教育の課題として,科学的・数学的な思考力・判断力・表現力等の育成にあることが示された。 他方,小学校で理科を指導する教員の教員の7~8割が自分自身の知識や経験が不足していると認識していることや,「子どもに仮説(予想)を立てさせるのが難しい」(66.6%),「野外での観察の指導法が分からない」(65.8%)等,指導力に関わる問題点が浮き彫りになっている(平成18年文部科学省の委託事業「わかる授業実現のための教員の教科指導力向上プログラム」報告書,2006)。プロジェクトに係るこれまでの成果
平成20年に告示された小学校学習指導要領解説理科編では,「児童は自らの予想や仮説に基づいて,観察,実験などの計画や方法を工夫して・・・」と述べ,子どもが見通しをもって探究的に理科の学習に取り組む上で「仮説」の重要性を指摘している。申請代表者は,Julia H. CothronのThe Four Question Strategyを参考に開発した指導法により,子ども自身に仮説を設定させて実験に取り組ませることにより,見通しをもって探究し,グラフをかいたり考察する力の育成に改善がみられることを実証的に明らかにしている(金子健治・小林辰至,The Four Question Strategy(4QS)に基づいた仮説設定の指導がグラフ作成能力の習得に与える効果に関する研究, 理科教育学研究,日本理科教育学会,印刷中)。また,仮説を考える思考において数学の好き嫌いが関与していることも明らかにしている(荒井妙子・永益泰彦・小林辰至,自然事象から変数を抽出する能力に影響を及ぼす諸要因の因果モデル,理科教育学研究,日本理科教育学会,第49巻第2号,pp.11-18,2008年)。さらに,理科・数学それぞれの科学的・数学的な思考力・判断力・表現力等を育成に関わる要素につ いても明らかにしている(小林辰至他,科学研究費補助金基盤研究(B)報告書「PISA型学力としてのコンピテンシー育成を目的とした統合カリキュラムの理論的研究」,2010)。
プロジェクトの研究仮説
現職教員研修プログラムとして,自然事象を因果関係でとらえ,関数を用いて思考する能力を育成するプログラム作成の原理・教材教具・教科書を開発し,実施することで教員の理数教育指導能力が改善されるとともに我が国の理数教育に係る諸課題の改善の手だてを示すことができる。
プロジェクトで取り組む内容
- 科学的な見方・考え方及び数学的な見方・考え方を育成するための要素を理科と数学のそれぞれの立場でマッチングを行い,教員研修プログラム開発の原理の大枠を決定する。
- Julia H. CothronがExecutive Directorを務めるMathScience Innovation Center(Richmond,Virginia,USA)の現職教員研修プログラムの各論の目的・内容・教材の現地調査を行う。また,Cothronらが提案している仮説設定のための思考法であるThe Four Question Strategyを活用した教材について聞き取り調査を行うとともに,日本での実践的試みの成果について情報交換を行う。
- 理科と数学のマッチングの成果及びMathScience Innovation Centerの調査結果を参考にしつつ,小学校教員及び中学校理科教員の科学的・数学的な思考力・判断力・表現力等の再開発及び問題解決能力育成を目的とした教科書とプログラムの開発を行う。
- 子どもに科学的・数学的な思考力・判断力・表現力等を育成できる実践的指導力の習得を目的とした研修を大学が中核となり県教育委員会・市町村教育委員会・学校現場等が連携して実施する仕組みを検討し新潟県で試行する。
- 研修プログラムの評価を行うとともに,問題点の改善を行う。
- 成果報告書の作成を行うとともに上越教育大学において成果報告のためのシンポジウムを開催する。
期待される成果
プロジェクトの実施により期待される成果
- 理科及び算数・数学を架橋する教員研修プログラム開発の原理が開発できる。
- 理科及び算数・数学を架橋する初等教育教員対象及び中等教育教員対象の教員研修プログラム及び教科書が開発できる。
- MathScience Innovation Centerの現職教員研修プログラムの現状把握とともに,日本で利用可能な教材の抽出及び開発ができる。
- 地域で教員研修プログラムを効果的に展開するための総合的なシステムの在り方をモデルとして具体的に提案できる。
- 報告書及びシンポジウムを通して我が国の理数教育の課題を解決する手だてを発信できる。
チーム構成員
プロジェクトに参加する研究科教員
氏名 | 連合講座 | 大学 | 職名 | 役割分担(◎はチームリーダー) |
---|---|---|---|---|
(チームリーダー) 小林 辰至 |
自然系教育 | 上越教育大学 | 教授 | ◎研究全体の統括 |
天野 和孝 | 自然系教育 | 上越教育大学 | 教授 | 地学教材の分析とプログラム及び 教科書の開発 |
久保田 善彦(~H25.3.31) |
先端課題実践開発 | 上越教育大学 | 教授 | 米国の関数の思考を要する数学・理科 教材の分析と日本への導入検討 |
長谷川 敦司 |
自然系教育 | 上越教育大学 | 准教授 | 自然系教育上越教育大学准教授物理教材の開発と研修プログラムの開発 |
本間 均(~H25.3.31) |
自然系教育 | 兵庫教育大学 | 教授 | 物理教材の分析と研修プログラム及び教科書の開発 |
松本 伸示 |
自然系教育 | 兵庫教育大学 | 教授 | 生物教材の分析と研修プログラム及び教科書の開発 |
松岡 隆 |
自然系教育 | 鳴門教育大学 | 教授 | 理科の関数を伴う内容と算数・数学の関数指導の関連付け及び体系化 |
曽布川 拓也 |
自然系教育 | 岡山大学 | 教授 | 理科の関数を伴う内容と算数・数学の関数指導の関連付け及び体系化 |
プロジェクトに参加する院生
氏名 | 配属大学・連合講座・学年 | 主指導教員 | 役割分担 |
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松本 榮次(~H25.3.31) | 兵庫教育大学 自然系教育・3年 | 松本伸示 | 関数指導の理数の関連付け及び体系化に対する子どもの実態からの助言 |
プロジェクト研究員
氏名 | 配属・職名 | 推薦教員 | 役割分担 |
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藤本 孝昭 | 新潟市立板倉中学校・校長 | 小林辰至 | 開発提案した研修プログラムに対する助言 |
※職名は平成25年4月1日現在による。