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project: N(H24~26) 社会科授業研究における教育実践学的方法論の構築と展開

project: N(H24~26) 社会科授業研究における教育実践学的方法論の構築と展開

  

平成24年度採択プロジェクト

プロジェクトの名称
社会科授業研究における教育実践学的方法論の構築と展開 -PDCAに基づく授業理論の有効性の検証と社会科授業研究スタンダード開発-
プロジェクトの期間
平成24年4月1日から平成27年3月31日まで

プロジェクトの概要

A.プロジェクトの背景

ア.学校における社会科授業研究の現状と課題

社会科授業研究は,学校教員の専門性開発の一翼を担って,学校で,あるいは学校区単位や都道府県単位で活発に行われている。そうしたなかで,学校における一般的な社会科授業研究の課題について,少なくとも次の4点を指摘することができよう。第1の課題は,授業構成論とその理論による授業計画を明示し,実践の事実にもとづいて理論を吟味・検証していく方法が,教員の間に十分には理解され習得されていないことである。第2は,授業研究が,実践する,あるいは観察する教員の多様な問題関心にもとづいて断片化していることである。授業研究は子どもの学びの実態を基本に,発問の仕方,学習集団や学習方法の組織の仕方,板書の仕方,資料の提示の仕方など授業を構成する要素をトータルに抱え込んだ研究として展開している現状がある。第3は,第1・第2の課題と関わって,授業研究が,学習方法や教授技術の研究に傾斜していることである。このことは,日本の学校教育が,学習指導要領により目標と内容を規定されて展開していることに影響されてのことでもあろう。第4は,教員の間で,複数存在する授業構成論を分類・整理し,子どもの学習の成立と教育目標の達成に対するそれらの有効性を比較・評価していく方法が共有されていないことである。

イ.課題に対する社会科教育学研究の応答

これまで社会科教育学研究は,上記の課題に対して主に2つの授業研究の方法論を提案することにより答えてきた。第1は,「授業開発研究」の方法論である。目標・内容・方法を貫く授業構成論を明示し,理論と授業モデル及び授業計画・実践とを結びつけて論理実証的に説明することが基本的な方法であるとした。第2は,「授業分析研究」の方法論である。実践の事実を確定し,その分析を通して授業構成論を抽出するとともに,実践と理論のズレを指摘し改善の手だてを論じることが基本的な方法になると説いた。「授業開発」と「授業分析」という方法は,授業研究に対する批判可能性を高め,その科学化に貢献してきた。他方で,学校教員の視点からは,開発研究について言えば,授業構成論にもとづく授業モデルの提案にとどまり,子どもの学びの実態や初等・中等教員それぞれの教育観,問題意識,あるいはキャリアステージの違いをふまえた授業の実践可能性を高めることには必ずしも貢献していないとの批判がある。また,分析研究についても,抽出された「優れているとされる理論」の有効性に関する検証の方法やエビデンスの提示が十分になされないことへの不満が述べられてきている。そして,社会科教育学研究が,授業研究を効果的に推進するための具体的な要件と評価規準を学校教員にも共有可能な形で提示できていないために,学校等の授業研究が汎用性のある研究へと発展していきにくいとの指摘もなされている。

ウ.プロジェクトの研究課題-社会科授業研究の教育実践学的方法論の構築-

今,社会科授業研究に求められているのは,授業開発と授業分析の2つの方法を基盤にしながらも,真に理論と実践,研究の目的・理念と教室のリアリティとを結ぶ授業研究の方法論,すなわち教育実践学的方法論を構築し,それにもとづく研究成果を蓄積していくことであろう。次の4つは,そのための主要な研究課題になるものと考える。
  1. 子どもの学習の特性の解明とそれをふまえた授業開発の手法の確立
  2. 研究レベルで提案された授業理論・モデルの,学校教員による実践への変換の論理の解明と具体的な手だての提案
  3. 授業理論の有効性を実証する授業評価の方法の構築
  4. 授業研究を推進するための参照点となる社会科授業研究の評価規準(スタンダード)の構成

B.プロジェクトの目的と方法

本プロジェクトでは,上記4つの研究課題を統合した研究目的を次のように定めた。社会科授業理論の有効性を実証するために,児童・生徒の社会認識発達の特性の理解を基盤にしたPDCA(Plan-Do-Check-Action)サイクルの授業研究方法論を提案するとともに,社会科授業研究スタンダード(試案)を構成することを通して,教育実践学としての社会科授業研究のあり方を示すことを目的とする。本研究の目的を達成するために,以下の方法を採る。
  1. 児童・生徒の社会認識発達の特性を明らかにするために調査とデータの分析を行う。
  2. 「社会認識力(事実判断・推論能力)育成型」・「社会的判断力(価値判断・意思決定力)育成型」・「批判的思考力育成型」・「方法知(社会的探究技能)育成型」の 4類型を措定し,授業構成論と学習評価論を明示した授業開発を行う。
  3. 開発した授業を試行し,授業評価を通して理論の有効性を検証する。
  4. 理論の有効性の検証をふまえて,授業改善の方法を定め改善し,授業を再試行する。
  5. (1)~(4)の方法の成果と課題を整理し,最終的に社会科授業研究スタンダード(試案)を構成する。

期待される成果

プロジェクトの実施により期待される成果

本プロジェクトの実施により期待される成果は,以下の5点である。これらは,上記5つの方法論に対応して引き出される。
  1. 授業開発の基盤になる児童・生徒の社会認識の発達特性に関する知見を得ることができる。これにより,教材の論理と児童・生徒の学習の心理とを結合させた授業開発と実践 への途を拓くことができる。
  2. 4つの授業類型に関する授業理論と授業モデルを提示することにより,学校教育における思考力・判断力・表現力等を培う社会科授業のバリエーションを広げることができる。
  3. 授業評価の方法を構成し授業実践に適用することを通して,学校現場に授業理論の有効性に関するデータを提供できる。
  4. 授業改善の方法を定め授業実践に適用することを通して,学校現場にPDCAサイクルにもとづく授業研究の具体的な方略を提示できる。
  5. 社会科授業研究スタンダード(試案)の開発により,学校現場における授業研究の方法に関する客観性と汎用性を確保し,相互批評が可能な授業研究を展開できる。

チーム構成員

プロジェクトに参加する研究科教員

氏名 連合講座 大学 職名 役割分担(◎はチームリーダー)
(チームリーダー) 梅津 正美 社会系教育 鳴門教育大学 教授 ◎プロジェクト全体の企画・総括 児童・生徒の社会認識発達の調査と授業開発方法の構成
原田 智仁 社会系教育 兵庫教育大学 教授 プロジェクト全体の助言・指導 社会科授業研究の評価規準の構成
關 浩和 社会系教育 兵庫教育大学 教授 初等社会の授業開発
米田 豊 先端課題実践開発 兵庫教育大学 教授 中等地理の授業開発
吉水 裕也 先端課題実践開発 兵庫教育大学 教授 中等地理の授業開発
茨木 智志 社会系教育 上越教育大学 教授 中等歴史の授業開発
桑原 敏典 社会系教育 岡山大学 教授 中等公民の授業開発

プロジェクト協力者

氏名 大学 職名 役割分担
井上 奈穂 鳴門教育大学 准教授 初等学習評価方法の構成と有効性の検証
伊藤 直之 鳴門教育大学 准教授 中等学習評価方法の構成と有効性の検証

プロジェクトに参加する院生

氏名 配属大学・連合講座・学年 役割分担
山内 敏男 兵庫教育大学・先端課題実践開発・D3 中等歴史の授業改善方法の構成と有効性の検証
菊池 八穂子 岡山大学・社会系教育・D3 初等社会の授業改善方法の構成と有効性の検証
祐岡 武志 兵庫教育大学・社会系教育・D3
紙田 路子 岡山大学・社会系教育・D3 小学校社会科の授業開発と評価
大西 慎也 兵庫教育大学・先端課題実践開発・D2

プロジェクト研究員

氏名 配属・職名 推薦教員 役割分担
森 才三 広島大学附属福山中・ 高等学校・教諭 關 浩和 中等歴史・公民の授業改善方法の 構成と有効性の検証
佐藤 章浩 鳴門教育大学附属小学校 梅津 正美 初等社会の授業改善方法の 構成と有効性の検証
加藤 寿朗 島根大学・教授 梅津 正美 児童・生徒の社会認識発達の 調査と授業開発方法の構成
峯 明秀 大阪教育大学・教授 吉水 裕也 社会科授業研究の評価規準の 有効性の検証
中本 和彦 四天王寺大学・准教授 原田 智仁 社会科授業研究の評価規準の 有効性の検証
Todd Kenreich 米国・タウソン大学・准教授 原田 智仁 米国との共同研究体制の構築 米国の社会科授業研究の動向調査の支援
權五鉉 韓国・慶尚大学校・准教授 梅津 正美 韓国との共同研究体制の構築 韓国の社会科授業研究の動向調査の支援
Nasution インドネシア・スラバヤ大学 ・講師 原田 智仁 インドネシアとの共同研究体制の構築 インドネシアの社会科授業研究の動向調査の支援
小谷 恵津子 奈良県橿原市立白橿中学校 米田 豊 中学校社会科地理的分野の授業開発と評価

※職名は平成26年4月1日現在による。

研究成果報告​

研究成果報告書(PDF)