project: S(H27~29) 災害で大切な人を亡くした子どもの教育・心理支援の指針-日本・中国・アメリカ・インドネシアにおける調査研究
平成27年度採択プロジェクト
- プロジェクトの名称
- 災害で大切な人を亡くした子どもの教育・心理支援の指針-日本・中国・アメリカ・インドネシアにおける調査研究
- プロジェクトの期間
- 平成27年4月1日~平成30年3月31日
チーム構成員
プロジェクトに参加する研究科教員
氏名 |
連合講座 |
大学 |
職名 |
役割分担(◎はチームリーダー) |
(チームリーダー) 冨永 良喜 |
学校教育臨床 |
兵庫教育大学 |
教授 |
◎研究統括 |
岩井 圭司 |
学校教育臨床 |
兵庫教育大学 |
教授 |
精神医学によるWEB項目精査分析考察 |
遊間 義一 |
学校教育臨床 |
兵庫教育大学 |
教授 |
WEB調査研究法の作成 |
有園 博子 |
学校教育臨床 |
兵庫教育大学 |
教授 |
WEB調査項目全体の項目精査分析考察 |
葛西 真記子 |
学校教育臨床 |
鳴門教育大学 |
教授 |
臨床心理学によるWEB項目精査・アメリカにおけるWEB調査担当 |
上村 弘子 |
生活・健康系教育 |
岡山大学 |
准教授 |
学校健康保健によるWEB項目精査・中国・インドネシアにおけるWEB調査担当 |
宮下 敏恵 |
学校教育臨床 |
上越教育大学 |
教授 |
臨床心理学によるWEB項目精査・日本におけるWEB調査担当 |
プロジェクトに参加する院生
氏名 |
配属大学・連合講座・学年 |
主指導教員 |
役割分担 |
瀧井 美緒 |
兵庫教育大学,学校教育臨床,3年 |
冨永 良喜 |
日本における面接調査の実施 |
大島 崇 |
兵庫教育大学,学校教育臨床,3年 |
有園 博子 |
データ整理と分析 |
戸口 太功耶 |
鳴門教育大学,学校教育臨床,3年 |
葛西 真記子 |
データ整理と分析 |
プロジェクト研究員
氏名 |
配属・職名 |
推薦教員 |
役割分担 |
寺戸 武志 |
心の教育総合センター・指導主事 |
冨永 良喜 |
心のケアに関する調査項目の作成精査 |
大谷 哲弘 |
岩手県立総合教育センター・研修指導主事 |
冨永 良喜 |
心のケアと防災教育に関する調査項目の作成精査 |
井上 真一 |
兵庫県稲美町立稲美北中学校・教諭 |
冨永 良喜 |
教育支援に関する調査項目の作成精査 |
沖川 克枝 |
兵庫県高砂市立高砂小学校・養護教諭 |
冨永 良喜 |
教育支援に関する調査項目の作成精査 |
吉 沅洪 |
立命館大学大学院応用人間科学研究科・教授 |
冨永 良喜 |
中国における調査研究の統括 |
定池 祐季 |
東京大学大学院情報学環 附属総合防災情報研究センター・特任助教 |
冨永 良喜 |
防災教育の調査項目に関する精査分析考察 |
植松 秋 |
いわき明星大学心理相談センター・専任カウンセラー |
冨永 良喜 |
心のケアの調査項目に関する精査分析 |
永浦 拡 |
兵庫県スクールカウンセラー |
冨永 良喜 |
心のケアの調査項目に関する精査分析 |
※職名は平成27年4月1日現在による。
プロジェクトの概要
プロジェクト研究の概要
災害で大切な人を亡くした子どもの教育・心理支援の指針として、わが国では「災害や事件事故発生時の子どもの心のケアのガイドライン」(文部科学省,2010)が作成されている。そのガイドラインでは、PTSDの予防・対応として「トラウマを思い出させるきっかけをつくらないようにする」と記載されている。しかし、避難訓練や防災学習は災害体験を思い出させるトリガーになる。ところが、余震や次の災害に遭遇したとき、命を守る防災教育は不可欠である。「学校防災マニュアル作成の手引き」(文部科学省,2012)には心のケアの章はあるが、災害後どのような時期にどのように避難訓練を実施したらよいか、心のケアの観点をとりいれた避難訓練の記載はなく、心のケアと防災教育を融合した学際的研究が必要である。
世界の動向として、アメリカでは、災害にあった全ての子どもに心理的応急法(National Child Traumatic Stress Network and National Center for PTSD,2006; Psychological First Aid;PFA)が適用されている。しかし、PFAには災害後どのように防災教育を実施すればよいかの記載はない。インドネシア・アチェでは、2004年12月のインド洋大津波の被災により傷ついた子どもの支援として世界教職員組合(EI)の企画として、トラウマカウンセリングと学校再建プロジェクトが2005年に実施され、研究代表者(冨永)はそのプロジェクトのメンバーとして参加した。アチェは厳格なイスラム教徒の地であり、宗教と文化を考慮しない西欧からのプロジェクトは受け入れられなかったと現地の心理学者は語った。中国では、四川大地震後に、国際的な支援を中国政府が受け入れたことにより、日本をはじめ世界各国からの心理支援の理論と方法が提案された。研究代表者は、JICA四川大地震こころのケア人材育成プロジェクトの教育班のリーダーとして、2008年から2014年まで中国の教育関係者や心理学の研究者と教育・心理支援の理論と方法を構築してきた。 日本や中国とアメリカでは、心理支援の専門家の数も教師の役割も異なる(冨永,2014)。そのため、西欧のモデルを参考にしながらも、独自の子どもの教育・心理支援システムを構築する必要がある。
東日本大震災から1ヶ月後に岩手県教育委員会は「心とからだの健康観察」の8年計画を作成した。本研究代表者は、岩手県教育委員会・いわて子どものこころのサポートチーム・スーパーヴァイザーとして、その作成を助言してきた。また本分担研究者(岩井)は、教職員のメンタルサポートの助言を行ってきた。避難訓練や防災学習にて体調を崩す児童生徒がいる一方、避難経路を事前にクラス単位で散策する、避難訓練時に起こりうる心身反応とその対処について事前に伝え落ち着くための方法を練習するなど、心のケアの理論と方法と取り入れた教育実践がなされていた。また、阪神淡路大震災で、児童生徒が亡くなった学校では20年を経ても語り継ぐ防災教育が実践されてきている。
そこで本研究プロジェクトの目的は、国際的研究により、災害後の子どもの教育・心理支援の指針作成をすることである。中国・アメリカ・インドネシア・日本で、災害で大切な人を亡くした子ども(すでに成人になっている)及び子どもの支援に携わってきた教師と心理士の聞き取り調査やWEB調査により、不適切な大人やクラスメイトのかかわり、防災教育の望ましいあり方、さまざまな有効な支援、保護者支援のあり方、教師・カウンセラーなど支援者の支援をあきらかにし、災害後の教育・心理支援の指針を作成する。なお、本研究での「大切な人」とは、親・きょうだい・祖父母などの家族やクラスメイトや教師など子どもにとって身近な存在である人をいう。
期待される成果
プロジェクトの実施により期待される成果
本プロジェクトを実施することにより、日本、中国、アメリカ、インドネシアにおける災害後の急性期から中長期に渡る子どもの望ましい教育・心理支援のあり方の指針が作成される。その指針では、各国共通に望ましい支援と、各国の宗教や文化などその地域に応じた望ましい支援のあり方を分けて整理する。急性期の支援チームの望ましい活動のあり方、中長期のトラウマケアのあり方、追悼のあり方、語り継ぐ防災教育のあり方などがあきらかになる。それらをホームページにて公開し情報を発信することで、今後起こりうる災害において、事前にどのような準備が必要か、災害後にどのような活動が必要かを知ることができる。
研究成果報告
・研究成果報告書として「災害後の時期に応じた子どもの心理支援―被災体験の表現と分かち合い・防災教育をめぐって-」(誠信書房)が出版されました。